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ウインドサーフィン「鎌倉カップ」でSLASを活用した実証実験を実施

2021年06月28日

5月28~29日に神奈川県鎌倉市の由比ガ浜で開催されたウインドサーフィン競技会「鎌倉カップ」(主催:日本ウインドサーフィン協会)で、N-Sports tracking Lab合同会社(NSTL)、株式会社REDDOTDRONE JAPAN、株式会社ブルーオーシャン研究所、ドローン・ジャパン株式会社の4社による、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)を活用したトラッカーやドローン、波高・流向観測ブイなどを使った実証実験が行われました。

レース中の様子

レース中の様子

今回行われた実証実験は、(1)選手に装着したSLAS対応GNSSトラッカーによる「リアルタイム順位判定」、(2)選手の位置情報に基づき空撮を自動化する「自動撮影ドローン」、(3)波高・流向観測ブイを用いた「リアルタイム海象データの表示」、(4)設定したポイントに向かって自走して目標地点で留まる「自律ブイ」、の4件です。なお、自律ブイは条件が整わなかったため競技会当日は行わず、別の日に神奈川県三浦市の津久井浜で実験を行いました。

(1)リアルタイム順位判定

ウェブサイト画面

一般向けに公開したウェブサイト(画像提供:N-Sports tracking Lab)

ウインドサーフィンやヨットの大会では、ブイに対して左右どちらの方向からターンするかが選手によって異なり、レース中に各艇の正確な順位を把握するのが困難です。この課題を解決するため、SLAS対応のGNSSトラッカーを選手のビブスに装着し、高精度な位置情報をもとに選手の順位をリアルタイムに判定する実証実験を行いました。
使用したのは、株式会社フォルテのSLAS対応GNSSトラッカー「FB2003」をベースに防水性や電池の持ちを強化、改造した最新デバイスです。ビブスの背中のポケットに収納して、選手の位置情報がクラウド経由でNSTLが構築したデータ転送基盤「N-Sports Cloud」に送信され、地図上にリアルタイムに表示されます。

受信機の装着

背中付近にフォルテのFB2003を装着

選手の位置情報を示す画面

選手の位置情報をリアルタイムに配信(画像提供:N-Sports tracking Lab)

海上にはFB2003を搭載したマークブイが設置され、チェックポイントとなるブイと選手の位置情報をもとに相互の距離が算出され、リアルタイムに順位が表示され、チェックポイントやフィニッシュラインを通過したタイムや着順も記録されます。

NSTLの横井氏

NSTLの横井氏

「位置情報の送信時に遅延が発生した場合は着順に誤差が生じることもありますが、今後、位置情報の高精度化が進んでこのシステムの正確性が向上すれば、いずれは審判が不要になるかもしれないと、大会運営事務局から大きく期待されています」(NSTLのCEO横井愼也氏)
なお、レースでは通常、各艇が何時に岸を出発し、何時に帰着したかを運営事務局に申告していますが、今回は選手の位置情報を常にシステム側で管理できたため申告不要となり、大会運営の効率化にも貢献しました。

横井氏は、FB2003に搭載されているみちびきの災害・危機管理通報サービス(災危通報)の受信機能にも期待を寄せています。
「海に出た競技者は津波や地震の発生を知ることができませんが、FB2003が災危通報を直接受信すれば、災危通報の音声メッセージによりトラブルが起きたことに気付き、安全なレースを目指す運営側にとってもメリットになります」(横井氏)

(2)自動撮影ドローン

SLAS対応のGNSSトラッカーを搭載したドローン

SLAS対応のGNSSトラッカーを搭載したドローン(画像提供:REDDOTDRONE JAPAN)

ドローンを使って広域スポーツの自動撮影を行うシステムを開発するREDDOTDRONE JAPANは、NSTLと協力して、SLASで測位した選手のリアルタイム位置情報、SLAS対応のマークブイ、SLAS対応ドローンを使って、順位が先頭の選手の位置情報にもっとも近いマークブイにドローンを先回りさせ、選手がターンする映像を撮影する実証実験を行いました。

ドローンから撮影した空撮映像。右下はドローンのコントロールアプリの画面

ドローンから撮影した空撮映像。右下はドローンのコントロールアプリの画面(画像提供:REDDOTDRONE JAPAN)

使用したドローンはDJI製の「MAVIC2」シリーズで、機体にはu-blox「NEO-M8U」を搭載した自作のGNSSトラッカーが後付けで搭載されました。このGNSSトラッカーからドローンの高精度位置情報がLTE通信でクラウドに送信され、NSTLのデータ転送基盤「REDIS」を通じてスマートフォン用のドローン操縦アプリに送信することで、ドローン内蔵のGPSでなく、SLASの高精度測位による飛行制御が可能となります。この操縦アプリは、DJIのソフトウェア開発キットを使って開発しました。

見どころが赤い円で表示される

見どころが赤い円で表示される(画像提供:N-Sports tracking Lab)

リアルタイム位置情報で選手同士の距離が近くなっている状態を“見どころ”と判断して、自動的にドローンを移動させる「見どころ自動撮影」も行いました。この“見どころ”はレース中に複数箇所が検知される場合があり、先頭の選手を自動撮影する以外に、主催者やドローン操縦者が撮影対象を選択することも可能です。

三浦氏

三浦氏

システムの開発を手がけたREDDOTDRONE JAPANの三浦望氏は、SLASのメリットを次のように説明します。
「ドローン内蔵GPSを使う場合と、SLASを使用する場合を比較すると、SLASを使うほうが、選手がフレームから見切れてしまう頻度が減り、映像の歩留まりが明らかに良くなるのを体感できます」

現時点の課題は、今回のようにGNSSトラッカーを後付けにすると重量が増え、バッテリー消費量も増えてしまう点です。そのため同社は、SLAS対応受信機内蔵の機体を独自設計することを検討中です。また、現在の1Hz(1秒間に1回)頻度での測位と位置情報送信を、10Hz(1秒間に10回)にすれば、選手の横や前などもっと正確に方向を指定できるようになるそうです。

(3)リアルタイム海象データの表示

小型の海洋ブイ

みちびき対応受信機を搭載した小型の海洋ブイ

波高や流速、風速などの環境情報を計測するには、従来の専用センサーでは消費電力やコストが大きくなるという課題がありました。今回の実証実験では、ブルーオーシャン研究所が2019年に開発したみちびき対応受信機を搭載した小型の海洋ブイを使って、海洋環境情報をリアルタイムに計測してウェブサイトで公開しました。このシステムでは、SLASに対応した受信機を小型ブイに搭載し、収集した位置情報をニューラルネットワークなどのAI技術を用いて解析することで波高や流向を推定することができるため、出場選手はレースエリアの波高や流向をリアルタイムに把握し、競技の参考にすることができます。

伊藤氏

伊藤氏

開発したブルーオーシャン研究所の伊藤喜代志氏は、次のように語ります。
「専用センサーを使わず、ブイを浮かべてみちびきの位置情報を取得してクラウドに送るだけで、人工知能を使って環境情報を推定できます。開発当時(2年前)は波高だけでしたが、今では風速や流速なども計測できるようになり、これなら海のレースに使っていただけます。海洋分野においてみちびきの高精度測位は大きな可能性を秘めています」

(4)自律ブイ

立ち入り禁止区域の指定や競技上のブイ(マークブイ)を使用する場合、従来は設置ポイントまで人が船で運び、アンカーなどで停留させていました。こうした手間を省力化する方法として、設定した目標ポイントの位置まで自動航行させ、そのまま停留する自律ブイの実証実験が行われました。
開発したのはドローンやローバー開発に実績のあるドローン・ジャパン株式会社で、実証実験では、大きさ1mの「自律ブイ1」、大きさ1.5mの「自律ブイ2」、大きさ2.5mの「自律ブイ3」の3種類を使用しました。1と2は縦長の2つの船を並べてつなげたカタマラン式、3が人を乗せることが可能な積載量のゴムボート型となっています。

自律ブイ2

自律ブイ2

自律ブイ3

自律ブイ3

3つのブイはいずれも左右2つのモーターを搭載し、各モーターの差動により方向が変わります。2と3は、みちびきのSLASに対応したGNSS受信機を使用しています。船体は市販ボートを改造したもので、機体制御ソフトウェアであるフライトコントローラーには、オープンソースの「ArduRover」を水上自律航行用に応用したものを使用しています。

実証実験では、岸から停留ポイントに自動航行させ、目標地点で一定時間停留させました。自律ブイには、選手に装着したのと同じSLAS対応GNSSトラッカーを搭載し、航行・停留位置を中央管理システムに送信しました。

春原氏

春原氏

ドローン・ジャパン株式会社の取締役会長を務める春原久徳氏は、この実験について次のように説明します。
「実験では、停留ポイントから半径約2mの円内に停留させられることを確認しました。もっとも懸念していたのはバッテリー消費でしたが、1時間停留させても約5%しか減っておらず安心しました。スタートやゴールラインのブイに使うとなると精度面で改善の余地がありますが、練習用途や危険区域のお知らせには十分に使えます」

左から横井氏、春原氏、三浦氏、伊藤氏

(左から)NSTLの横井氏、ドローン・ジャパンの春原氏、REDDOTDRONE JAPANの三浦氏、ブルーオーシャン研究所の伊藤氏

NSTLの横井氏は総評として、「今回の実証実験では、位置情報の可視化だけではなく、着順判定やドローンの自動撮影などさまざまな付加価値を実現できました。コロナ禍が去った後にこの成果をきちんと見せられるよう、来年も引き続き取り組んでまいります」と語りました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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