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ジビル調査設計がCLASを活用した橋梁点検支援ロボットを開発

2025年04月14日

福井県では新産業として宇宙産業に着目し、2015年から「自治体初の人工衛星を開発し打ち上げる」、「宇宙開発現場への売り込みを強める」を掲げた「福井県民衛星プロジェクト」を始動させました。同年、「ふくい宇宙産業創出研究会」を設立し、宇宙機(超小型人工衛星)及び関連部材等の製造サプライチェーンの構築、地球観測衛星や測位衛星の利活用推進、宇宙産業進出に向けた高度人材育成などの分野で、地元企業の支援を行っています。研究会活動には産学官で連携して取り組み、公益財団法人ふくい産業支援センターと福井県工業技術センターが事務局機能を担い、福井県内企業の宇宙産業への進出を支援しています。
このような背景から、ジビル調査設計株式会社が取り組むみちびき企画実証では、福井県とふくい産業支援センターがプロジェクト支援を行っています。特にみちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を活用した橋梁点検支援ロボットの開発において、CLAS情報を橋梁下部で有効活用するために必須となる座標連携装置の開発は、ふくい宇宙産業創出研究会の会員企業である春江電子株式会社とジビル調査設計株式会社との共同開発体制で臨んでいます。

橋梁点検支援ロボット

CLAS対応受信機と座標連携を搭載した橋梁点検支援ロボット「視る・診る」

ジビル調査設計株式会社は2025年3月12日、福井市の中心部を流れる足羽川にかかる板垣橋右岸駐車場にて、みちびきのCLASを活用した橋梁点検支援ロボットの実演展示を実施しました。同社は福井市を拠点として、道路や橋梁などの社会インフラの整備・保全に関わる設計及び点検業務を手がける企業です。この日は、報道機関や開発関係者を対象に、同社が開発した橋梁点検支援ロボット「視る・診る」をベースとして、ロボットに組み込んだCLASによる測位機能、及び座標連携装置(橋梁桁下の衛星信号が届かない領域においても高精度な位置情報を取得可能)を使って実際に点検作業のデモンストレーションを行いました。

図版

システム構成図(提供:ジビル調査設計株式会社)

「視る・診る」は、橋の上に設置するクローラー搭載の台車と、橋梁下部へ水平アームを下ろすための高さ調整可能な鉛直ロッド、撮影カメラを搭載した可動式の水平アームなどで構成されます。そして、台車に乗ったオペレーターが、鉛直ロッドの下部に取り付けられた水平アームを操作して、カメラに映った画像を確認しながら撮影していきます。
台車には、CLASに対応した受信機(u-bloxのモジュールを搭載したビズステーション製)とアンテナが搭載されています。これが台車の運転席上部と、ロボットアーム鉛直ロッド上部の2カ所に取り付けられており、2カ所の位置情報をもとに台車がどの方角を向いているかを正確に割り出すことができます。

台車全景

ロボットの台車

鉛直ロッドの上部(点A)と下部(点B)、水平アームに取り付けられた点検撮影用カメラ(点C)には座標連携装置が搭載され、それぞれレーザー距離計とIMU(慣性計測ユニット)、角度測定可動装置が内蔵されています。点検支援ロボットのCLAS対応受信機で取得した位置情報をもとに、点A・点B間、及び点B・点C間を座標連携装置で計測した距離と角度の情報を用いることにより、撮影ポイントである点Cの位置を算出することができます。さらに、点Cの点検撮影用カメラの姿勢情報と撮影した橋梁の老朽箇所までの距離をもとに、老朽箇所の位置座標も算出できます。

台車の上部

台車にはCLAS受信機とアンテナを2台搭載

国土交通省は老朽化した橋梁の点検を5年に1度の頻度で行うことを義務付けています。橋梁の定期点検は、橋梁点検車やリフト車を使って点検員が近接目視を行いますが、従来の方法では点検時の車線規制が必要で、交通渋滞の発生や作業員の高所作業のリスクも高く、構造上の問題で点検車の使用が困難な場合もあります。
「視る・診る」は、こうした課題を解決するためにジビル調査設計が独自開発した点検支援ロボットで、橋の上に設置したコンパクトな台車からカメラを搭載したロボットアームを遠隔で操作し、橋梁の下面を近接撮影することで安全かつ効率的な橋梁点検を実現します。全国で657橋の点検実績があり(2024年4月時点)、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも登録されています。

座標連携装置(点A)

鉛直ロッド上部(点A)の座標連携装置

座標連携装置(点B)

点Bの座標連携装置

点検カメラ(点C)

点Cの点検カメラ

今回の実証実験では、この「視る・診る」に上空が開けていない場所でも老朽箇所を特定できる座標連携装置を追加し、橋の上の台車で取得したCLASの位置情報をもとに、座標連携装置を介することによって橋梁下で老朽箇所の撮影を行う点検カメラの位置情報を取得できるようにしました。これにより、次回点検する際に老朽箇所を容易に特定することができます。
国土交通省は橋梁点検の際に、位置情報を付与できる場合は、撮影したカメラの位置情報と撮影方向を参考値として記載するように定めていますが、実際には橋梁下では上空が遮られてしまうため、GNSSによる位置情報の付与は困難です。「視る・診る」にCLASの測位機能と座標連携装置を追加することにより、撮影ポイントの位置を正確に記録することが可能となります。

実演展示

実演展示の様子

今回の実演展示には、新聞社やテレビ局も取材に訪れました。冒頭、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の和田弘人企画官(準天頂衛星システム戦略室)が挨拶に立ち、みちびきを利用すれば約6cmの精度で測位できると説明した上で、「今回はその機能をインフラメンテナンスに役立てる取り組みであり、高精度の位置情報がどのように役立つのかをじっくりと確認してほしい」と話しました。

和田企画官

内閣府の和田企画官

続いて実演展示の概要説明を行ったジビル調査設計の毛利茂則会長は、これまでは橋梁の下で測位信号を取得できずに、再調査の際に老朽箇所を特定するために多大なロスタイムが発生していたとして、「その解決のために、みちびきの高精度測位を橋梁点検に採り入れようと考えた」と座標連携装置を開発した理由を説明しました。

毛利会長

ジビル調査設計の毛利会長

「視る・診る」の実演に先立って、CLASの高精度測位を実感してもらうために、毛利会長自身が衛星測位で文字を書くデモンストレーションを行いました。CLAS対応受信機を搭載したポールを手に持って河川敷を文字の形に沿って移動し、その軌跡となる文字がタブレット画面に描かれる様子を実演しました。

CLASにより文字を描く

CLAS対応受信機を搭載したポールを持って移動し(左)、「ふくい みちびき」の文字を描く(右)

毛利会長は、上空が開けた場所でセンチメータ級の高精度測位が可能であることを実演した後に、そのままポールを持って衛星電波が届きにくい橋梁の下へと移動しました。タブレットに映し出される軌跡を見ると、現在地がずれて正しい位置が示されず、測位誤差が大きくなっているのが一目瞭然です。

橋梁下面での測位

信号を電波を受信しづらい橋梁の下面では測位誤差が大に

橋脚の下に入り込むと測位精度が低下してしまうことを実演した後は、いよいよCLAS対応受信機、及び座標連携機能を搭載した「視る・診る」による実演です。遠隔操作によって鉛直ロッドを動かして水平アームを降下させた後に、水平アームを橋梁下へ回して振り込み、橋梁下を撮影可能な位置へ点検カメラを移動させました。

水平アーム

水平アームを橋梁下へ回して点検カメラによる撮影を開始

橋梁下面には事前に老朽箇所に設定したマーカーを設置して、その位置は事前の地上測量によって正確な位置情報が取得されています。実演展示では、これら複数の老朽箇所のマーカーを、水平アームを動かしながら点検カメラで観測しました。地上の台車に搭載されたモニターには、カメラが捉えた橋梁下の様子がリアルタイムに映し出されると共に、点検カメラの位置情報と撮影方向も表示・記録されました。

橋梁下面のマーカー

老朽箇所を仮定したマーカーを橋梁下に設置

事前の実験では、老朽箇所(マーカー)の位置情報について、CLAS対応受信機、及び座標連携機能を搭載した「視る・診る」で得られた位置情報と、地上測量で計測した位置情報を比較検証したところ、水平誤差40cm程度で計測できることが確認できたそうです。毛利会長によると、この程度の誤差であれば、老朽箇所の特定には十分に実用可能であるとのことです。

台車のモニターで画像確認(左)、橋梁下の撮影ポイントの位置座標と軌跡を図面上にリアルタイムに追跡表示・記録(右)

CLAS対応受信機、及び座標連携機能を搭載した「視る・診る」を使って、点検データにカメラの高精度な位置情報と撮影方向を付与して記録することにより、橋梁の3次元モデルや2次元平面図上において正確な位置確認を行えるようになります。それによって追跡調査の際にもピンポイントで過去の点検位置を確認できます。
一定間隔で点検カメラ位置の座標を取得することで点検軌跡が明確になり、点検漏れの防止にもつながります。さらに、記録した点検軌跡を再現できれば、将来的には点検カメラの自動誘導も可能となります。

ジビル調査設計は今後、点検現場での実用化に向けて更なる測位精度の向上とアーム部の剛性強化などに取り組むと共に、今回開発した座標連携装置のNETISへの登録、そして国土交通省の橋梁点検支援技術カタログへの掲載も目指して活動していく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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