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地下のライフラインを「見える化」するシステム [前編]

2017年03月06日

ふだん意識する機会はほとんどありませんが、都市の地下には電気・ガス・電話などのライフラインが縱橫にはりめぐらされています。昨年(2016年)11月に福岡市の博多駅前で起きた道路陥没事故では、まるで断面模型のように寸断された道路下の管路が露出していました。

そうした都市内の工事は、よく脳外科手術に例えられます。神経や血管の損傷を避けながら目的の患部にたどり着く細かな作業は、既設のライフラインの機能を維持しつつ更新や付け替え(リルート)する作業と似通った部分があります。どちらにも高い技能と集中力、そしてそれをサポートする高度な機材やシステムが求められるからです。

AR技術を使いタブレットで可視化

大手ゼネコンの清水建設株式会社は、地下に埋設された上下水道管やガス管など既設のライフラインをAR(Augmented Reality、拡張現実)技術を使ってタブレットで可視化するシステムを開発し、昨年3月に記者発表して大きな反響を呼びました。

従来の紙の図面を使う手法では、見落としミスの可能性が排除できず、確実に作業を行おうとすれば時間がかかるなど、正確性・効率性の向上が課題となっていました。そして、このシステムではGNSS受信機を使って作業者の位置を高精度に把握する技術が重要な役割を果たしています。

▽清水建設株式会社・西村晋一氏

(土木技術本部開発機械部技術開発グループ)

「地面を掘り返して地下に構築物を作る工事を開削工事と呼びます。我々の開発チームと現場担当者との対話から『埋設管の存在や位置を、作業に関わる“全員”が共通認識できるシステムがあるとよい』という要望が出てきました。何がどこに埋まっているかの図面はありますが、埋設物の敷設状況は直接視認できないため見落としなどのミスが生じる可能性がありました。ましてや重機のオペレータにとって、紙の図面を運転席で広げて確認するのは現実的ではありません。最新のICT(Information & Communication Technology)を活用すれば、作業者がいつでも確認できる仕組みを作れるのではないかと、3年前に開発がスタートしました」

西村氏が指差す先は、工事事務所で測位衛星の信号を受信する基地局アンテナ

▽株式会社菱友システムズ・石田新二氏

(インダストリーソリューション事業部エネルギー・環境システム部副部長)
菱友システムズ 石田氏

「システムの構成は、GNSS受信機で把握した位置情報と、iPadの電子コンパスで得た方位に関する情報、そしてデータベースから取得した地下埋設物図面を、タブレットのカメラで撮ったライブの風景画像にオーバーレイ(重ね合わせ)して表示するというものです。作業者が自ら操作し参照する、という最終的な利用イメージは早い段階でできていましたが、それを実現する上でカギとなったのは作業者の正確な位置情報でした。じつは最初、iPad内蔵のGPS機能でいけると思っていましたが、いまにして思えば過信でした。十数~数十mの位置ズレが出て、システムとして成り立たない。社内には“GPSはダメだよ、使いものにならない”というベテランもいた。素人は期待が大き過ぎ、ベテランは幻滅。衛星じゃダメなのか...と暗い気持ちになったこともありました」(清水建設と共同で開発を担当)

ブレークスルーはRTK法(RealTime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)との出会いでした。RTK法は、基地局と移動局の両方で衛星から搬送波位相の情報を受け、その情報をネットワークでやり取りして測位演算を行い、センチメータのオーダーで測位精度を実現します。従来から測量分野で使われてきた手法ですが、基地局設置の手間や機器が高額であるなどの理由で、iPadを核に置くような簡易なシステムにはなじまないと考えられていました。しかし、それは思い込みでした。

「茨城高専(茨城工業高等専門学校)の岡本修先生(電子制御工学科准教授)は土木・建設分野でのRTK法の導入に多くの知見をお持ちの方です。ゼネコンでの勤務経験もあり、最新事情にもお詳しい。岡本先生のアドバイスをいただいて、安価なモジュールによるRTK法を導入することで、位置検知の精度が格段に上がり、一気に実用化が見えてきました」(前出、清水建設の西村氏)

後編では、その結果、どのようなシステムができたのかを紹介します。

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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