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[報告] 自治体によるみちびき活用事例の紹介セミナーを開催

2026年03月02日

準天頂衛星システムサービス株式会社は2026年1月19日、自治体DXをテーマとしたセミナー「衛星データ×自治体DX ─ 日本版GPSで地域課題解決の最前線へ ─」を東京・日本橋のX-NIHONBASHI TOWERで開催しました。一般社団法人クロスユーが事務局を担うみちびきコミュニティの取り組みとして開催されたもので、みちびきの最新動向や自治体による活用をテーマとして、最新事例や今後の活用可能性を紹介する講演やパネルディスカッションを実施すると共に、登壇者と参加者による交流会も行われました。

講演風景-01

※当日のセミナー動画は、下記のリンク先にてご覧いただけます。

石橋氏

冒頭、セミナーを主催した準天頂衛星システムサービス株式会社の石橋 海 代表取締役社長が開会挨拶を行いました。石橋氏は、衛星測位を活用して社会課題をいかに解決していくかのテーマについて、今回は自治体にフォーカスしてセミナーを開催したとの趣旨を説明した上で、この日予定している講演やパネルディスカッションの内容を紹介し、登壇者や参加者同士の交流を呼びかけました。

講演風景-02

みちびきの概要を説明する石橋氏

みちびきに関する最新の利活用事例を紹介
内閣府宇宙開発戦略推進事務局 和田企画官
和田企画官

内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の和田弘人企画官が登壇し、みちびきの概要を解説すると共に最新の活用事例を紹介しました。和田企画官は、現実の空間と地理空間情報の間を変換するのが「測位」システムであり、地理空間情報をいつでも、どこでも、誰でも使えるようにするには、「測位」を高精度かつ簡単に利用できるようにする必要があると述べ、近年は受信機の小型化と低価格化が進み、みちびきの高精度測位に誰もがアクセスできる時代になってきたとの見方を示しました。みちびきの活用事例としては、インフラメンテナンスやスマート農業、鳥獣害対策、ドローン物流などを挙げ、自治体がもつ社会課題にみちびきを追加することでどのように便利になるかを考えてほしいと呼びかけました。

講演風景-03

社会におけるみちびきの役割を解説する和田企画官

除雪作業及び堤防除草作業の自動化
国土交通省北海道開発局 石道氏
石道氏

国土交通省北海道開発局の石道国弘氏(事業振興部 機械課 上席専門官)が、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を活用した除雪車の作業装置操作、及び堤防除草作業の自動化の取り組みを紹介しました。
国土交通省北海道開発局では、除雪現場の省力化による生産性・安全性の向上に関する取組プラットフォーム「i-Snow」を2016年度から推進しています。ICT技術を導入したロータリ除雪車にCLASと高精度3Dマップを組み合わせた運転支援ガイダンスシステムを採用することで、積雪時や荒天時でも車両の位置を正確に把握できるようになり、加えて除雪装置のレバー操作を位置情報と共に記録して自動制御することでオペレーター1人での作業が可能になりました。2025年度はこのロータリ除雪車を追加配備すると共に、ICT技術を導入した歩道用の小形除雪車や除雪トラックの実動配備を開始しており、2026年度も引き続き技術開発を図る予定にしています。
また、除草作業では堤防除草作業の生産性向上のため、2020年度に除草自動化検討ワーキング「SMART-Grass」を発足させました。このワーキングでは草刈機の自動運転による除草作業の省力化と出来形の自動計測による効率化を目指して技術開発を進めており、1人で複数台の草刈機を運用する協調運転や安全対策技術の試行実験を行っています。

講演風景-04

取組プラットフォームについて説明する石道氏

CLASを活用した橋梁点検支援ロボット
ジビル調査設計 毛利氏
毛利氏

橋梁点検支援ロボット「視る・診る」を提供するジビル調査設計株式会社の毛利茂則取締役会長が、その「視る・診る」にみちびきを活用した開発を加えた事例を紹介しました。
「視る・診る」は、橋の上に設置する台車と橋梁下部へ水平アームを下ろすための鉛直ロッド、撮影カメラを搭載した可動式の水平アームなどで構成され、台車に乗ったオペレーターが水平アームを操作することで橋梁下部を撮影できます。同社はこれに、春江電子株式会社と共同開発した、CLASの位置情報を橋梁下部で有効活用するための座標連携装置を搭載しました。

スライド-01

橋梁点検支援ロボット「視る・診る」の仕組み

撮影時に、橋の上のCLAS対応受信機が取得した高精度の位置情報をもとに、座標連携装置を介して橋梁下部の撮影ポイントの位置情報を算出することが可能で、老朽化所の位置座標を算出できます。撮影ポイントの位置座標の誤差は当初40cm程度でしたが、改良を重ねて現在は20cm程度まで向上しました。このほか、点検結果を3次元表示で可視化する取り組みも進めています。今後も引き続き位置精度向上に向けて改良を継続する方針で、他のインフラ施設の維持管理や保全にも対応を検討しています。GNSSによる地上絵アート制作が可能な装置の開発も計画しており、同社は今後もみちびきの魅力も広くアピールしていく方針です。

みちびき対応ドローンによる災害対応
トップライズ 廣島氏
廣島氏

新潟市を拠点とした総合建設コンサルタントである株式会社トップライズの廣島美和子氏(ICT事業部 主任)が、災害時のドローン活用の取り組みを紹介しました。測量・設計・調査・防災などの事業を手がける同社は、近年はドローンによる写真測量やレーザー測量、赤外線センサー及びズーム機能による点検、災害時の状況把握や物資輸送なども行っています。

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県内の9市町村と災害時応援協定を結びドローンを活用

同社は新潟県内9市町村と災害時応援協定を締結し、災害発生時には被災状況を迅速に把握するためにドローンを活用しており、2022年に村上市で発生した豪雨災害の際も被災状況の空撮を行いました。廣島氏は、みちびきの高精度測位を利用することにより、ドローンの現在地をより安定して把握でき、自動飛行ルートを毎回ほぼ同じ形で再現でき、離着陸時の位置ずれを小さくできるなどのメリットがあると説明しました。また、災害現場では正確な位置情報を広範囲に取得するためにドローンの活用が重要であり、そのために適切な技術の利用と運用のための組織づくりが必要となると語りました。

スマート農業や鳥獣被害対策にみちびきを活用
エゾウィン 大野氏
大野氏

農業支援システム「レポサク」を提供するエゾウィン株式会社の大野 宏氏(CEO)が、みちびきの高精度測位を活用したスマート農業、及び鳥獣対策などの事例を紹介しました。同社の「レポサク」は、CLAS対応の受信端末(ロガー)を車両の電源に挿すだけで自動的に作業車の位置情報を共有でき、作業の進捗状況を把握できるシステムです。

スライド-03

レポサクで共有される作業車両の位置情報

同社はこの仕組みを活用して、ハンター向けに新たな野生鳥獣対策システム「クマハブ」の提供も開始しました。これはクマの足跡を追うハンターの位置情報を共有できるシステムで、取得した位置情報をもとに進捗状況の共有や活動報告、振り返りを行えます。さらにレポサクやクマハブと同様のシステムを、除雪やゴミ収集の現場にも導入しました。これらの業務では「稼働日報の集計が大変」「住民クレームの対応が難しい」といった課題があり、現場の情報を簡単に集める手段としてみちびきの高精度な位置情報を活用しています。レポサクはすでに100社以上に導入されており、作業効率が18%向上し、作業者間の無線連絡の回数や事務作業時間の大幅な削減効果も確認されたとのことです。

各氏の講演に続いて、このセミナーの事務局を担当するクロスユーの代表理事を務める東京大学の中須賀真一教授(大学院 工学系研究科)をモデレーターとしたパネルディスカッションが行われました。パネリストには、講演を行った内閣府の和田企画官、トップライズの廣島氏、エゾウィンの大野氏に、ジビル調査設計の橋梁点検支援ロボット「視る・診る」のプロジェクトを支援した福井県工業技術センターの松井多志氏(企画支援部 技術相談グループ 総括研究員)が加わり、自治体DXにおけるみちびきの可能性や今後の課題を議論しました。

モデレータとパネリスト

左から中須賀教授、大野氏、廣島氏、松井氏、和田企画官

「自治体DX導入に当たっての壁」と「その壁をどう乗り越えたか」のテーマに対して、大野氏はGNSSやCLASへの理解が少ない点を挙げ、除雪作業の日報作成において作業した場所を証明する用途でロガーを自治体に貸し出し、実際に使ってもらった上で導入に至った事例を紹介しました。
廣島氏は、災害時にドローンを使う場合にこれまで手動で操縦していたが、みちびきの高精度測位を活用することで、事前に危険なエリアをハザードマップなどで特定しておき、災害発生時に複数のドローンを各エリアに向けて同時に自動的に飛行させる技術の提案を考えているとして、そのための実績づくりとして今後、実証実験を行っていきたいと回答しました。
「導入によってもたらされた効果」として大野氏は、作業効率の数値的な向上だけでなく、進捗状況を問い合わせる機会が減って作業者のストレスが軽減された点など、数値化できない要素も大きいと指摘しました。
松井氏は、宇宙産業に着目している福井県では、福井県工業技術センターとふくい産業支援センターが事務局を担う「ふくい宇宙産業創出研究会」が、県内の民間企業による宇宙産業への進出を支援している状況を示し、ジビル調査設計のようなプロジェクトが成功して宇宙関連ビジネスを行う企業が増えることで、支援の輪が広がる点への期待を表明しました。
和田企画官は、既存の自治体の業務にみちびきの高精度な位置情報や災危通報(災害・危機管理通報サービス)などをプラスすれば、より冗長で強いシステムを構築できるとして、自治体でみちびきを活用するよう呼びかけたいと話しました。
ディスカッション後には質疑応答も行われ、みちびきを活用したビジネスや将来について様々な質問が寄せられました。

講演風景-05

パネルディスカッションの様子

三上参事官

閉会の挨拶に立った内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)は、2026年は諸外国も含めて変化の多い時代になっていくとした上で、「その中で『どうやって変わっていくか』の一つの方法として宇宙や測位の活用を考えていただきたい。そのためにも今回のセミナーのように様々な方々が参加して話し合う場が必要であり、こうした会合を今後も続けていきたいと思います」と締めくくりました。

セミナー終了後にはネットワーキングの時間が設けられ、登壇者や参加者同士で名刺交換や情報の共有が行われました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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