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[報告] エレキ万博2025にみちびきが参加

2025年09月24日

エレクトロニクス技術の専門雑誌「月刊トランジスタ技術」の60周年を記念したファン感謝祭イベント「トランジスタ技術 エレキ万博2025 ~宇宙に届け! 日本の電子回路技術~」(主催:CQ出版社トランジスタ技術編集部、後援:秋葉原駅前商店街振興組合)が2025年8月9日、秋葉原コンベンションホール(千代田区外神田)で開催されました。同誌はこれまでも1~2年ごとに衛星測位に関する技術・解説記事を掲載し、高精度測位を個人でも扱える技術として一般読者に向けて紹介してきました。昨年も2024年7~11月号で5カ月連続してみちびきの特集記事を掲載するなどのつながりがあり、内閣府宇宙開発戦略推進事務局はスポンサーとしてイベントに参加し、会場にみちびきブースを出展しました。併せてイベントの基調講演を始め、みちびきに関連した様々な講演やパネルディスカッションなどを行いました。

会場外観

会場は秋葉原ダイビル内に設けられた

冒頭、トランジスタ技術編集部の上村剛士編集長が開会挨拶を行いました。上村編集長は、「トランジスタ技術では昨年7~9月号の3号連続で宇宙特集企画を行い、大変な反響をいただきました。エレキ万博は2018年に一度、CQ出版社の事務所で開催していますが、せっかく60周年記念で再びエレキ万博を開くなら、ぜひ聖地・秋葉原で宇宙エレクトロニクスをテーマにしたいと考え、企画しました」と開催の経緯を説明しました。

トラ技編集部の上村編集長

上村編集長

内閣府の三上参事官

続いて内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)が基調講演「宇宙×測位技術の最前線 ~フル体制のみちびき、利用は地上からLEO・月までも~」を行いました。三上参事官は、小学校低学年の時に豆電球の実験でまな板に釘を打ってリード線をつなげたことや、電子実験の教材「電子ブロック」でウソ発見器やゲルマニウムラジオの回路を組み立てたことなど、順を追って自身の電子回路遍歴を振り返りつつ、大学や大学院では宇宙工学(イオンエンジン)の研究に取り組んだ経歴も紹介し、これらにトランジスタ技術を始めとする電子関連の出版物がとても役立ったと謝辞を述べました。後半は、物づくりの視点から日本の宇宙開発の現状を解説し、次世代基幹ロケット「H3」や民間企業によるロケット開発、衛星データ利活用の取り組みのほか、昨年、日本で初めて月面着陸を達成した小型月着陸実証機「SLIM」も紹介しました。みちびきについては、衛星測位の原理や常に天頂付近に位置するメリット、地上から見えるGPSとみちびきの軌道比較、提供する測位サービスの概要などを解説すると共に、農業や海洋など様々な分野において利用が拡大している現状をアピールしました。みちびきは今年度中に追加2機を打ち上げて7機体制を構築し、将来の11機体制を目指すためのアウトリーチ活動を進めており、関係省庁や関連業界、技術者、一般の方々に向けた展示会へ参加し、専門誌とコラボレーションを図っているのもその一環であると説明しました。

講演風景-01

満席となり熱気にあふれる会場

講演風景-02

左から内閣府の細田参事官補佐、JAXAの五十嵐氏、髙橋氏、柴田氏、村上氏

みちびきアンバサダーを務めるバーチャルYouTuberの宇推くりあさんがスクリーンに登場し、内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の細田聡史参事官補佐と、JAXA第一宇宙技術部門 高精度測位システム(ASNV)プロジェクトチームの村上滋希氏、髙橋一平氏、五十嵐祐貴氏、柴田雅弘氏の計6人によるコラボレーション座談会が行われました。座談会は「宇宙愛がとまらない! ロケット工学VTuber宇推くりあと電波系の仲間たち」と名付けられ、誤差1mの高精度測位を実現するみちびきのASNAV技術について、宇推くりあさんの軽妙なトークを織り交ぜながらASNAVプロジェクトチームが詳しく解説しました。ASNAVでは、準天頂衛星間で測距を行う「衛星間測距システム(ISR)」と準天頂衛星と地上局の双方向で測距を行う「衛星地上間測距システム(PRECT)」で得られる新たな観測データを、測位信号を用いて軌道位置と時刻を計算する「次世代高精度軌道時刻推定システム(PROCEED)」に取り込むことで、軌道と時刻の推定精度を向上させることができます。将来的にPROCEEDの機能を主管制局に取り込むことで、ISRとPRECTの観測データを用いて高精度に推定された軌道と時刻が航法メッセージとして追跡管制局を経由して測位衛星にアップロードされることにより、一般的なスマートフォンでも高精度測位が可能となります。

内閣府の細田参事官補佐

午前中にメインステージの座談会で司会進行を担当した内閣府の細田聡史参事官補佐(JAXAより出向)が、午後は企業と学生の技術交流を目的とした特設ルーム「ジュニア応援館」にて講演「衛星エンジニアと遊ぼう ~シスルナ・太陽系大航海時代に向けて~」を行いました。JAXA時代には小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」のイオンエンジン開発・運用を担当した細田参事官補佐は、現在は内閣府でみちびき5・6・7号機の開発サブマネージャを務めています。専門家としての技術的な判断だけでなく、みちびきの開発を担当するスタッフが動きやすいように調整する役割を担い、インテグレータとして設計から打上げまで広く関わりました。今年(2025年)2月に種子島で行われたみちびき6号機打上げの際は、衛星とロケットの作業現場を行き来する日々を過ごしたそうです。講演の前半はJAXAでのはやぶさ2運用について、小惑星リュウグウへの軌道や到達後のミッションを、新たに公開する資料や写真、録音などをふんだんに盛り込んで解説しました。後半は、はやぶさ2との違いを比較しつつ、現在担当するみちびきを紹介しました。長期にわたり遠距離で手探りの運用を続けたはやぶさ2に比べ、常に日本から見える位置にあるみちびきは、通信の時間差もほとんどなく、スラスタやアポジエンジンの役割や構造も大きく異なっています。ニッチで興味深い内容に対し、講演後に多くの参加者から活発な質問が寄せられました。

講演風景-03

講演の様子

講演風景-04

左からKARURA高松氏、辻氏、三上参事官、太田氏

16時からメインステージで行われたパネルディスカッション「がんばれ日本! 産官学対談… これからの宇宙開発と学生たちが期待すること」には、「官」代表として内閣府の三上建治参事官が参加しました。他には、産業界の代表として半導体メーカーであるソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の太田義則氏、学生代表には、火星探査ローバーを開発して国際大会にも出場する「KARURA PROJECT」の辻 紅那氏(東京理科大学3年)と高松俊介氏(早稲田大学修士2年)の2人が登壇しました。最初に辻氏がKARURAの活動概要を説明した後、次世代の日本の宇宙開発をどういう方向に進めていくべきかを、「学生宇宙チームの開発はどうやっていけるとよいか」「学生団体として困っている問題」「これからの日本の宇宙開発はどうなるとよいか」の課題に分けて、意見を交換しました。

展示ブース-01
展示ブース-02

みちびきの展示ブースでは、SLAS(サブメータ級測位補強サービス)及び災危通報(災害・危機管理通報サービス)に対応したゴルフウォッチ「ザ・ゴルフウォッチ A1 III」(グリーンオン)やCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応の受信チップ「mosaic-CLAS」(セプテントリオ)を搭載した基板、みちびき6号機の模型などを展示し、来場者にみちびきのパンフレットやペーパークラフト、トランジスタ技術の特別小冊子「準天頂衛星『みちびき』の最新cm級測位テクノロジ」などを配布しました。ブースには終日切れ目なく多数の来場者が訪れ、説明員がみちびきの概要やASNAVなどの最新技術、みちびき対応製品などをご案内しました。

展示品-01

ザ・ゴルフウォッチA1 III

展示品-02

mosaic-CLASを搭載した基板

みちびき展示ブースの脇には、みちびきアンバサダーである宇推くりあの直筆サイン入り等身大パネルが配置されました。他のエリアでは、セプテントリオ株式会社がみちびきのCLAS対応受信機を紹介したほか、熊本高等専門学校・熊本キャンパスのサークル「熊本高専Makers」がCLAS対応のロボットカーを展示しました。会場内では、みちびき7機体制のTシャツやトートバッグ、ステッカー、クリアファイルなどのグッズも販売され、会場は終日多数の来場者でにぎわいました。

展示品-03

宇推くりあパネル(左)、セプテントリオの展示ブース(中上)、熊本高専のCLAS対応ロボットカー(右上)、みちびきペーパークラフト(中下)、みちびき販売グッズ(右下)

会場風景

来場者で終日にぎわった会場

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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