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[報告] G空間EXPO 2019でみちびき講演会を開催

2019年12月23日

内閣府宇宙開発戦略推進事務局は11月28日、日本科学未来館で開催中のG空間EXPO 2019において「みちびき(準天頂衛星システム)講演会」を開催しました。

冒頭、開会挨拶に立った内閣府 宇宙開発戦略推進事務局の飯田洋企画官(準天頂衛星システム戦略室)は、みちびきに対応した小型で安価の受信機が続々と発売され、さまざまな事業拡大が進む現状を踏まえ、「みちびきの信号は今後、なくてはならない位置情報インフラとして未来永劫サービスを提供し続けることができると考えており、皆さまもさまざまなアイディアと実行力をぜひ発揮していただきたい」との期待を述べました。

NECが取り組むみちびきの利活用

── 日本電気株式会社 山田氏

日本電気株式会社(NEC)の山田勲氏(宇宙システム事業部 エキスパート)は、同社が取り組むいくつかのみちびき利活用事例を紹介しました。
NECは、消防車や救急車の出動要請が来た時に現場への最適ルートを案内すると共に、現地において消火栓の位置や注意すべき建物の有無を知らせる「消防指令システム」を全国の消防本部に提供しています。この消防車載端末にみちびきの災害・危機管理通報サービス「災危通報」に対応した端末をオプションとして追加することで、大規模災害で携帯電話網などが使用できなくなった場合でも、災害情報が取得可能となります。
山間部に電力会社が設置した送電設備を点検する作業員に向けた歩行ナビゲーションの実証実験も行っています。道に迷いやすい山岳地の送電鉄塔で巡視・点検・工事を行う際に、みちびきのサブメータ級測位補強サービスに対応したマルチGNSS受信機とスマートグラスを組み合わせた誤差数メートルのAR(拡張現実)ナビゲーションを実現しました。
阪神港ではヤードシャーシ(コンテナを運ぶトラック)の位置・時刻情報や加速度、ジャイロセンサーのデータなど各種走行データの収集にも取り組んでいます。船積みのコンテナは、接岸後にクレーンでヤードシャーシに搭載され、コンテナヤードに運ばれて3~4段に高積みして保管されます。その日最初にエンジンONにして最後OFFにするまでのヤードシャーシのデータを記録し、走行時間や停車時間、エンジン停止時間の割合をグラフ化しました。

事故削減に効果的なのは道路交通法の遵守

── ジェネクスト 笠原代表取締役

ジェネクスト株式会社の笠原一氏(代表取締役)は、「準天頂衛星システム『みちびき』の利活用/SDGs・第10次交通安全基本計画目標へのチャレンジ」と題して講演しました。
同社は、交通事故原因の多くは道路交通法違反にあり、事故の削減にもっとも効果的・効率的な解決方法は道路交通法を遵守することだと考えています。その課題解決のため、みちびきを利用した道路交通法の遵守状況可視化サービスを提供しています。
みちびきのサブメータ級測位補強サービスに対応したGNSSトラッカーを車両に搭載し、高精度な位置情報をサーバーに送信することで全国の道路制限情報(標識及び補助標識の情報)と照合して、その車両が道交法を遵守しているかどうかを解析します。解析結果として、管理画面の地図上で違反した場所を確認できるほか、違反の傾向をグラフなどで表示できます。もし違反に対して反則金を支払った場合、総額いくらになるのかも計算でき、システムを導入することで支払わずに済む反則金の金額を試算できます。
この交通違反見える化システム活用により数千台規模の車両をお持ちのユーザーでは、保険料が億単位で下がるなど、大きな成果が上がっている事例も紹介しました。

海洋ブイの測位データによるリアルタイム海象モニタリング

── 環境シミュレーション研究所 伊藤会長

海洋モニタリングシステムの開発・販売を手がける株式会社環境シミュレーション研究所の伊藤喜代志氏(取締役会長)は、みちびき対応の海洋ブイによって得られる測位データを活用したリアルタイム海象(波浪・流れ)モニタリングを紹介しました。
同社は現在、養殖場の水質や魚の成長度をモニタリングするロボットや、日本近海の海の様子をモニタリングする「Eddy Glider」と呼ばれる海洋観測ロボットなどを開発しています。ロボットの役割は、大型プランクトンや海洋環境、海中音、深海底などのモニタリングや漁場の資源管理、資源管理など多岐にわたります。いずれの用途でも、重要なのはモニタリング中の海の状況を知ることであり、中でも特に大事なのが「波高」です。
従来の波高計測では、高額な大型ブイを使うためコストが高く、そのため日本近海における観測点は少なく限られていました。これをみちびきの受信機を搭載した小型ブイに換えることで大幅にコストダウンでき、従来よりも広い範囲で波高データを取得できるようになります。
今年7月には沖縄県の宮古島でみちびき対応海象ブイの実証実験を行いました。直径約40cmの小型ブイにセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)とサブメータ級測位補強サービスに対応した2つの受信機を搭載し、波高を測定したところ、実際の波高にかなり近く、正確に測定できることを確認できました。

みちびきを活用した排雪作業の軽減対策

──雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム 岩根氏/村田氏

岩根氏(左)、村田氏(右)

岩根氏(左)、村田氏(右)

秋田県の横手市は、ひと冬で約8mもの雪が積もる豪雪地帯です。市街地では除雪によって発生した雪を排出する“排雪”が不可欠であり、しっかり対処しないとトラブルが発生します。排雪作業を行うオペレーターの高齢化も進んでおり、次世代への技術継承の必要性も高まっています。そこで横手市役所を始め、横手市内の民間企業やNPO法人、秋田横連携IoT推進ラボ協議会、NTT空間情報株式会社などが“雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム”を構成し、昨年暮れから今年春にかけてみちびきを活用した排雪作業の軽減対策に関する実証実験を行いました。コンソーシアムの代表を務める株式会社デジタル・ウント・メアの岩根えり子氏(代表取締役社長)と、横手市役所の村田清和氏(総務企画部長)が登壇して実験の様子を説明しました。
雪の堆積状況把握では、道路脇の雪の堆積状況をスマートフォンで撮影するとともに、サブメータ級測位補強サービス(SLAS)対応の受信機で位置情報を収集しました。さらにサーバーに保存した雪の堆積状況のに対して排雪の必要性を3段階にランク分けして、SLASで収集した高精度な位置情報を基に格子状のメッシュデータとして地図上に可視化しました。また、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用して、排雪車両の高精度な位置情報をモニタリングすると共に、車両内にカメラを設置し、作業時間とオペレーターの作業内容をアノテーション化(作業内容を記述したタグを付与)する「排雪車両挙動学習」も行いました。

みちびきを使った農業分野の海外実証

── 日立ソリューションズ 西口氏

株式会社日立ソリューションズの西口修氏(ビジネスコラボレーション本部 企画部 チーフアドバイザー)は、日立グループの海外における実証実験を紹介しました。
同社は、みちびきがアジア・オセアニア地域でのセンチメータ級測位補強の技術実証用としてL6E信号を用いて配信している高精度測位補正技術MADOCAに注目しており、農業分野でのビジネス展開を検討しています。みちびきを使った農業分野の海外実証試験は、総務省が2014年度から実証プロジェクトを継続して実施しており、日立グループはこれら一連のプロジェクトに参画しています。
昨年度の実験では、豪州ニューサウスウェールズ州のキャベツ農地でL6E対応ドローンを使い、キャベツの生育異常箇所を高精度に把握する取り組みを行いました。この時は、作業時間が5割以上削減可能であること、そして異常箇所を画像から特定・記録して農薬をピンポイントで散布すれば、使用農薬を8割削減できることが分かりました。
今年度はインドネシアの南スマトラ州のユーカリ植林地において、紙パルプ原料植林地の樹高を推定する取り組みを行っています。樹木の伐採前にドローン空撮で樹頂標高データ(DSM)を作成した上で、伐採後にL6E対応受信機を搭載したトラクターの走行軌跡データを取得し、そこから林地の地面標高データ(DEM)を作成します。DSMとDEMの差から樹高を推定し、推定精度を検証するというものです。
同社は、現場ニーズを汲み上げ、受信機の性能向上を確認しながら、今後もMADOCAを活用したビジネスを展開していきたいとしています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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