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[実証2020-3] イクシスがSLAS/CLAS活用の道路付属物AI点検システム

2021年08月23日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。
今回紹介する2020年度の実施事業者は、株式会社イクシス。神奈川県川崎市を拠点に、インフラ点検・検査・監視等をサポートするロボット開発、AI解析やARを活用した作業者の支援ツールなどを提供しています。同社の代表取締役Co-CEO兼CTOを務める山崎文敬氏に、みちびきのサブメータ級測位補強システム(SLAS)及びセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用した道路付属物の自動点検システムについて聞きました。

イクシスの山崎氏

イクシスの山崎氏

経年劣化したガードレールの位置情報を管理

経年劣化したガードレール

経年劣化したガードレール

高速道路や一般道路に設置されているガードレールや標識、照明などの道路付属物は、施設管理者が定期的にパトロールカーで巡回し、作業員が目視点検を行って詳細点検が必要な箇所を特定しています。特定された箇所は後日、交通規制を行った上で再度現場に行って亀裂や腐食、ゆるみ・脱落、破断、剥離などの有無を詳細に点検し、補修の要不要を作業員が判断します。
イクシスは現在、交通規制を行うことなく、作業員の安全を確保しながら効率的に道路付属物を点検するための「道路付属物AI点検システム」を開発中で、道路付属物のうち、ガードレールを対象とした「ガードレール点検システム」はすでに開発が完了しており、サービスの提供を開始しています。

AIを活用してガードレール支柱の腐食や損傷を抽出

AIを活用してガードレール支柱の腐食や損傷を抽出

同システムは、まず走行中のパトロールカーから市販の4Kカメラでガードレールの支柱を動画撮影し、点検対象区間を動画編集ソフトで切り出します。これをAI(人工知能)により解析し、自動的に腐食や損傷個所を検出して、支柱単位のリスト表示とデータベース化を行うことで、経年劣化の進行度合いを管理でき、補修や交換が必要な場合はアラートを表示できます。また、点検や診断のデータに加えて、点検調書の作成と補修計画の立案も自動的に行うことができます。
ただ、このガードレール点検システムにより抽出されたガードレール支柱のデータには、各支柱の正確な位置情報がひも付けされていません。一般的なGPSによる測位では高精度に支柱を特定することが難しいためで、現在は基準となるガードレール支柱から「n本目の支柱」などとナンバーを割り当てて管理しており、手間がかかる上、ヒューマンエラーを起こす可能性もあります。

そこで今回の実証事業では、AI解析に用いる動画情報と、みちびきのSLAS/CLASから得られた高精度位置情報を同期させることで、抽出したガードレールの腐食や損傷などの絶対位置を求め、これまでナンバーで管理していたガードレールなどの道路付属物について、補修や交換が必要な箇所を位置情報で管理できるかを検証しました。
「路肩側にあるガードレールの支柱は比較的安全に点検できますが、中央分離帯側の場合は危険を冒して道路を横断しなければならず、点検する際の大きな負担となっています。そこでこの中央分離帯側の点検を、みちびきの高精度測位を使って管理できないかと考えたのです」(山崎氏)

受信機を搭載した撮影車両で道路を周回

受信機とビデオカメラを搭載した撮影車両

受信機とビデオカメラを搭載した撮影車両

実証実験では、まずCLAS/SLASに対応した受信機をそれぞれ撮影車両に搭載し、走行しながら道路構造物を撮影しつつ、位置情報の軌跡を記録しました。使用したのは三菱電機のCLAS対応受信機「AQLOC-Light」と、フォルテのSLAS対応受信機「FB102」、ソフトバンクのSLAS対応「マルチGNSS受信機」の3台で、これらを路面から1m52cmの高さにある車両の屋根に配置(AQLOC-LightとマルチGNSS受信機はアンテナのみ配置)しました。

CLAS/SLAS対応の受信機を車の屋根に設置

CLAS/SLAS対応の受信機を車の屋根に設置

撮影は高速道路と一般道路の両方で行いました。高速道路では時速80kmで走行し、各受信機の精度確認のため、片道約6.5kmの走行車線を5往復して移動軌跡のログを記録しました。また、一般道路では時速40kmで走行して移動軌跡を記録しました。

実証を行った高速道路のルート

実証を行った高速道路のルート。片道約6.5kmの距離を往復周回した

みちびきの受信状況を記録

みちびきの受信状況を記録

高速道路と一般道路のいずれも、走行後、取得した映像をフレームごとに静止画に変換し、静止画のタイムスタンプとCLASの位置情報の取得時間で同期してひも付けを行いました。さらに、地図アプリケーション「カシミール3D」を使って、CLASの位置情報が付いた静止画を地図上の撮影場所に配置しました。

地図上に写真を配置

地図上に写真を配置

山崎氏によると、中央分離帯のガードレールは追い越し車線側にあり、追い越し車線を走行し続けたほうが品質のよい映像を記録できますが、それでは道路交通法違反となるため、基本的には走行車線を走行し、時々追い越し車線に入りながら実験を行ったそうです。
「システム導入後は、パトロールカーなどで追い越し車線を走行し続けながらの点検も可能かもしれませんが、実証実験ではそれができません。そこで同じ道路を何回も周回して複数回のデータを収集し、それを統合しました。そのデータ統合の際も、ガードレールの支柱それぞれにSLAS/CLASの位置情報をひも付けたことが大いに役に立ちました」(山崎氏)

CLASを活用した撮影位置の管理機能を提供予定

時速80kmで高速道路を5回走行した際の各受信機のトレース結果

時速80kmで高速道路を5回走行した際の各受信機のトレース結果。赤色がソフトバンク(SLAS)、だいだい色が三菱電機(CLAS)、緑色がフォルテ(SLAS)

実証の結果、高速道路と一般道路の両方で、CLASは周回時にほぼ同一箇所の位置情報を取得できました。また、SLASの2台も、周回ごとの位置がCLASに比べ安定しないことがあったものの、概ね良好な結果が得られたそうです。
「トンネルなどは電波が遮られて測位できませんが、そもそもトンネルの中にはガードレールがなく、あまり問題になりません。トンネルを出て、すぐにまたFIXする点でも、期待以上の性能が得られたと思います」(山崎氏)

SLAS/CLAS信号をロストした場所の一覧

SLAS/CLAS信号をロストした場所の一覧

また、高速道路及び一般道路で撮影した動画から「ガードレール点検システム」のAI自動解析を実施したところ、いずれの動画からも腐食・損傷個所を問題なく検出できました。結果として、CLAS対応受信機を利用することで高精度の位置情報を取得でき、走行動画から検出した腐食・損傷個所の絶対位置が確認できました。

同社は、すでに提供開始しているガードレール点検システムにも、みちびきを活用して地図上に撮影位置を表示する機能の追加を検討しており、現在、道路事業者と協議を進めています。
「今回実験した機能をどう提供すれば使いやすいかを検討中です。道路の点検で位置情報を使うならば、みちびきの高精度測位は必須であり、今年度中に試験を行い、来年度には提供開始したいと考えています。その際は、やはりセンチメートル単位で位置情報を取得できるCLASを採用したいと思っています」(山崎氏)

同社は今後、AIを活用した点検システムをさまざまな分野に拡大する方針で、すでに鉄道において線路の点検システムの実証実験も始まっているそうです。道路でも、ガードレールだけでなく路面の点検システムの提供を開始しています。
「みちびきのSLASとCLASは、屋外において広域エリアを点検する際に優位性を発揮できます。道路だけでなく、鉄道や送電線などの点検の位置管理にも使えます。CLASの受信機はまだまだ高価ですが、今後、普及が進んで安価となり、誰もが簡単に使える技術になることを期待しています」(山崎氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

※ヘッダ画像はイメージです。本文中の画像・図版提供:株式会社イクシス

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