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みちびきを活用し、自動運転バスの乗客に避難情報を提供

2020年06月22日

三菱スペース・ソフトウエア株式会社は、みちびきのL1S信号で送信される災害・危機管理通報サービス(以下、災危通報)を活用し、緊急停止した自動運転バスの乗客に対し、避難の助けとなるような情報を提供するシステムを構築しました。このシステムは、2019年度みちびきを利用した実証実験公募で「みちびきを活用した走行車両(モビリティ)における地震等災害対策に関する実証実験」として採択され、今年2月、埼玉県川口市のSKIPシティで実証実験を行いました。その概要を、同社つくば事業部の津久井潤氏(副事業部長)、江村尚紀氏(事業推進室 プロジェクトマネージャー)、営業本部の高橋祐介氏(第三営業部 第二課 専任)に聞きました。

取材した3人の写真

左から三菱スペース・ソフトウエアの高橋氏、津久井氏、江村氏

宇宙・防衛関連と共に、防災関連のビジネスも同社にとって大きな事業の柱となっており、気象庁が発出する緊急地震速報を配信するサービス、MJ@lert(エムジェイ・アラート)を以前から企業や団体に提供しています。大きな地震が起こった際には、震源地までの距離などを加味して揺れの大きさを推定し、ビルのエレベータを最寄階にいち早く停止させるなど、多くの用途で使われています。

「MJ@lertの送り先を、ビルや事業所だけでなく移動体にも拡張するとしたら、どんなシステムや用途が考えられるだろうか、という検討から今回のシステムの構想が生まれました」(江村氏)

みちびきの災危通報の活用は、防災と宇宙という同社の事業領域の重なり合う部分でもあり、意義の大きいチャレンジだったといいます。そして構築されたのが、自動運転バスの乗客の安全・安心を確保するための2つのシステムです。

実験用車両

実験用車両

緊急地震速報の情報をもとにバスを安全に停止

その一つが「緊急停止システム」です。地震発生時、車両位置に本震が到達する際の震度や時刻を予測する「移動体向け地震予測システム」からの情報をトリガーに、揺れの到達前を目標にバスを安全に停止させます。バスの位置を常に把握するため、みちびきを始めとする衛星測位を利用しており、安全にバスを停止させるプログラムについては、バスの運行管理システムを運用するBOLDLY株式会社(旧・SBドライブ株式会社)が担当しました。

走行車両緊急停止システムの構成

走行車両緊急停止システムの構成

みちびきの災危通報を活用して、その場所の危険度を判定

そしてもう一つが「危険度通知システム」です。みちびきから受信した災危通報のメッセージには、災害の種類やエリアの情報が含まれています。これらの情報と、あらかじめ登録されている走行経路のハザードマップ、そして正確な現在位置とを照らし合わせ、その場所の危険度を判定し、表示します。津波や洪水など、複数の種類があるハザードマップのうち、適切なものを選ぶ処理にも災危通報のメッセージを活用しました。

リアルタイム危険度通知システムの構成

リアルタイム危険度通知システムの構成

「災害時の自動運転車両で、バスの運行管理者との通信がオフラインになってしまった場合には、その場所の危険度や近隣の避難所など、避難行動の助けとなる情報を、車両そのものが乗客に提供しなければなりません」(江村氏)

今回の実証実験ではハザードマップや周辺の避難所の情報と、みちびきからの時々刻々の情報を組み合わせることで、災害種別に応じた“その時その場所で”必要な情報を表示できました。検証すべき項目はすべてクリアできて、実証実験は成功しました。

「当初私たちが想定していたよりはるかに多くの方々に、緊急停止から情報提示というデモンストレーションを体験していただけました。多くの前向きな提言もいただき、この点でも成功だったと思います」(江村氏)

デモンストレーションの実施手順

デモンストレーションは「相模トラフでM7.9の地震が発生、川口市で震度5強~6弱程度の揺れが到達」という設定で行われた

多くの参加者からの提言を踏まえ、さらに完成度を高めたい

「今回の実証は“安全に停める”ことを目的としていたので、停止位置が交差点内など“停めてはいけない場所かどうか”の判断は行っていません。将来的には車両側でそうした判断プロセスも必要となると思います」(江村氏)

江村氏

江村氏

その際には高精度の位置情報が不可欠となり、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)などの活用も当然ながら視野に入ってきます。また、人を乗せて無人走行する場合は、二重三重の安全システムが必要になるはずですが、そうした部分はどのように考えているのでしょうか。
国際宇宙ステーションプログラムに長年携わってきた津久井氏に聞くと、次のように説明してくれました。

「有人の国際宇宙ステーションや、そこに物資を運ぶ補給機のような高い安全性が求められるシステムでは、『ワン・フェイル・オペレーショナル、ツー・フェイル・セーフ(1つ故障が起こっても運用が継続され、2つ故障しても安全が保てる)』という厳しい安全基準が設定されています。無人システムの場合は二重の冗長系までですが、有人システムの場合は二重に故障しても大丈夫(=ツー・フェイル・セーフ)なように三重の冗長系を組むという考え方です。安全性を緻密に検討し、粘り強く説明することで、開発当初、懐疑的だったお客様にも信頼性を認めてもらえました」(津久井氏)

津久井氏

津久井氏

自動運転には宇宙開発の設計ノウハウを活かせる部分も多く、10年20年かけて作り上げた知見があって、ゼロからではないという訳です。

「また、今回の実証実験は、BOLDLY株式会社や川口市のご協力なくしては実現しないものでした。多くの参加者から得られた提言を踏まえ、さらにシステムの完成度を高めていきたいと思います」(津久井氏)

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:三菱スペース・ソフトウエア株式会社