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準天頂衛星利用拡大アイデアソン:開催レポート

2013年12月10日

「こんな使い方をしてみたいな!」を具体化する準天頂衛星利用拡大アイデアソンの試み

2013年12月10日、東京・秋葉原UDXギャラリーNext-2で「準天頂衛星利用拡大アイデアソン」が開催されました。
アイデアソンとは「アイデア」と「マラソン」を合わせた造語で、テーマを決め、グループ単位でアイデアを出し合ってまとめていくイベントのこと。今回のアイデアソンでは、2018年に本格運用を始める日本版のGPS、準天頂衛星システムのサービスをより多くの方々に活用してもらうため、その利用アイデアを自由に出し合いました。
業種もさまざまな40人の参加者たちが7チームに分かれて、それぞれ自由に意見を出し合った約5時間に及ぶアイデアソン。そこで交わされた議論の一端をご紹介します。

7年後に自分が幸せ、喜び、楽しさを感じているシーンをイメージする

イベントのまとめ役(ファシリテーター)として参加者のアイデア出しを後押しするのは、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦准教授。アイデアソン、プログラマの開発イベントであるハッカソンを数多く経験し、近年はNASAやJAXAと連携して世界地図づくりのイベントなども主宰するマップコンシェルジュ株式会社の古橋大地代表取締役社長もゲストスピーカー兼ファシリテーターとして参加しました。このほかにも、ファシリテーションを行うスタッフ、準天頂衛星システムの開発の最前線に立つ技術解説員など、多彩なスタッフにより、アイデアソンは運営されました。

慶應義塾大学大学院の神武直彦・准教授

神武准教授

マップコンシェルジュ株式会社の古橋大地・代表取締役社長

古橋代表取締役社長

オープニングに続いて参加者たちに投げかけられたのは、「7年後に新たな測位サービスを利用してあなたが幸せ、喜び、楽しさを感じているのはどのようなシーンでしょう?」という問いかけ。神武准教授からは、「1. 見たことも聞いたこともないこと」、「2. 実現可能であること」、「3. 物議を醸すこと」の3点がシーンの必須条件として示されます。
7チームに分かれた参加者たちは、この問いかけをもとにチーム毎に討議してアイデアを出し合います。多様なアイデアを創出するため、どのチームにも社会人と学生をミックスするよう、あらかじめチーム分けが行われていました。

問い:7年後に新たな測位サービスを利用してあなたが幸せ、喜び、楽しさを感じているのはどのようなシーンでしょう?

イノベーションを起こせるアイデアの必須条件とは? 1. 見たことも聞いたこともないこと、2. 実現可能であること、3. 物議を醸すこと

神武準教授のプレゼンテーション

自己紹介の準備をする参加者たち

短時間でできるだけたくさんアイデアを出そう

本格的な討議の前に、まずは自己紹介です。1枚の紙を9等分してマトリックスをつくり、自分の名前(ニックネーム)を中心に据え、その周囲を、気になること、マイブーム、びっくりな出来事、宇宙で思いつく単語、準天頂で思いつく単語、好きな宇宙映画、好きな場所、好きな携帯アプリの8つの言葉でマス目を埋めます。それを持って、チーム内で1人1分ずつ自己紹介を行うのです。1分という限られた時間の中で順番に自分のことを話すうちに、チーム内の緊張も解けて話しやすい雰囲気になっていきます。この自己紹介が終わったところで、話し合って自分たちのチーム名を決めました。

自己紹介のための「Intro Matrix」に書き込む要素

「Intro Matrix」を使って自己紹介する参加者

「Intro Matrix」を使って自己紹介する参加者

「Intro Matrix」を使って自己紹介する参加者

にこやかに自己紹介する参加者

次がアイデア創出の時間です。「シゴト」「アソビ」「クラシ」に関わる準天頂衛星の利用方法を、まず10分間、個人個人で書き出します。次の10分でそれを隣り(あるいは正面)の人と共有し、アイデアを広げます。
さらに次の10分で、グループ毎に各自のアイデアを付せん紙に書き込んで、大きな模造紙に貼り付けていきます。どんどん貼り付けられる数多くのアイデア。中には40個以上のアイデアを出したグループもありました。
こうして出し合ったアイデアを、縦軸と横軸を引いた表にまとめて整理します。縦軸の基準は「生活へのインパクト」、そして横軸の基準は「実現可能性」です。
たとえばチーム「ルービックキューブ」の「自動駐車」というアイデアは、生活へのインパクトは「多少あり」、実現可能性は「中程度」。チーム「アニマル」のアイデア「ゴミ収集の時刻モニター」は、生活へのインパクトも実現性も「共に高い」といった具合です。
並行して、同じカテゴリーのアイデアをまとめたり、新しいアイデアを追加したり、複数のアイデアを分類したりという作業も行います。こうしてチーム毎にアイデアを整理した模造紙を壁に貼って、休憩時間中に全員でアイデアを共有しました。

アイデアを考える参加者たち

付箋にアイデアを書き込み、グループで検討する様子

アイデアを書き込んだ付箋

付箋にアイデアを書き込み、グループで検討する様子

アイデアをどんどん発展させてみよう

次に行ったのは、「構造シフト発想法」という方法でアイデアを拡大していくことです。「実現性の低いアイデアの実現性を高くするにはどうしたらいいか?」といった感じに、ひとつひとつのアイデアについて、縦軸の「生活へのインパクト」を高め、横軸の「実現可能性」を高める方法を考えていきます。
たとえばチーム「オールジェネレーションズ」は、「登山ルート案内」というアイデアの生活へのインパクトを高めるために「季節感のあるイベントと組み合わせては?」というアイデアを生み出しました。チーム「ミチビク」は、「社会インフラとして利用する」アイデアを、「専用エリアを設定する」ことで実現可能性を高くできると考えました。
こうして拡大したアイデアの中から、各チームひとつずつ選んで、そのアイデアの対象者や提供者などのステイクホルダー(利害関係者)を書き出します。それをもとに、アイデアを発表するためのシナリオづくりに着手していきます。
発表方法は、問いません。読み上げるだけでも、寸劇でもかまいません。いちばん効果的だ!と思う方法を選んで発表します。各チームともさまざまなワークを行って十分に馴染んできたせいか、短時間でもスムーズに作業が進行していきます。どのチームも、余裕すら感じられるほどでした。

参加者に向かいコメントする内閣府の田村企画官

2軸図による構造シフト発想法について説明する神武准教授

アイデアを書き込んだ付箋を模造紙に貼る参加者

付箋を貼った模造紙を見ながらアイデアを検討する参加者

付箋を貼った模造紙を見ながらアイデアを検討する参加者

付箋を貼った模造紙を見ながらアイデアを検討する参加者

付箋を貼った模造紙を見ながらアイデアを検討する参加者

マジックでアイデアを模造紙に書き込んでいく様子

グループ内で討議する参加者たち

各チームのアイデアを紹介しよう

こうして発表されることになった各チームがまとめあげたアイデアはどんなものか、簡単に内容を紹介していきましょう。

チーム「アニマル」のメンバー

チーム「アニマル」のアイデアシート

●チーム「アニマル」

チーム「アニマル」のみなさん。最初に発表するだけでも緊張するはずなのに、すばらしい寸劇(スキット)を見せてくれました。大物政治家とシステムエンジニアが偶然、エレベーターで一緒になったという設定で、交通事故のリスクを減らすためにログの記録義務づけを提案し、「神武賞」を受賞しました。

チーム「トラベラーズ」のメンバー

チーム「トラベラーズ」のアイデアシート

●チーム「トラベラーズ」

旅行好きが集まったチーム「トラベラーズ」のみなさん。旅行や観光、レジャーに関連したアイデアをたくさん出し、ステイクホルダーを分析した図表をもとに、「トラベルフォトサービス」の説明を行いました。旅行者の位置情報から画像を収集・自動撮影し、アルバムにまとめるというものです。

チーム「JunJun」のメンバー

チーム「JunJun」のアイデアシート

●チーム「JunJun」

チーム内に「ジュン」さんが2人、さらに「準」天頂衛星に引っかけてチーム名は「JunJun」に決定。表を見せながら、天気情報や作付けのアドバイスを行う小規模農家向け「GPSクワ」のアイデアをプレゼンし、みごと「古橋賞」を受賞しました。

チーム「ルービックキューブ」のメンバー

チーム「ルービックキューブ」のアイデアシート

●チーム「ルービックキューブ」

チーム名は「バラバラなものが次第に揃っていく」ことから付けたそうです。屋内測位・ナビゲーションのアイデアを、ショッピングセンターでの出来事をシミュレーションした寸劇の形で披露しました。

チーム「あまちゃん」のメンバー

チーム「あまちゃん」のアイデアシート

●チーム「あまちゃん」

準天頂衛星とは直接関わりのない人が多かった「あまちゃん」チーム。その分、バラエティ豊かなアイデアを出しました。AR技術や翻訳機能と組み合わせた位置情報サービスを使って、2020年の東京オリンピックにやってくる海外選手との交流を寸劇で紹介。

チーム「ミチビク」のメンバー

チーム「ミチビク」のアイデアシート

●チーム「ミチビク」

準天頂衛星初号機「みちびき」にちなんで名付けた、チーム「ミチビク」のみなさん。位置情報を利用したエンターテインメント系イベント「みちびきコン」による町おこしのアイデアを紹介しました。

チーム「オールジェネレーションズ」のメンバー

チーム「オールジェネレーションズ」のアイデアシート

●チーム「オールジェネレーションズ」

さまざまな世代が揃ったチーム「オールジェネレーションズ」のみなさん。4名のチームでしたが、全世代に共通の健康に関するアイデアをたくさん出していました。発表も、各世代に応じた位置情報によるケアサービスを、それぞれの世代を代表するプレゼンターが使い勝手を語るという形の寸劇で紹介。

チーム「オールジェネレーションズ」の発表の様子

ホワイトボードを使っての発表

グループでの発表風景

発表する参加者

発表する参加者

ガッツポーズをする参加者

各チームの発表が終わり、とても和気あいあいとした雰囲気の中で、ファシリテーターの神武准教授、ゲストスピーカの古橋社長、そして内閣府宇宙戦略室の田村栄一企画官、JAXA衛星利用推進センターの武藤勝彦主任開発員らによる講評が行われました。
オープニングのトークセッションで神武准教授は、今回のアイデアソンのゴールを「楽しい気持ちになること」「友達になること」「準天頂衛星イノベーションの気付きを得ること」の3つに設定しました。アイデアソンの最後にそのゴールをもう一度振り返って考えることで、5時間にわたったアイデアソンは終了しました。

JAXAの武藤勝彦主任開発員

JAXAの武藤勝彦主任開発員

アイデアソン終了後のコメント

慶應義塾大学大学院の神武直彦准教授

神武直彦(慶應義塾大学大学院 准教授)
これまでずっと準天頂衛星に関わってきましたが、これからは実証実験からサービスやビジネスに利用する段階に入ってきています。その点から言えば、今回のアイデアソンはユーザー同士が深い議論を行うためのよいスタートになりました。もちろん、今日一日だけのイベントでは意味がありません。今後も、種をまくようなイベントを行っていく必要があるでしょう。その時は準天頂衛星に直接関係のないエンドユーザーや、準天頂衛星を使ったサービスを提供する側の人々にも参加してもらえると、より面白いアイデアが出てくるのではないかと思います。

マップコンシェルジュ株式会社の古橋大地・代表取締役社長

古橋大地(マップコンシェルジュ株式会社 代表取締役社長)
NASAとの共催でアイデアソン、ハッカソンを主催したことが縁で、今回のアイデアソンに協力させていただきました。今回のイベントは、他のアイデアソンに比べると、時間をかけたものでした。もっと短い時間で、座らずに討議するアイデアソンもあります。今回出されたアイデアの中では、チーム「あまちゃん」の「動かなくなった人を検知して救命する」アイデアが面白いと思いました。位置情報といえば、当然のように「動く」ことを前提に考えていたので、新鮮に感じました。

内閣府 宇宙戦略室の田村栄一企画官

田村栄一(内閣府 宇宙戦略室 企画官)
今回初の試みでしたが、思ったよりいろいろなアイデアが出てきて驚きました。
旅行とか街おこしというような必ずしも位置情報だけでないアイデアは面白かったですし、野生動物の管理に利用する、といったアイデアなどは宇宙の専門家だけで考えても出てこなかったでしょう。
ただ、GPSだけでも実現できる、つまり今日でも実現できるアイデアも見受けられましたが、それが現在ビジネス化されてないことを考えると、何かの課題があるのだと思います。
我々の説明不足なのでしょうが、GPSだけでは課題があることや準天頂衛星の特性といった点をもっと理解してもらう必要があると感じました。
今後もアイデアソンやシンポジウムなど、さまざまなイベントを通じて準天頂衛星を周知していきます。

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