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[実証2023-8] LocationMind:信号認証サービスを利用したCO2排出量モニタリング支援ソリューション

2024年11月05日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。
今回は、2023年度にLocationMind株式会社が実施した「みちびき信号認証サービスを利用した高信頼性のCO2排出量モニタリング支援ソリューション」の取り組みを紹介します。同プロジェクトについて、同社Space DivisionのGNSSアプリケーションストラテジスト/マーケティングマネージャーを務める斉藤りか氏と、プログラム/プロジェクトマネージャーを務める竹中誠氏に話を聞きました。

プロフィール写真

斉藤氏(左)と竹中氏(右)

ロケーションマインドは地理空間情報の分野で研究を行ってきた東京大学 柴崎研究室発の技術ベンチャーで、2019年に設立されました。同社は人流ビッグデータの処理や分析・可視化、AIによる人流予測などのビジネスを行うと共に、衛星測位において測位信号にセキュリティ施策を付与する特許技術も保有しており、みちびきの信号認証サービスにも同技術が使われています。
今回の実証事業では、このみちびきの信号認証サービスに対応したGNSS受信機をビズステーション株式会社と共同で開発し、その性能評価を行いました。さらに開発した受信機を活用して、NEXT Logistics Japan株式会社と共同で物流トラックにおいて位置情報データ取得及びCO2排出量を算出しました。

同社がみちびきの実証事業に応募した理由について、斉藤氏は以下のように語ります。
「測位信号へのセキュリティは当社が設立した時からの事業の柱の一つとして考えており、みちびきの信号認証サービスが商用に耐えうるかどうかを技術的に確認すると共に、信号認証サービスがどのようなビジネスの領域で使えるのか可能性を追求したいと思って応募しました」(斉藤氏)

信号認証サービスの適用分野として同社が物流というテーマを選んだのは、SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まる中、輸送車両のCO2排出による環境への影響が懸念されており、CO2排出を削減させるために正確なCO2排出量のモニタリングが求められている背景があります。また、輸送効率の向上や将来的な自動運転化に向けて、位置情報の改ざんを防止する技術の必要性が今後高まっていくことも見据えています。

顔写真

斉藤氏

みちびきの信号認証サービスに対応したGNSS受信機の開発は、ビズステーション株式会社と共同で実施しました。u-bloxのGNSS受信モジュールのZED-F9P及びNEO-D9Cを搭載したCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応の受信機「RWS.DC」をベースとして、ファームウェアを改修することで信号認証機能を実装し、みちびき、GPS、Galileoすべての衛星について信号認証を行い、偽装信号を検出できるようにしました。

受信機とアンテナ

ビズステーションと共同開発したGNSS受信機と外付けアンテナ

測位した位置情報及び信号認証状態のデータをクラウド基盤に構築したデータプラットフォームへ安全に送信するため、受信機との間にLTE通信機能を実装したボード型コンピュータ「Raspberry Pi」を設け、SSL (Secure Sockets Layer) / TLS (Transport Layer Security) による通信を行いました。

送信デバイス

Raspberry Piを使ったデータ送信デバイス

データプラットフォームでは、受け取ったデータから通信エラーなどで生じた欠損データの削除や必要なデータ整形を行った上で、車両の走行状態(走行中/停止中、など)を分析して、走行距離やCO2排出量などを算出することができます。
開発したGNSS受信機及びRaspberry Piのデバイスはトラック車両の車内に設置し、電源はシガーソケットに接続しました。CLAS及び信号認証サービスに対応したGNSSアンテナは、信号を受信し易くするため車外のミラーアーム上部に両面テープと結束バンドを用いて取り付けました。

アンテナを車両のミラーアーム部に取り付け

走行試験の経路

物流トラック車両での走行試験は、日野自動車株式会社が設立したNEXT Logistics Japan株式会社(NLJ)と共同で、NLJの相模原センター(神奈川県)から豊田営業所(愛知県)を経由して西宮センター(兵庫県)に至るルートにおいて、ルートを往復するトラック6台(実証期間中に走行していた車両は5台)を対象として位置情報データと信号認証状態のデータを取得しました。
CLASで計測した位置情報をもとに算定した走行距離とCO2排出量の正確性については、走行距離の真の値を求めることが困難なため、NLJが現在CO2排出量の算定時に利用している区間距離情報と、デジタルタコグラフ(運行記録計)による計測値、Googleマップによる計測値と突合して確認しました。

取得した位置情報の軌跡

今回の実証では、実証期間中に5台の車両が31,855kmを走行し、位置情報データを取得したところ、走行距離についてはデジタルタコグラフと比較して-4.2%、計画距離と比較して-1.0%、Googleマップで計測した距離と比較して+0.2%の距離となりました。一方、CO2排出量については、実証期間中の総排出量は10.9トンで、従来手法と比較して-0.5%という値になり、走行距離とCO2排出量のいずれも高い精度で測定できることが確認できました。

走行距離の計測結果

信号認証機能の性能評価については、定点観測における静的評価と、車両走行時の動的評価の2つの評価を行いました。みちびきの信号認証サービスでは、みちびきから電子署名が配信される間隔は、GPSとGalileoは5分(1時間に15回)、みちびきは4分(1時間に12回)で、この間隔の間に1つ以上の衛星で認証が成功した回数を電子署名が配信された回数で割った比率を“信号認証率”として算出しました。
2024年1月13日の午前0時~正午までの12時間で行った静的評価における信号認証率は100%となりました。
車両走行時の動的評価では、NLJの相模原センターから西宮センターまでの490kmを走行した車両の取得データを分析しました。この経路のうち最長トンネル長は4.6kmで、連続してGNSS電波の受信が不可となる時間は4分間でした。また、この経路上には複数のトンネルがあり、全体を通して1分以上GNSSが受信不可となる回数は33回計測されました。この経路における信号認証率は、トンネルなどのGNSS測位信号の受信不可区間を含めても80%以上という結果になりました。車両走行時の刻々と変化する環境条件下においても高い信号認証率を実現しており、信号認証サービスは、算出したCO2排出量の信頼性向上に十分に貢献できるとしています。

次にみちびきの信号認証サービスを活用して、スプーフィング(なりすまし)対策機能の検証を行いました。スプーフィング対策の検証は、大分県産業科学技術センターの電波暗室の中における無線信号による検証と、車両走行中の有線接続による検証の2つの試験を実施しました。
電波暗室内での試験では、実際の衛星から送信される測位信号(ライブ信号)を再送信すると共に、GNSSシミュレーターで生成したスプーフィング信号を同時に出力し、信号認証サービスに対応したGNSS受信機を使って測位信号とスプーフィング信号を同時に受信する環境を作りました。
試験シナリオは、最初にスプーフィング信号のみで測位を開始し、次にライブ信号を追加します。その後、スプーフィング信号のみを徐々に弱くして最終的には出力を停止し、ライブ信号のみの状態にした後に再びスプーフィング信号を追加し、今度はライブ信号のみを徐々に弱くして、最後はライブ信号を停止してスプーフィング信号のみの状態にしました。
RWS.DCに搭載されているu-bloxのZED-F9Pは、スプーフィング対策として初回測位で補足した衛星信号を信号強度が弱くなるまで追跡する特性があるため、スプーフィング信号のみで測位を開始すると、信号認証サービスを使わない状態では、その後にライブ信号を追加してもスプーフィング信号を継続して追跡し、ライブ信号のみで測位を開始した場合でも、スプーフィング信号を追加してもライブ信号で測位する結果となりました。
このように、GNSSモジュール自体にスプーフィング対策機能が実装されていても、初回起動時にスプーフィングが行われれば位置を偽装することが可能となりますが、信号認証サービスを利用することによって測位開始時からライブ信号とスプーフィング信号を識別し、正しい信号を使って測位できることが確認されました。

電波暗室

電波暗室内での試験

車両走行中の試験については、東京湾アクアラインの海ほたるPAと袖ケ浦市を結ぶルートにおいて行いました。始めに海ほたるPAから袖ケ浦市に向かう際に、GNSS信号をRFレコーダーで記録し、袖ケ浦市で折り返し川崎方面へ戻る際に、海ほたるPAの手前から記録したRF信号を再生して有線でGNSS受信機に送信を開始しました。記録したRF信号を送信した状態で東京湾アクアライントンネルに入り、トンネルを通過後に信号の送信を停止しました。
この試験では、実際のGNSS衛星測位信号を記録したものをそのまま再送信する「ミーコニング」と呼ばれる位置情報の欺瞞手法を再現しています。ミーコニングでは電子署名についても過去の記録データをそのまま送信するため、信号認証サービスを使った場合でも、偽装信号であるにもかかわらず信号認証が成功してしまいます。
今回の試験でも全期間において信号認証が成功していますが、ミーコニングの場合はシステム時刻とGNSS時刻にずれが生じるため、時刻差を観測することで偽装を検出することができます。この試験によって、信号認証サービスを利用する場合でもシステムまたはネットワーク時刻とGNSS時刻を比較して偽装検出する仕組みは重要であると確認できました。

車両走行中

車両走行中の試験

今回の実証により、竹中氏は信号認証サービスがトラック走行のCO2排出量算出とスプーフィング対策に有効であることが確認できたと手応えを感じています。パートナーであるNLJもCO2排出量算出において位置情報データの正確性と信頼性には大きな関心を持っており、NLJからもみちびきのCLAS及び信号認証サービスについて好評価が寄せられたそうです。
同社は今後、物流企業が信号認証サービスによる信頼性の高い位置情報データを物流計画の立案やCO2排出量の計算に活用できるように社会実装に向けて取り組む予定で、2025年の夏頃から事業化に向けて取り組みを拡大していこうと考えており、それに向けて信号認証サービス対応の新たなGNSS受信機を独自に開発しています。また、ビットエラー等により信号認証が不成功となった場合や測位そのものができない場合に、データを補うアルゴリズムも開発中で、そのような仕組みが完成するとサービスとして提供レベルになると考えています。

受信機のプロトタイプ

開発中の信号認証サービス対応受信機のプロトタイプ

また、物流トラック以外にも、船舶やドローンへの信号認証サービスの実装についても取り組んでおり、位置・時刻情報の信頼性を担保する用途として、金融分野への適用も検討しています。
「信号認証サービスは、スプーフィング対策という観点では防衛分野のニーズが高いと思いますが、今回のCO2排出量計算のような『測位信号の正しさを証明したい』という用途も民間企業ではニーズが高いと思いますので、今後も衛星測位が必要な分野に幅広く信号認証サービスの実装を進めていきたいと考えています」(竹中氏)

顔写真

竹中氏

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※記事中の画像・図版提供:LocationMind株式会社

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

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