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[実証2024-1] ニュージャパンナレッジ:ごみ収集管理における「みちびき」活用実証

2025年08月06日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、2024年度に株式会社ニュージャパンナレッジが実施した「ごみ収集管理における『みちびき』活用実証」の取り組みについて、同社の笠原宏文取締役に話を聞きました。

取材写真-1

ニュージャパンナレッジの笠原氏

実証写真-1

ごみの収集作業

自治体が行うごみ収集事業は、地域住民の暮らしに直接関わる行政サービスであり、住民からのクレームやごみを分別する手間の増大などの課題に対応するため、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を活用したごみ収集業務の効率化とサービス品質の向上が求められています。
山口市でソフトウェア開発・販売や情報処理、システムインテグレーションなどを手がけるニュージャパンナレッジは、ごみ収集業者のニーズに基づいたごみ収集管理システム「Clean Collect」を開発し、3年前から提供しています。このシステムは、ごみ収集の履歴管理やクリーンセンターでの情報管理、作業情報管理などの機能を備えていますが、システムへの情報入力を収集作業員のスマートフォンから行う仕組みであり、その作業負荷や機材費・通信費などのコスト負担が課題となっていました。

図版-1

従来から提供している「Clean Collect」

ごみ収集業務の効率化をさらに進めるためには、ごみステーションごとの収集作業の把握や、ごみステーションの位置管理のデジタル化が必要となります。そこで同社は「Clean Collect」に改良を加え、みちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)に対応した受信機をごみ収集車に搭載し、位置情報をリアルタイムにクラウドサーバーに送信して管理者が把握できるシステムを構築することにしたのです。

図版-2

今回の実証事業の概要図

ニュージャパンナレッジは、過去にみちびきの高精度測位を利用した視覚障がい者のスポーツ介助支援システムを開発しており、2019年度みちびきを利用した実証実験公募で採択されました。笠原氏は、その経験を今回も活かそうと考えました。
「Clean Collectは現在も事業者等でご利用いただいており、入力作業の自動化やごみステーションの位置把握など、現場から様々な要望が寄せられています。みちびきを活用すればこうした要望を解決できるのではないかと思いました」(笠原氏)

実証写真-2

盛岡・紫波地区で実証に使われたごみ収集車(パッカー車)

今回使用したSLAS対応の受信機は、N-Sports tracking Lab合同会社の「NGP11」です。NGP11はSLAS対応のGNSSアンテナを搭載した受信機で、計測した位置情報をLTE-M通信によってクラウドサーバーに送信できます。このNGP11をごみ収集車の助手席側ダッシュボードに設置し、電源はごみ収集車のシガーソケットから供給しました。

実証写真-3

SLAS対応受信機「NGP11」(右)を助手席のダッシュボード上に設置(赤丸部分)

実証実験を行った場所は、岩手県の盛岡紫波地区、及び和歌山市、東京都武蔵野市の3カ所で、それぞれ数台のごみ収集車が稼働する中、2~3台の一般ごみ(可燃ごみ)収集車にNGP11を搭載しました。各地区で実施した実証の内容は、以下の3項目です。

<ごみステーションの位置把握>
ごみステーションの位置情報を所有していない自治体向けに、ごみ収集車の移動履歴から、ごみステーションの位置情報が自動的に抽出できるかを検証しました。ごみ収集車の移動履歴をもとに、速度が一定以下のポイントを「停車した位置」として抽出し、そのポイント位置をヒートマップ化してごみステーションの位置を抽出しました。

図版-3

軌跡をもとにヒートマップ化

<ごみ収集の業務履歴>
収集作業をごみステーションごとに自動認識できるかを検証するため、ごみステーションのまわりでごみ収集車が一定の時間停車している場合に「ごみを収集した」と判定して業務履歴を作成しました。

図版-4

収集したステーションの検出

<ごみ収集車の交通安全管理>
ごみ収集車の速度等を計測することで「急発進」「急停車」「走行速度」を把握できるか検証するため、走行速度は道路情報から超過速度を抽出し、急発進・急停止は速度(加速度)履歴から抽出して運転評価モデルの検討を行いました。

ごみ収集車にGNSS受信機を搭載して位置情報を計測するメリットとしては、上記3点のほか、住民から「ごみ収集車の走行速度が速すぎて危険ではないか」「ごみを収集してもらえなかった」といったクレームを受けた際に、ごみ収集車がごみステーションを通過した時刻や走行速度を測定値として明確に示せることなどもあります。

実証の結果、ごみステーションの位置把握については、盛岡・紫波地区においてヒートマップで予想されるごみステーション数は1,488カ所となりました。実際のごみステーション数は1,411カ所で、このうち1,344カ所が作成したヒートマップエリア以内にあることが分かり、適合率は95%となりました。予想したごみステーション1,488カ所に対して、正解は1,344カ所と9割の精度で位置を予測できたため、ごみステーションの位置情報を所有していない自治体でも活用が見込めることが分かりました。
また、作成したヒートマップエリアをもとに、ごみステーションの位置が土地開発の影響などで移動した場合や、現在は収集していない場合など、実際の位置とずれているケースも確認できました。ヒートマップから外れたものとして51カ所、軽微なズレなど505カ所についても修正することができました。

図版-5

盛岡・紫波地区でのヒートマップエリア

ごみ収集業務の判定は、盛岡・紫波地区において2024年12月2~21日までの移動履歴をもとに解析したところ、12月2日にはごみ収集したと判定したごみステーションは90件で、実際に収集した件数と同じ正確な記録を取ることができましたが、12月12日は未検出4カ所、誤検出2カ所となるなど不正確な記録となる場合もあり、解析した16日間で検出できたごみステーションの検出率は97%でした。
未検出の主な原因は、移動履歴の欠損や収集の判定に当てはまらないことなどでした。誤検出については、ごみステーションの位置ずれや近接したごみステーションを別々のごみ収集車が収集したことなどが原因でした。

図版-6

実際に収集した件数と実証の比較

ごみ収集車の交通安全管理では、ごみ収集車の速度と加速度を地図上に可視化して、安全管理の運転評価モデルを作成しました。速度については道路情報を活用することで速度超過や一旦停止不履行の判定を行うことが可能で、運転スコアの最大を100として速度超過や一時停止不履行、急停車・急発進の階数を減算することで運転手の安全運転を評価しました。

今回の実証ではSLASを利用しましたが、同社はSLASよりも測位精度が高いCLAS(センチメータ級測位補強サービス)の活用も検討しています。CLASを使えばごみステーションの位置把握や収集業務の判定の検出精度は高くなりますが、一方でSLASには受信機コストが低いというメリットがあります。最終的にSLASとCLASの双方の検証結果を比較して、それぞれの利点を踏まえながらどちらを採用するかを検討します。
「高精度測位を活用することで、収集ポイントの推測やごみ収集作業の把握は実現できる見通しが立ちましたが、まだ精度が十分とは言えません。CLASにするとどれくらい精度を向上できるかも確認したいと思います。そのためにもCLASに対応した受信機が今よりももっと低価格になるよう期待しています」(笠原氏)

取材写真-2(展示会場にて)

笠原氏

また、今回はごみ収集車の運転席内にアンテナ付き受信機を設置しましたが、ごみステーションとの位置のズレを小さくするために、車両後部のごみ投入口付近にアンテナを設置できないかも検討しています。笠原氏は将来的に、ごみ収集車で道路の走行情報を収集し、道路の凹凸を分析して道路維持管理に活用するなど、様々な用途に活用できるシステムに発展させたいとの希望を持っています。同社は、今後さらに実証を重ねながら、2026年度にはClean Collectにみちびき対応受信機を導入し、高精度測位を活用したサービスを提供する予定です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※記事中の画像・図版提供:株式会社ニュージャパンナレッジ

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

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