コンテンツです

全国初の自律航行水上EVタクシーにCLASが活用

2023年02月13日

株式会社エイトノットが開発した、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を活用した小型船舶向け自律航行プラットフォーム「エイトノット AI CAPTAIN」が、自動航行EV(電気推進)船による一般旅客向け水上タクシーに導入されました。水上タクシーは、広島市内の旅客船運行事業者である有限会社バンカー・サプライによって、2023年1月19~22・26~29日の期間に運行を実施しました。

広島で運行した水上タクシー

広島で運行した水上タクシー

エイトノット社は2021年の設立以来、「あらゆる水上モビリティを自律化し、海に道をつくる」というミッションのもと、瀬戸内海においてソフトウェアを中心とした小型船舶向け自律航行技術の開発を行っています。昨年(2022年)10月には、AI CAPTAINを搭載したロボットAIクルーザー「エイトノットワン(Eight Knot I)」も発表しました。
今回の水上タクシーは、昨年6月に広島県の「サキガケプロジェクト実証実験実施業務」に採択された後、バンカー・サプライ社と協議を重ねて営業開始に至りました。自律航行システムを搭載した船舶による水上タクシーの営業は、全国初の事例となります。

関係者写真

水上タクシーの運行に先立ち広島県の湯﨑英彦知事も乗船した。(写真左から)エイトノットの木村裕人・代表取締役CEO、湯﨑・広島県知事、運行会社バンカー・サプライの横山恭治・代表取締役社長、エイトノットの横山智彰・取締役CTO

今回は、水上タクシーに導入されたCLASを活用した船舶の自律航行技術について、開発者であるエイトノットの木村氏に聞きました。

木村氏

木村氏

ナビとして使える船舶向け自律航行システム

AI CAPTAINは、みちびきのCLAS対応受信機を搭載した自律航行システムで、タブレット上で目的地に応じて自動的にルートを設定し自動離着岸、及び航行を行えます。航行中はCLASによる位置管理に加えてLiDAR(レーザースキャナー)や光学カメラ、IMU(慣性計測ユニット)などを搭載し、障害物や他の船舶を自動的に回避できます。
「AI CAPTAINは、車のカーナビのように自分の船の位置と目的地をタブレットやPC上で選択するだけで航路を自動生成し、離岸から着岸まで一切、人の手を介することなく安全に目的地までたどり着けます」(木村氏)

エイトノットワン

エイトノットワン

遠隔のモニタリング機能も備えており、カメラで周囲を監視しつつ、遠隔から航行の開始・停止指示などを行えます。船舶関連事業には、ヒューマンエラーによる事故の多発や人材不足、離島航路の維持・存続といった問題がありますが、将来的にPCやタブレットによる監視を現在の複数台から1台でできるようにして船舶の運用を効率化することで、こうした課題の解決を目指します。

AI CAPTAINのルート設定画面

AI CAPTAINのルート設定画面

このAI CAPTAINを市販のクルーザーに組み込んだのが「エイトノットワン」です。全長7.47mの小型船舶で、定員10名で航行時間は約3時間、電動船外機を2機搭載しており、最大速度は8ノットです。乗客は船内のモニターで船の位置や周辺の状況などを確認できます。先月末に広島で運行した水上タクシーにも、エイトノットワンが採用されました。(なお、船を無人で航行させることは法律上できないため、技術的には完全自律航行が可能ですが、現時点では運行時に船舶免許保持者が乗船しています。)

乗船体験会

エイトノットワンの乗船体験会(2022年10月28日)

2つのアンテナの位置情報をもとに方位角を検出

アンテナを2つ搭載

アンテナを2つ搭載(赤丸部分)

エイトノットワンは、CLAS対応アンテナとRTK対応アンテナを1つずつ搭載しており、受信機はu-blox社のCLAS対応モジュール「NEO-D9C」を1つと、RTK対応の「ZED-F9P」を2つ(移動基準局と移動局)を搭載しています。

受信機とアンテナ

CLAS対応受信機(左)、CLAS対応アンテナ(右)

「初期の頃は精度を追求してRTK(リアルタイムキネマティック)測位を試したこともありましたが、RTKは近隣に基準局を設置しなくてはならず、設置場所の確保が課題となったため、基準局が不要で自由度が高く、通信環境に左右されずに高精度測位が可能なCLASを採用しました」(木村氏)

みちびきのL6信号をもとにした補正情報がNEO-D9Cから移動基準局側のZED-F9Pに出力され、そこからさらに移動局側のZED-F9Pに出力されます。これにより2つのZED-F9Pに接続されたアンテナの高精度な位置情報をそれぞれ取得し、両アンテナの位置関係から船首の方位を算出します。

測位システムの概要図

測位システムの概要図

船舶の場合は海上で横滑りやふらつきなどが発生し、IMUでは正確な方向の検知が難しいため、高精度測位に対応した2つのアンテナの位置情報をもとに船が向いている方向を割り出すことで高精度な方位角検出を実現しています。

なお、桟橋への接岸時はLiDARなど他のセンサーは一切使わず、CLASの位置情報のみで制御しています。接岸する桟橋の位置情報は、事前の測量などは行わず、海図をもとに設定しており、それで十分に高精度な接岸が可能です。
「今回は桟橋が大きく、位置がずれる心配がないためにCLASのみで接岸できますが、小さな桟橋で頻繁に位置が動くようなら、LiDARなど他センサーの併用が必要となります」(木村氏)

CLASの高精度測位は、接岸時だけでなく離岸時や航行中にもメリットがあります。
「CLASを活用することで、あらゆる場面で我々の自律航行技術の精度を向上させられます。測位精度が高ければ高いほど自船の位置を正確に特定できるので、他船や障害物を避ける際の位置のズレが少なくなり、制御面でとても助かります」(木村氏)

AI CAPTAINではLiDARやカメラを使って他船や障害物を検知しますが、AIS(自動船舶識別装置)で大型船の位置の把握も行っており、AISをもとに他船を避ける際にも高精度測位が役に立ちます。

2025年度を目標に完全自律航行船を実現

運行中の水上タクシー

運行中の水上タクシー

AI CAPTAINは、現在20トンクラスまでの船舶に対応しており、EV船だけでなくエンジンを搭載した船舶にも対応可能です。
「何トンクラスの船まで適用可能かはこれから検証が必要ですが、30トンクラスの船でも間違いなく対応できると思います。ただ、20トンを超えると適用される法律やルールが変わるため、まずは比較的新しいことに挑戦しやすい20トン未満のクラスに特化することで事業化のスピードを上げています」(木村氏)

今回は広島市で期間限定の運行となった水上タクシーですが、今後は広島県内の別の地域や、愛媛県などでも遊覧用途で運行される可能性があるとのことです。実際に乗船した乗客も「小さい船なので揺れや音が心配だったが、着岸がスムーズでエンジン音もなく快適だった」と話しており、船長からも「離岸、着岸、操船、運航の負荷が軽減され、精神的にも安心できる。心強いパートナーであり、ふだん担当している定期航路にも導入してほしい」と好評でした。実施事業者であるバンカー・サプライも「自律航行船ということで操船スキルも統一でき、運航管理もしやすい」として今後に手応えを感じています。
エイトノットでは2025年度をめどに完全自律航行船の実現を目指しており、無人航行が可能となるエリアを特区として指定してもらうことなどを関係機関と協議中です。

また、船による旅客輸送だけでなく、貨物輸送でも将来を見据えた取り組みを行っています。その一環として今年度(2022年度)みちびきを利用した実証事業として採択された「みちびきを活用した自律航行船・ドローン間協調制御の物流網への適用」(代表事業者:独立行政法人国立高等専門学校機構 広島商船高等専門学校)のプロジェクトにも参加しました。

エイトノット社は、洋上で自律航行船とドローンとの間で確実な輸送物の受け渡しができる協調制御システムの開発に取り組んでおり、2022年11月には実証実験も行いました。
「船だけ、ドローンだけではできることが限られるので、お互いの強みを上手く組み合わせて最適な物流網を検討しています。実証実験では、航行中の船の上にドローンがきちんと離発着できるか、連携して動かせるかどうかを確認しました。将来に向けて大きな可能性を形として示せた意義のある実証でした」(木村氏)

同社が今後目指しているAI CAPTAINの海外展開でも、みちびきによる高精度測位の活用を想定しています。
「海外展開は創業時から意識して取り組んでおり、今年から来年にかけて東南アジアなどでみちびきを活用した自律航行技術を展開したいと考えています。自律航行技術にとって測位精度は非常に重要であり、常に一定の位置精度で測位できるみちびきを心強く思っています」(木村氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※記事中の画像・図版提供:株式会社エイトノット

関連記事