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[2021実証-4] 福島高専:みちびきとMarhy 3D Map(機械可読高精度三次元地図)のコラボレーションによる自動運転の基礎的実証事業

2022年08月29日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。
今回は、2021年度に基礎実証枠の実証事業として福島工業高等専門学校(福島高専)、株式会社大和田測量設計、株式会社エイブル、株式会社村上商会、Arithmer(アリスマー)株式会社の5者が共同で行った「みちびきとMarhy 3D Map(機械可読高精度三次元地図)のコラボレーションによる自動運転の基礎的実証事業」を紹介します。
都市経済学を専門とする福島高専の芥川一則教授(ビジネスコミュニケーション学科)は、地域の発展に向けて主に農業分野へ自動運転システムを導入したいと考え、今回の実証実験に取り組んだといいます。詳しく話を聞きました。

芥川教授、片岡さん、熊本さんの写真

左から福島高専の芥川教授と、実証実験に協力した片岡佑記さん、熊本咲英さん

ドローンを使い高精度三次元地図を作成

地方都市では、人口減少が進む中で活性化及び収益増をいかに実現するかが課題となっています。芥川教授はそのための方法の一つとして、農機を自動化して農作業のコストダウンを図り、農家の収益を上げることで農業従事者を増加させたいと考えています。
今回の実証実験では、ドローンによって取得した「機械可読可能な高精度三次元地図」(Machine Readable Hyper 3Dimension Map: Marhy 3D Map) を開発し、これをもとにみちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)測位に基づいた電動車両「PIUS」による自動運転を行い、検証しました。

全体のシステム設計を福島高専が担当し、Marhy 3D Mapの作成を地元の測量会社である大和田測量設計、移動制御システムをエイブルが構築し、PIUSの提供及びハンドルなどを制御するアクチュエーターの構築を村上商会、AIによるルート作成をArithmerが担当しました。

ドローンの写真

Marhy 3D Mapの作成に使用したドローン

実証では、まずレーザースキャナーを搭載したドローンを使用して、福島県南相馬市にある福島ロボットテストフィールド内のテストコースをレーザー計測し、X・Y・Zの座標点及び色情報を持つ点群データである「Marhy 3D Map」を作成しました。
「1cmの解像度でデータを取得できる高性能なレーザースキャナーを使用したのですが、その解像度ではデータ量が莫大になってしまうため、実際には10cmの解像度でデータを取得しました。農作業であれば、それで十分、実用的に使えます」(芥川教授)

3D Mapの画像

作成したMarhy 3D Map

芥川教授はこのMarhy 3D Mapを自動運転用のルート作成の素材としてだけでなく、自動航行ドローンや災害シミュレーション、都市計画などにも使える総合的なプラットフォームと位置付けています。

小型電動車両にCLAS対応受信機を搭載

今回使用した実験用車両のPIUSは、全長2.5m、全幅1.23m、全高0.85mの1人用小型電動車両のキットで、これに三菱電機のCLAS対応受信機「AQLOC」及び制御用のシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」を搭載しました。さらに、運転席のやや前方にポールを立てて、CLAS対応のGNSSアンテナを取り付けました。
Raspberry Piにはエイブルが開発した独自の制御プログラムを搭載して、ハンドルを動かすアクチュエーターや走行スピードを制御しました。

PIUS

小型電動車両キット「PIUS」

走行実験では、Marhy 3D Mapをもとにして取得した道路縁の線の位置をもとに、そこから50cm内側に沿って通過点を約50cmおきに設定し、車両がそこを通過しながら走行するように設定しました。農機での使用を想定しているため、実験時の走行スピードは時速10km程度に設定しました。走行中はAQLOCからCLASの位置情報を取得し、アクチュエーターの駆動によりハンドルを自動制御して、設定した走行ルートに沿って進みます。

「方向やスピードはRaspberry Piによる自動制御だけでなく、ラジコン模型用の送信機からも操作できます。ラジコンで動くものであればRaspberry Piを取り付けるだけで自動運転が可能になることを確認したかったからです」(芥川教授)

プログラム改良で高精度な自動運転を実現

実験中の様子

実験中の様子

実験中の様子

第1回の実証実験は昨年(2021年)12月18、19日に行いました。この時はMarhy 3D MapとCLASの測位結果に約50cmの誤差が生じてしまいました。原因を調べたところ、「元期」と「今期」のの違い(*)によるものと判明したため、年明け1月5、6日の2回目の実験ではこの違いを補正して行い、誤差はcm単位以下と大幅に減少しました。

*日本列島は複数のプレート境界に位置するため、年間数cmほどの複雑な地殻変動が起こっており、その影響で測量に利用する基準点も、実際の地球上の位置と測量成果の示す座標値が時間と共にずれていきます。現在一般に公開されている測量成果は、日本列島を2つに分けて基準日となる「元期」を設定しており、その日における座標値が公開されています。それに対し、観測を行った時点を「今期」と呼んでいます。既存の多くの地図と、衛星測位による高精度の位置情報を重ね合わせて十分に活用するには、地殻変動によるずれ(元期と今期の座標の違い)を補正する必要があります。

実証実験の様子

実証実験の様子

2回目の実験でMarhy 3D MapとCLASの測位誤差がかなり小さいことを確認できましたが、一方でRaspberry Piによる制御の誤差が大きく、改善が必要だと判明しました。その原因は、走行スピードにありました。CLASで測位して、制御に反映するまでに時間差が生じるため、推測しながら制御していく必要がありますが、走行スピードが細かく変動すると先読みの時間に狂いが生じてしまいます。
「車両速度が予測値どおりなら上手く制御できるのですが、速度が少し遅かったり速かったりするとズレができてアルゴリズムにバグが発生する状況でしたので、これを改良する必要が生じました」(芥川教授)

1月29日に行った3回目の実験では、この先読みのアルゴリズムをチューニングして精度を高めました。これにより精度が向上したため、2月5日の4回目の実験はメディアに公開し、新聞社やテレビ局などの取材も受けました。最終的に測位誤差は平均0.5cm、標準偏差3.8cmと極めて誤差の少ない結果となりました。

今後は教育キットや芝刈り機の自動運転なども

実は芥川教授は、実験当初はCLASの測位精度について懐疑的でしたが、実際に使ってみてその評価は大きく変わったそうです。
「一般的なGPSでは誤差が5~6mぐらいになるのが当たり前で、最初はCLASで高精度測位ができるとは思ってなかったのですが、実際に試してみたら本当にセンチメータ級の誤差に収まってびっくりしました。実験結果を見て、方向や速度を遠隔操作できるラジコンのような移動体さえあれば、CLAS対応受信機とRaspberry Piだけで自動化を簡単に実現できると確信を持つことができました」(芥川教授)

実証実験の様子

実証実験の様子

PIUSを提供する村上商会は、今回のシステムを活用した教育キット「PIUS Autonomous Kit」を開発中で、これで自動運転システムの普及を図る方針です。芥川教授はこのキットの発売後、福島ロボットテストフィールドでの自動運転コンテストの開催も検討しています。また、このシステムの農機以外への適用も考えており、芝刈り機メーカーの株式会社築水キャニコムと共同で、自動運転可能な芝刈り機の開発にも取り組んでいます。
「たとえば河川の堤塘など、人手が足らず草刈りが追い付つかないような場所で自動的に草刈りを行うことも可能になります。携帯電話が通じない場所でもCLASであれば高精度測位ができるので、周りに人が住んでいないような所でも自動運転が可能です。Marhy 3D Mapと組み合わせればドローンによる自動宅配や農薬散布などにも利用可能で、ドローンで離着陸の精度を高めるにもCLASは有効だと思います」(芥川教授)

CLASとMarhy 3D Mapの組み合わせに大きな可能性を感じている芥川教授に、みちびきへの期待を聞きました。
「測位衛星や対応機器などをまるごとパッケージ化して“みちびきシステム”として海外に展開したいと思わせるほどの可能性を感じています。農機の自動化だけでなく、いろいろなものが自動化でき、ドローン宅配も自動化できるとなれば、一般的なGNSSに比べて大きな付加価値を持つので、みちびきの今後には大いに期待しています」(芥川教授)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像提供:福島工業高等専門学校

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