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CLAS活用の測量支援システム「Civil Surveyor QZSS」開発者に聞く

2019年10月28日

兵庫県加古川市に本社を置く株式会社創美は、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)に対応したGNSS受信機・アンテナとスマートフォンアプリを組み合わせた測量支援システムを開発し、サービスの提供を開始します。システム開発に携わった同社の伊藤良和氏に話を聞きました。

創美の伊藤氏

創美の伊藤氏

株式会社創美の伊藤良和氏は、測量士と施工管理技士の資格を持ち、測量関連のシステム開発やCADシステムの開発、情報処理サービス会社の立ち上げに携わった経験を有しています。2012年、軍事政権だったミャンマーの民政復帰に伴い、首都ヤンゴンで測量会社を設立。ODA関連の測量業務を請け負うほか、現地で測量機器販売やシステム開発事業に関わってきました。2018年からは足場を日本に移し、測量の実務に即したアプリの提供を始めています。アプリはすべて、自身でプログラムのコーディングまで行っているものです。

ミャンマーで起業後、帰国して測量部門設立

「縁あってミャンマーで起業し、測量関連のビジネスを進めていましたが、2016年以降に現地経済が減速。兄が亡父から継いだ造園会社の新規事業として測量技術部門を設立、測量に関わるソリューションサービスを始めようと考えました」(伊藤氏)
伊藤氏はまず、測量計算アプリ「Civil Surveyor」を作成し公開。測量実務の経験を生かし、曲線や円弧上の点の座標を計算したり、トータルステーション(TS=2点間の距離と基準方向からの偏角を同時に計測する機器)や測量用GNSS受信機などのデータを管理する機能を搭載したほか、有料版では測点データをパソコン上のCADソフトと連携させることも可能にしました。
「まったくゼロからスタートし、一定数のアクティブユーザーを獲得することができました。アプリのメンテナンスやサポートは大変ですが、測量の実務を知っている強みを生かしユーザーの共感を得られたと思っています」(伊藤氏)

Civil Surveyor

Civil Surveyorのほか、座標計算やデータロガーなど測量関連、ミャンマー語の日常会話アプリなど10件あまりのアプリを公開

機能を拡大しCLAS対応版をリリース

システム一式

ポールに装着したシステム一式(スマホ画面は合成)

この実績をベースに伊藤氏はこのほど、同アプリの機能拡大版として「Civil Surveyor QZSS」を公開します。これは、みちびきのCLASを活用する、高精度測量システムで使用するためのアプリです。
システムはポール頂部のアンテナと受信機、スマホから成り立っています。ポールの中程にはCLAS対応受信機が装着され、Civil Surveyor QZSSがインストールされたアンドロイドスマートフォン(タブレット)が測量データを管理します。受信機に組み込んでいるモジュールはマゼランシステムズジャパン株式会社の多周波マルチGNSS受信モジュール(ディスクリート版)です。
フィールドでの測量は、1)ポールを所定のポイントに静置し、2)センチメータ級測位補強サービスによる測量を行い、3)取得された座標をBluetoothによる無線接続でスマホに伝送し、4)次の場所に移動して測量する、を繰り返して最後に、5)座標データをパソコン等に転送する、という作業フローです。非熟練者でも一人で作業を実施できます。

受信機本体

CLASに対応した受信機本体(防滴仕様)

測量機器のトータルステーション(TS)を使った測量では、少なくとも2名の作業員が必要となります。また、RTK(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)では基地局の準備やコストがかかり、VRS(Virtual Reference Station、電子基準点の24時間リアルタイム観測データを利用して観測データの誤差を補正し、高精度な位置情報を取得する技術)では、少なくない額の使用料がかかってしまいます。
伊藤氏はこうした点について、土木工事では出来形(できがた=土木構造物の完成した部分)管理などにRTKやVRSで実現するレベルの寸法を求められるものもあるが、工程の中の日々の作業では、みちびきのセンチメータ級測位補強サービスの精度を十分利用出来る場面がたくさんあると言います。
「たとえば現地での打ち合わせの際など、ポールと受信機を持ち込むだけで一人でも簡単に測量が行えれば、効率は格段にアップします。すでにTSの記録管理にCivil Surveyorのアプリを使っているアクティブユーザーが相当数おられます。その方たちを潜在顧客と考え、このシステムのメリットを訴えていこうと考えています」(伊藤氏)

フィールドでの測量

フィールドでのGNSS測量

伊藤氏は9年前(2010年)の初号機打ち上げ当初から、期待と共にみちびきの動向を見守っていたそうです。
「ミャンマーで日本のニュースをチェックし、2018年に正式サービスが始まることを知りました。現地で起業した時から『日本に帰国するなら、技術革新が起きる時に』と考えており、正にこれがそのタイミングだと思いました」(伊藤氏)
システム構築に必要なGNSS受信機は、検索で同じ兵庫県内(尼崎市)のマゼランシステムズジャパンを探しだして、そこから調達。「天の利と地の利を得られた気がした」という伊藤氏は、国内での展開はもちろん、将来的にはミャンマーを手始めとする東南アジア地域にも、みちびきを活用した低コストで高精度な測量システムを展開していきたいと語っています。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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