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G空間EXPO 2014:講演会レポート

2014年12月05日
準天頂衛星システム講演会(QZSS産学官利用拡大プラットフォーム会議)

2014年11月13〜15日の3日間、日本科学未来館で「G空間EXPO2014」が開催されました。このイベントは2010年から数えて第4回目の開催となり、初日の13日に同館7階の未来館ホールで、内閣府主催による「QZSSプラットフォーム会議」と題した産学官関係者による講演会を開催しました。当日の講演要旨を紹介します。

7機体制で持続測位可能

内閣府宇宙戦略室 田村栄一企画官

まず主催者を代表して内閣府宇宙戦略室の田村栄一企画官が登壇し、準天頂衛星システムの概要と最新状況を解説しました。
田村企画官は、「衛星測位は4機の衛星が可視であることが必要」とし、市街地での測位はビル壁面からの反射によるマルチパス(伝搬経路が異なる電波を同時に受けてしまう)の影響で利用できない衛星があり、衛星の数を増やして高仰角で見える衛星が増えれば解決可能で、準天頂衛星はGPSと一体で利用できる、と説明しました。
また、「各国の衛星測位システムの中で日本の準天頂衛星システムだけがGPS互換で、米国との調整の結果、同じ電波を出せることになり、受信機が普及しやすい」とメリットを示し、今後10年程度の目標を「まずは2018年に4機体制を整備し、その後は7機体制で持続測位を実現」としました。

準天頂衛星システムの概要と最新状況の解説

また、「準天頂衛星で正確な経緯度がわかるようになっても、地図の精度が低ければ自分がどこにいるかはわからない。これではスーパーカーに未舗装道路を走らせるようなもの」として、4機体制の運用が始まる2018年までに高精度測位に呼応する高精度な地図が整備されることに期待すると述べました。

測位とメッセージ機能の両機能を備える

日本電気株式会社 小川秀樹氏

続いて日本電気株式会社の小川秀樹が、地上システムと衛星システムからなる総合システムの最新状況を解説しました。
4機体制では、現在運用中の初号機に加え、2機を準天頂軌道に配置し、3機の準天頂衛星が仰角20度以上の位置に16時間、60度以上には8時間とどまることになると解説。加えて1機を静止軌道上(東経127度)に置くことで、日本を中心としたアジア・オセアニア地域での準天頂衛星システムの測位利用が可能となるとしました。
加えて、測位信号のほか、メッセージ関連として「災害・危機管理通報サービス」と「衛星安否確認サービス」を備え、携帯端末との直接のやりとりが可能である点も解説しました。

地上システムと衛星システムからなる総合システムの最新状況講演風景

ユーザー会などで積極的な利用拡大活動

日本電気株式会社の神藤英俊は、QSSを通じた利用拡大活動を報告しました。
「QSSにとって、システムの設計検証・運用維持のほか、利用拡大・推進も大事な事業」として、「情報収集と発信」「利用実証の推進」「アジア太平洋地域への利用拡大」を3本柱と考えているとしました。
情報発信はウェブサイトを核としながら、関係者間の情報交換の場として準天頂衛星システム利用者会(QSUS)を組織したことや、シンポジウム、アプリコンテストなどの主催イベントや、「みちびき」からの災危通報をトリガーとしたロボットカーコンテスト、災害時に飲料を無料にする自動販売機との連携実験、地図アプリを組み合わせた避難訓練など、さまざまな活動を行っている点にも触れました。

GPSを「ロケーションセンサ」と位置づけ製品を企画

セイコーエプソン株式会社 寺島真秀氏

続く第2部では、高精度の測位システム利用への期待について、各ユーザーが語りました。まず、『WristableGPS開発と準天頂衛星がもたらす測位精度向上への期待』と題して、セイコーエプソン株式会社の寺島真秀(まほ)氏が登壇しました。
10年以上にわたる測位製品への取り組みを振り返り、独自技術による高性能測位チップを内蔵した最新の準天頂衛星対応腕時計「WristableGPS」を紹介しました。GPS受信環境の良くない都市部の中層マンション地域や、空が開けたアウトドア地域などで公式距離と腕時計による計測結果を比較し、高い精度で距離計測が実現していることをアピールしました。
「測位をロケーションセンサと位置づける」という同社の取り組みとして、加速度センサと測位データからランナーのストライドを解析し、トンネル内や屋内でも正確な距離計測が可能になっている事例や、衛星電波が途絶えた環境でも走行ペースが正確に把握できる技術などについても紹介しました。

システム構築からサービス提供まで行える人材を育成

東京海洋大学 久保信明准教授

続いて東京海洋大学の久保信明准教授が『GNSS測位技術の現状と人材育成』について報告しました。
久保准教授はまず、高層ビルの多い都心部を走行し、100ドル程度の準天頂衛星対応受信機でのログをGoogleマップ上に投影した時、すでに車線レベルで実際の走行記録と一致している現状を報告。さらに都心部で準天頂衛星の電波を利用することで、RTK測位によるFIX率が10%程度向上するなど、効果絶大であるとしました。
さらに同大学と東大、慶応大による衛星・防災関連人材育成の取り組みについて、育成のターゲットを「個別の技術に理解がありつつ、システム構築からサービス提供まで行える人材」として、そのプロセスに大学横断的な毎月のワークショップや、海外複数大学との実験的な教育・演習プログラムを挙げました。

無人ビークルの「3D」業務への展開に期待

ヤマハ発動機株式会社 今井浩久氏

ヤマハ発動機株式会社の今井浩久氏は、『ヤマハ無人ビークルのご紹介とQZSSへの期待』として産業用無人ヘリコプターを発端とした無人車や無人艇の活用事例を紹介しました。
農薬散布のためラジオコントロール方式で使われてきた産業用無人ヘリコプターが、指定地点間を衛星測位により自動飛行するウェイポイント追従が可能になった例に触れ、無人車では警備・監視などのセキュリティ用途、埋立地の測量、果樹園防除などに試作開発品が用いられた例や、探査測量に無人艇が利用された例などを紹介しました。
特にダム貯水池の堆砂量の調査など、単純作業ながら長時間の集中を人間に強いる現場で大きなメリットがあると強調。3Dと呼ばれるDanger(危険)、Dirty(悪環境)、Dull(退屈)な作業環境の改善に、衛星測位を用いた無人ビークルが大きく貢献できると期待を語りました。

独自開発の精密測位「MADOCA-PPP」

宇宙航空研究開発機構(JAXA) 野田浩幸氏

最後は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の野田浩幸氏が『準天頂衛星初号機みちびきの活動状況』と題してGPSの補完効果や補強効果の実例を紹介しました。
運用状況は、2011年6月22日のアラートフラグ解除以来、サービスアベイラビリティ(GPS補完信号の提供時間率。2014年9月30日まで)は、仕様値95%以上に対して計測値98.88%と要求値を満たした状態で運用継続中と報告しました。
さらに、JAXAが開発したMADOCA-PPP(地上基準点によらない精密測位。高精度単独搬送波位相測位)の応用例として、農機や電気自動車の自動走行、津波計測用ブイなどを紹介。同方式によるリアルタイム軌道決定精度向上に向けた改善検討を継続中としました。

野田浩幸氏講演風景

なお、当日の発表資料は、一部を除きQSUS会員ページからダウンロードできます。

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