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[報告] CEATEC 2024でみちびきに関する講演と展示

2024年11月25日

デジタルイノベーションの総合展示会「CEATEC(シーテック)2024」(主催:一般社団法人電子情報技術産業協会)が2024年10月15~18日、千葉・幕張メッセで開催されました。今年のCEATECは「Toward Society 5.0」のコンセプトのもと、25周年の特別テーマ「Innovation for All」を掲げて様々な産業・業種が出展すると共に、幅広い分野の講演が行われました。会期4日間の登録来場者数は11万2014人で、会場は連日多くのの来場者で賑わいました。

会場全景

幕張メッセの展示会場

講演を聞く来場者

特設会場で行われた講演セッション

内閣府の三上参事官、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社の舩越氏、エゾウィン株式会社の大野氏、NECソリューションイノベータ株式会社の神藤氏の4人が登壇する講演セッション「準天頂衛星システム『みちびき』の概要と利活用最前線」が、CEATECの最終日となる10月18日に行われました。

三上参事官

利活用事例の講演に先立ち、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)がみちびきの概要を解説しました。みちびきは2024~25年度に追加の衛星3機が打ち上げられ、現在の4機から7機体制へと移行します。「7機体制がスタートすると、他国の衛星測位システムに依存せずとも、みちびきだけで衛星測位ができるようになる記念すべき年になります」とその意義を説明しました。また、2023年に改訂された宇宙基本計画において、バックアップ体制も含めて将来は11機体制を目指すと記載されたことも紹介しました。
みちびきに対応した製品は2023年夏の時点で415品目に上り、受信機やスマートフォン、カーナビ、スマートウォッチなど様々な製品が提供されています。みちびきはSociety 5.0で、サイバー空間上で現在の位置情報や時刻情報を提供するインフラとして、スマートシティやスマート農業、次世代モビリティに貢献する技術であると位置づけられており、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応の受信機が近年、小型・安価になっていることから、「さらにサイズが小さくなれば、爆発的にサービスが広がると期待しています。みちびきを知るべき人やコミュニティは世の中にもっといると思っていますので、今後そういう方がいたらぜひお声がけをお願いします」と来場者に呼びかけました。

── トヨタテクニカルディベロップメント 舩越氏

舩越氏

続いてトヨタテクニカルディベロップメント株式会社 BR工場・物流ソリューション開発部 エンベデッド開発室の舩越勲室長が登壇して、トヨタ自動車の子会社である同社が提供する自己位置推定システム「RTK-STAR」を紹介しました。
このRTK-STARには、ネットワークRTK(リアルタイムキネマティック)対応版とCLAS対応版の2種類が用意されており、車両などに搭載して位置情報や速度、姿勢角等を計測できます。舩越氏は、同社がネットワークRTK版とCLAS版の2種類の装置を展開するに当たり、地域による精度劣化やFix復帰時間など運用上の課題があるかを調査すると共に、CLASの精度がネットワークRTKと比較してどの程度有効かを調べるために2つの比較試験を行ったとして、その内容を説明しました。
まず最初の試験では、日本の様々な地域での比較を行うため、北海道・東北・西日本の3つのエリアで測位精度を比較したところ、いずれの地域においてもCLASはネットワークRTKとほぼ同等の精度が得られると確認できたといいます。Fixの復帰時間はネットワークRTKがCLASを上回る結果でしたが、車のテストコースは携帯電波の届かない山間部にあることが多く、そうしたエリアではCLASが非常に有効だという点も分かったそうです。
2つ目の試験は、トヨタ自動車の工場ヤードで行ったVLR(車両搬送ロボット)を使用した車両の搬送で、VLRの位置及びヨー角の測位にRTK-STARを使用して、ネットワークRTK版とCLAS版を比較しました。その結果、CLAS版の経路はネットワークRTK版の経路と一致し、自動搬送ロボットを用いて同等の走行が可能であると確認できたとのことです。舩越氏はこれらの結果から、CLASを導入することによりネットワークインフラの削減によるコストダウンが見込めるため、今後はトヨタ自動車へ導入を提案していると説明しました。
また、CLASを使う上で気を付ける点として、衛星の配置の関係で南側が開けていない土地ではFix率が低下する傾向があると指摘し、天頂方向に見える衛星が常時2つ以上あればこの問題は改善できるとしました。

── エゾウィン 大野氏

大野氏

エゾウィン株式会社の大野宏CEOは、みちびきの高精度測位を活用した農業支援システム「レポサク」を紹介しました。同社は、2040年までに国内最大の完全自動化農場の実現を目指すスタートアップ企業で、現場の生きたデータを収集して、その情報を共有することで農作業の現場を効率化する支援サービスを提供しています。また、住民の利便性向上と業務効率化を図る自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)など、農業以外の分野への展開も行っています。
大野氏は、DXに必要な要素として「精密な行動データ」「関係者全員の行動データ」「現場の勘」の3つを挙げ、同社が提供するみちびき対応端末を使用することで、現場の行動データとして高精度な位置情報を高頻度に取得できると説明しました。同社は2023年までSLAS(サブメータ級測位補強サービス)対応端末を提供していましたが、今年発売した新端末からCLAS対応となり、行動データの取得や進捗管理が、より正確に行えるようになりました。CLASは街中など遮蔽物が多いエリアでも精度が高く、車両の停止中でも軌跡の揺れが生じにくいという特徴があります。大野氏は、同社の端末はUSBケーブルで接続するだけで簡単にログを記録できるため、関係者すべての行動データを取りやすく、作業計画を立てる上でのコミュニケーションもスムーズになると、その利点を説明しました。
大野氏によれば、レポサクを導入した結果、TMR(混合飼料)センターにおいては収穫作業効率が18%向上し、コントラクター(農作業受託組織)の事務作業時間が58%削減できたといいます。同社は今後、ごみ収集や除雪、パトロール、林業、バスなど他業種への展開も図っていくとのことです。

── NECソリューションイノベータ 神藤氏

神藤氏

最後にNECソリューションイノベータ株式会社 スマートセーフティソリューション事業部の神藤英俊主席プロフェッショナルが登壇し、みちびきの概要と利活用事例を紹介しました。
神藤氏は、みちびきの特徴である準天頂軌道の仕組みや他の衛星測位システムとの違い、CLASやSLASなど提供サービスの詳細を解説すると共に、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が公募して、農業や土木・建設、ドローン、海上、鉄道など様々な分野で取り組んでいる実証事業の事例を紹介しました。また、内閣府総合海洋政策推進事務局が今年度から取り組んでいるAUV(自律型無人探査機)利用実証試験の公募では、選定された4件の中にみちびきの測位を活用する実証試験があった点も説明しました。
普及事例として、CLASを活用した運転支援技術を搭載する自動車、ロータリ除雪車の自動化を挙げたほか、災危通報(災害・危機管理通報サービス)に対応したETC2.0車載器、ドライブレコーダー、CLASやSLASに対応したドローン、SLAS対応のゴルフウォッチなどの対応製品も紹介しました。神藤氏はこうした現状を踏まえて、「宇宙データの利活用ビジネスは、ロケットや衛星を作る技術がなくても誰でも参入できる領域であり、社会課題を解決するアイデアのキーワードとしてみちびきをご活用いただきたい。今後のみちびき7機体制に向けたプロモーション活動も推進しており、ぜひ利活用への機運上昇に相乗りいただければと思います」と締め括りました。

来場者でにぎわう展示ブース

みちびき展示ブース

展示会場には「General Exhibits」「AI for All」「パートナーズパーク」「グローバルパーク」「ネクストジェネレーションパーク(スタートアップ&ユニバーシティ)」の5つの展示エリアが設けられ、みちびきは「General Exhibits」エリアに出展しました。
ブースには、みちびきのCLAS及び信号認証サービスに対応したドローン「ChronoSky PF2-AE」(コア)や、災危通報に対応したデジタルサイネージ用の映像表示器「Signadia」(ジェイアール東日本企画)、みちびきのCLAS対応端末を使用した農作業支援システム「レポサク(Reposaku)」及び高精度車両管理システム「ミルトッカ(miltocca)」(エゾウィン)の実物のほか、各社が販売するCLAS/SLAS対応受信機、CLAS対応アンテナなどを多数展示しました。

展示品-01

左から「ChronoSky PF2-AE」(コア)、「Signadia」(ジェイアール東日本企画)、「レポサク」と「ミルトッカ」(エゾウィン)

会期中、ブースには「みちびき」を知らない方も多数訪れ、みちびきに関する基本的な事項を説明したほか、みちびきをすでにご存じの方には対応製品や対応サービスの最新情報を案内しました。

展示品-02

上段左からCLAS/MADOCA/信号認証対応アンテナ一体型受信機「RWX.DC」、CLAS/MADOCA/信号認証対応受信機「RWS.DC」「RWM.DC」(ビズステーション)、CLAS対応アンテナ一体型受信機「RJCLAS-L6」(小峰無線)、CLAS/MADOCA/信号認証対応受信機「Cohac∞Ten++」(コア)、CLAS対応受信機「Mosaic Go CLAS」(セプテントリオ)。下段左から水道メーター検針システム「Smart検針」(KIS)、ドライブレコーダー「CS-363FH」(セルスター)、ゴルフウォッチ「ShotNavi Evolve Pro Touch」「ShotNavi Granz」(テクタイト)、日精の小型・軽量CLAS/MADOCA対応アンテナ、iPhoneと一体化して使用できるCLAS対応デバイス「LRTK Phone 4C 圏外対応」(レフィクシア)

CEATEC 2024では、展示品の中で特にイノベーション性が高く優れていると評価された技術やプロダクトに「CEATEC AWARD 2024」が授与されます。この中の「コ・クリエイション(共創)部門賞」を、みちびきの高精度測位を活用した農業支援システム「レポサク」を提供するエゾウィン株式会社が受賞しました。
同社はデジタル田園都市国家構想に共感・共鳴する49の企業・自治体・団体が参加する「デジタル田園都市国家構想特設パビリオン」にブースを出展し、レポサクを紹介しました。

大野氏と展示ブース

部門賞を受賞したエゾウィンの大野氏(左)、エゾウィンの展示ブース(中央、右)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

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