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[報告]「ぼうさいこくたい2025 in 新潟」でみちびきに関する講演会

2025年11月04日

日本最大級の防災イベント「防災推進国民大会(通称:ぼうさいこくたい)」が2025年9月6~7日の2日間、新潟県新潟市の朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンターで開催されました。第10回となる今回は「語り合い・支え合い~新潟からオールジャパンで進める防災・減災~」をテーマとして産学官民の関係者が日頃から取り組んでいる防災活動を発表し、交流を行いました。
内閣府宇宙開発戦略推進事務局は初日である9月6日のセッション「宇宙からの防災・減災を目指す ~リモートセンシング、準天頂衛星システムの積極的な活用~」を主催して、みちびきや地球観測衛星等の人工衛星によるサービスを活用した防災や減災、災害復旧などの取り組みについて専門家が発表や議論を行いました。この模様をアーカイブ配信にてご紹介します。

・日時(場所):9月6日(土)10:30~12:00(2階 中会議室 201A)
・主催:内閣府宇宙開発戦略推進事務局
・登壇者:
 三上建治(内閣府宇宙開発戦略推進事務局 参事官/準天頂衛星システム戦略室長)
 和田弘人(内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 企画官)
 嶋津恵子(事業創造大学院大学 教授/開志創造大学 情報デザイン学部 教授)
 川北史朗(JAXA 第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター 技術領域主幹)
 外山茂浩(長岡工業高等専門学校 副校長(教務主事)、電子制御工学科 教授)
 鈴木弘二(株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル 上席理事/アジア防災センター プロジェクトディレクター)


冒頭、内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の和田弘人企画官が、リモートセンシングや衛星測位、衛星からのメッセージ配信など人工衛星を利用した宇宙サービスが災害時や災害復興時の状況把握や対応判断に必要な情報と親和性が高い点を周知し、多方面で活用機会を検討するきっかけを提供することが目的であると説明し、セッションがスタートしました。

防災分野でのリモセン活用&リモセンに関する政府動向
内閣府 三上参事官
三上参事官

最初に内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)が、防災分野でのリモートセンシングの活用とリモートセンシングに関する政府動向を説明しました。地球観測衛星のデータは大規模な災害が発生した時に速やかに被災状況を把握することができ、CO2等の排出・吸収状況を観測するなど地球温暖化対策への貢献も期待されます。三上参事官は、リモートセンシングのデータは近年オープンになりつつあり、測位衛星や通信・放送衛星と組み合わせることで社会に役立てるためにも、宇宙データを活用して世の中を良くしていきたいという挑戦者を応援していくと語りました。

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防災分野でリモートセンシングを測位衛星や通信・放送衛星と組み合わせる

講演風景-01

講演の様子

JAXAが取り組む防災活動の紹介
JAXA 川北氏
JAXA川北氏

次に宇宙航空研究開発機構(JAXA)第一宇宙技術部門 衛星利用運用センターの川北史郎氏が登壇し、JAXAが取り組むリモートセンシングを活用した防災活動を紹介しました。川北氏はJAXAが運用する陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」を紹介し、現在運用されているALOSシリーズ(2号・4号)を活用して災害時に被害の状況を緊急観測するための防災利用実証の概要や防災関連機関との連携体制を説明しました。さらにALOSの観測データを活用した浸水被害域や建物被害の自動抽出、津波浸水被害域の推定などの取り組みも紹介しました。

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「だいち」を活用して災害時に被害状況を緊急観測する仕組み

講演風景-02

講演の様子

みちびきの防災分野への活用可能性について
内閣府 和田企画官
和田企画官

続いて内閣府宇宙開発戦略推進事務局の和田企画官が、みちびきの防災分野への活用可能性について講演しました。和田企画官はみちびきのメリットとして、災害発生後の応急・復旧時において地上の通信設備の状況に左右されず、一人一人が宇宙からのデータを直接受信できることで被災地でも使える点を挙げました。例えば被災地でドローンの自律飛行による支援物資の輸送やインフラ復旧を行うには高精度な位置情報が必要であり、二次災害を防ぐには災害リスク情報の伝達も必要となります。みちびきであれば地上の通信設備を介さずにこれらの作業をサポートできるとして、災害時に上手く活用するためにも平常時からシステムに組み込んで活用することが必要だとしました。その一例としてSLAS(サブメータ級測位補強サービス)を活用した「水道メーターナビゲーションシステム」(KIS株式会社)や、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)に対応したスマートフォン一体型受信機「LRTK Phone 4C」(レフィクシア株式会社)を紹介しました。

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防災分野でみちびきを活用するメリット

災害危機通報を中心とした実証実例紹介
事業創造大学院大学 嶋津教授
嶋津教授

新潟市にある事業創造大学院大学の嶋津恵子教授は、みちびきの災危通報(災害・危機管理通報サービス)を中心とした実証実例を紹介しました。嶋津教授は東日本大震災で救命率が低かった原因の一つに通信の断線を挙げ、防災行政無線の中継局が被害を受けた際にみちびきによる中継のフォールバック化が有効であるとして、発災直後の減災にみちびきのメッセージサービスが強力に貢献できるとの期待を寄せました。みちびきのメッセージサービスを活用した実証事例として、被災者の居場所によって避難指示を変える実験や、時刻によって到達する災害が変わる場合に通報内容も変える実験などを紹介しました。

講演風景-04

災害時にみちびきによる中継に切り替えるフォールバック化を提案

アイディアソンの実例紹介
長岡高専 外山教授
外山教授

新潟県長岡市の長岡工業高等専門学校(長岡高専)で副校長(教務主事)を務める外山茂浩教授は、みちびきの利活用を検討するアイディアソンの実践事例を紹介しました。同校では2020年度にアイディアソンを試行し、3年生40名に対して90分授業を15週実施してワークショップやグループワークによるビジネスプランニングの検討、成果発表などを行いました。その結果、みちびきを活用したスキーの遭難事故対策や大雪時に除雪と混雑の状況が分かるマップなどのアイディアが創出されました。長岡高専は、この取り組みを全国に広げるために2021~22年度にかけてオンデマンド教材を作成し、2023~24年度に教材を全国に展開しました。

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オンデマンド教材を作成して全国に展開

講演風景-05

講演の様子

鈴木氏

ファシリテーターを努めた鈴木氏

講演後のパネルディスカッションには、内閣府の三上参事官、JAXA川北氏、事業創造大学院大学の嶋津教授、長岡高専の外山教授の4人がパネリストとなり、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル(OC Global)上席理事の鈴木弘二氏(一般財団法人アジア防災センター プロジェクトディレクター)をファシリテーターとして、最近の防災・減災に関する課題意識や、防災・減災に関する国内外での宇宙技術活用の可能性、防災分野への実装に向けた取り組みなどをテーマに意見交換を行いました。

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防災・減災に関する課題意識を提示して議論

この中で三上参事官は、嶋津教授に対してみちびきの災危通報では大変応援をいただき感謝していると謝辞を述べた上で、「これを知るべき人に知ってもらい、上手く世の中に一斉に展開されて皆さまに使っていただくことが必要であり、そのためにも政府として産学官連携を推進していきたい」と強調しました。

講演風景-06

パネルディスカッションの様子

展示風景-01

会場で行われたみちびき関連のパネル展示

会場の入口には、みちびき関連のパンフレットやペーパークラフト、SLAS及び災危通報に対応した「ザ・ゴルフウォッチA1 III」(グリーンオン株式会社)が展示されたほか、パネル展示も行われ、講演の聴講者にみちびきに関する情報をご案内しました。


事業創造大学院大学が主催する午後のセッション「準天頂衛星システム(QZSS)の利活用による減災技術の国内外の取り組み」では、同大学の嶋津恵子教授がモデレーターとなり、みちびきの利活用による減災をテーマに講演や議論、実演などを行いました。

嶋津教授

事業創造大学院大学の嶋津教授

三上参事官

セッションの基調講演は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)と株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル(OC Global)上席理事の鈴木弘二氏(一般財団法人アジア防災センター プロジェクトディレクター)の2人が行いました。三上参事官は、冒頭で今年2月に行われたみちびき6号機の打上げを報告すると共に、みちびきの特徴と災害時利用について解説しました。2026年度から7機体制の運用となるみちびきは、他国のシステムに頼らず、みちびきだけでの測位サービスが可能となります。災害時には、位置情報を提供することで避難先やルート探索、救助救援の指揮など意思決定に貢献するほか、災危通報を受信できるスマートウォッチが販売されており、アジアやオセアニアなど海外にも配信が可能である点などを紹介しました。

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みちびき6号機の打上げ結果を報告した

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鈴木氏

続いてOC Globalの鈴木氏が、みちびきの災害時利用に対するアジアと南太平洋諸国の期待について講演しました。フィジー・大洋州諸国はサイクロンや津波、火山噴火、海面上昇のリスクが高く、観光・農業など主な産業が気候依存型であるため災害で大打撃を受けやすい環境にあります。小島・離島が多く、被災時に孤立しやすいにも関わらず、インフラが脆弱で復旧に時間がかかり、ハザードマップやリスクデータの整備も不足しています。鈴木氏は、これらの地域では通信環境が弱く、代替手段が十分に整備されておらず、情報の流れが途絶するリスクが多いため、みちびきによる「途絶しない通信」への期待が大きいと述べ、みちびきの高精度測位により災害リスクを可視化することでリスクデータ・ハザードマップ整備への貢献に期待が寄せられている状況を解説しました。

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南太平洋諸国が災害で大打撃を受けやすい環境にある点を解説

新潟県 ドローン利用災害実証状況の把握
トップライズ 廣島氏
廣島氏

次にドローンを活用して発災直後の状況を把握するサービスを提供する株式会社トップライズの廣島美和子氏が登壇し、同社の取り組みを紹介しました。トップライズは建設コンサルタントや、ドローンや3Dレーザースキャナーを用いた測量などの事業を展開しており、新潟県内8市町村と災害時応援協定を締結して、災害時には被災状況を迅速に把握するためにドローンを活用しています。

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嶋津教授と廣島氏は、みちびきの利用による減災事業成長の可能性をテーマに意見交換も行いました。嶋津教授の「もしドローンにみちびきの高精度測位に対応した受信機が装備されたら業務はどのように変わるか?」との問いかけに対し、廣島氏は「現状では高精度測位のために基地局を設置しなければならず作業が大変だが、設置が不要になれば作業も楽になり、効率化を図ることができる」と回答しました。

スライド-09

ドローンにみちびきの高精度測位受信機を備えるメリットを説明した

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小型ドローンの実演

講演風景-11

小型ドローンの操作体験

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スマホで「GNSS View」を体験する参加者

その後、参加者を交えて小型ドローンの実演や操作体験を行ったほか、衛星配置表示アプリ「GNSS View」を使ってみちびきの衛星配置を見る方法も紹介しました。閉会の挨拶に立った嶋津教授は、自身が所属する事業創造大学院大学が2026年4月に開志創造大学に名称変更すると述べ、そのタイミングで「みちびきのメッセージサービスを利活用する技術を学修する授業を開講するので、皆さまの応援と協力とお知恵を拝借したく、よろしくお願いいたします」と呼びかけ、セッションは終了しました。

展示風景-02
展示風景-03

防災関連のパネル展示が並んだ会場内

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併催イベントの「にいがた防災産業展」

参照サイト

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