コンテンツです

[実証2023-4] 国際航業:MADOCA-PPPによる海洋離島のマッピングサービス実証事業

2024年08月27日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、2023年度に国際航業株式会社が実施した「MADOCA-PPPによる海洋離島のマッピングサービス実証事業」の取り組みを紹介します。
同社は、相対測位を行えない海洋離島における基準点設置(マッピング)に時間とコストがかかるという課題を解決するため、みちびきのMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)を活用したマッピングの有効性を検証し、技術ガイドライン案を作成すると共に、フィリピンにおいて同ガイドライン案に沿った海洋離島の基準点設置計測をフィリピンのNAMRIA(国立地図・資源局)と協力して実施しました。
この実証事業を行った同社事業統括本部RSソリューション部の今井靖晃部長、同部技術企画グループの笹川正 担当部長、事業統括本部 海外コンサルティング部 海外営業グループの鎌形譲グループ長の3人に話を聞きました。

国際航業の三氏

左から鎌形氏、今井氏、笹川氏

フィリピンには大小合わせて7,600以上の島があり、そのうち小さな島の多くは通信や電気、水などのインフラが整っていません。地図作成のために基準点を設置する場合、別の基準点を利用して相対測位を行うことにより高精度な測量が可能となりますが、離島の場合は相対測位を行えず、NAMRIAでは8時間かけて単独測位を行っており、装備や用船に多大なコストと時間がかかっています。
このような課題を解決するため、国際航業では海洋離島の基準点設置(マッピング)にMADOCA-PPPを適用し、技術ガイドラインを作成すると共に、東南アジアの島嶼国におけるマッピング事業の創出に向けて取り組みを開始しました。
国際航業は2019年度にもみちびきの実証公募に採択されており、日本国内及びインドネシアで、みちびきの測位補強信号の測量への適用を目的とした測位精度の検証を行っています。今回、同様のテーマで再び実証事業に応募した理由を笹川氏は次のように説明します。
「フィリピンの関係者から、海洋離島におけるマッピングにコストと時間がかかって大変困っているという話を聞き、MADOCA-PPPを活用すれば解決できるのではないかと思ったのがきっかけです。インドネシアの実証事業は技術シーズを起点としていましたが、今回は現地のニーズを起点とした実証実験になります」(笹川氏)

笹川氏

笹川氏

実証事業では、まず日本国内においてMADOCA-PPPによる測位性能の検証を行いました。MADOCA-PPPに対応したGNSS受信機である株式会社コアの「Cohac∞ Ten+」と、Timble社のGNSS基準局用受信機「Alloy」の2つの受信機を使用して、同一のGNSSアンテナから分配した共通の測位信号を使って、単独測位(SPP)とMADOCA-PPPを比較検証しました。この際、リファレンスとして有料の位置情報補正サービス「Trimble RTX」による測位も行いました。
観測は茨城県つくば市内において、2023年8月4~7日の72時間で実施しました。この結果、MADOCA-PPPは初期収束後に安定した精度を保ち、単独測位ではSPPに対して時間的にも精度的にも合理性があることが確認できました。

性能検証の様子

つくば市において性能検証を実施

結果のグラフ

72時間の観測結果

さらにこの時に受信したデータを使って、NAMRIAが単独測位で基準点を設置する際にレギュレーションとして定めている計測方法で比較したところ、MADOCA-PPPを利用することにより観測時間については8時間を30分に短縮することが可能で、測位精度についても約2mから10cmに向上させることが可能であると確認できました。

結果のグラフ

8時間の結果で比較

次に測位解の安定性を検証するために、つくば市周辺にある5箇所の国土地理院の基線場(あらかじめ測定された点間距離を持つ複数の測点で構成されている場所)を借りて、MADOCA-PPP及びTrimble RTX(リファレンスとして)による観測を実施しました。観測する際は40分ごとに受信機をリセットしながら10回程度観測して、収束時間や安定性を評価しました(MADOCA-PPPによる観測は計46セット)。

検証の様子

基線場にて測位解の安定性を検証

観測の結果、MADOCA-PPPは30分程度で収束することが確認され、この時のデータをもとに最低の観測回数及び採用値決定の閾値を決定し、技術ガイドライン案を作成しました。
技術ガイドライン案では、CE95:水平10cm・垂直20cm以内(95%以上が水平半径10cm・垂直半径20cm内に収まる位置精度)となる観測時間を30分とするように定めており、データ取得間隔を1秒として、観測を開始してから1,700エポック以上の100エポックを1セットとして、1セット目の観測終了後に再初期化を行って2セット目の観測を行うように定めています。

表組み

技術ガイドライン案の骨子

実証を行った海岸の写真

実証を行ったパラヒンボン・マノック島の海岸。岩が多く、波が高いと接岸は危険

国内における検証及びガイドライン案を作成した後、海外での実証作業を行いました。NAMRIAの協力のもと、マリカバン島に仮想基準点を設置した上で、MADOCA-PPPの技術ガイドライン案に沿って計測を行い、座標値を決定しました。

実証の様子

仮想基準点設置(左)、機材ボートへの搬入(右)

実証の様子

仮想基準点(左)、RTK測量の様子(中上)、標定点(中下)、MADOCA-PPPのアンテナ高計測(右)

この仮想基準点をRTK(リアルタイムキネマティック)測位の基準局として使用し、そこから2.5km離れた洋上にあるバラヒボン・マノック島にてRTKによる測位を行うと共に、MADOCA-PPPによる観測も実施しました。この結果、MADOCA-PPPの測位結果はRTKと比較して10数cmの誤差に収まったことが確認できました。さらに、この計測結果をもとに衛星画像上に標定点をマークし、ジオコーディング(地理座標の付加)を行いました。
「RTKとMADOCA-PPPの測位結果を比較することで“答え合わせ”を行い、非常に高い精度で測位できることをNAMRIA及び現地の測量業者と一緒に確認できました。測量業者の方からは『(MADOCA-PPPを)ぜひ使いたい』という感想が寄せられました」(笹川氏)
このほか、NAMRIAの構内にて既設の基準点3カ所においてMADOCA-PPPのデモンストレーション計測も行い、8時間のSPP計測との比較を行いました。

実証の様子

NAMRIA構内での計測

測位結果の比較表と地図

RTK測位とMADOCA-PPPの測位結果を比較

セミナーの様子

昨年11月にフィリピンで開催したみちびきセミナーの様子

国際航業は今回の実証事業の成果発表を含めて、みちびきのセミナーをフィリピンにおいて2023年11月22日に開催しました。同セミナーはNAMRIA職員への周知を目的としたもので、フィリピンの関係機関や日本の内閣府も参加しました。また、2024年1月30日~2月2日に開催されたMGA(Multi GNSS Asia )や、2月15日に行われた国土建設協会のJICA研修、2月28日に行われたNAMRIAでの最終報告会でも本事業の成果について発表しました。
NAMRIAの測地部門の関係者を交えて実施した最終報告会では、「商用のMADOCA-PPP対応受信機をフィリピンで入手できないか」「無償でレンタルできないか」といった質疑があり、MADOCA-PPPへの関心が高まっていることが分かったそうです。

鎌形氏

海外営業を担当する鎌形氏

さらにNAMRIAから、フィリピンにて2024年4月22~26日に開催されるUNOOSA(国連宇宙部)のGNSSワークショップにおいて本実証の成果発表を行うよう依頼され、NAMRIAと国際航業、そして日本の内閣府の3者の連名で発表も行いました。
フィリピンは海洋国家なので、海において精度が高いというのは非常に有益であるとNAMRIAからは好評価を受けたそうです。NAMRIAは陸の地図だけでなく、海図の作成も行っています。フィリピンは島の数が多いため航路が狭く、座礁の危険が高いので、MADOCA-PPPは海図の精度向上にも役立つと期待されています。
「マッピングだけでなく、海象ブイの位置情報把握や船の自動航行など、MADOCA-PPPが適用できる範囲は非常に広いので、各国の政府機関を巻き込んで説明・実証することによりニーズがさらに広がると思います」と笹川氏は今後に期待を寄せています。

フィリピンにおける測量の課題として、NAMRIAの他にも複数の政府組織が電子基準点を個別に設置・管理していることが挙げられます。今後は複数の組織が運用する電子基準点の統合利用と、電子基準点が利用できないエリアにおけるMADOCA-PPPの利用を一体として測量インフラを整備していく必要があると国際航業は考えています。

今井氏の写真

今井氏

「今回、基準点が整備されていない離島においてMADOCA-PPPの利便性が高いことが分かったので、フィリピンだけでなく他の島嶼国においても、MADOCA-PPPを使って基準点を設置し、地図を作成することでその国の社会課題解決につなげていく取り組みをJICAの事業とも連携しながら進めていきたいと思います。みちびきはこれから機体数が増えますので、みちびきの他のサービスと同様にMADOCA-PPPのサービスも継続して提供されることに期待しています」(今井氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:国際航業株式会社

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

関連記事