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エクスプローラ、みちびきのSLASを活用した無線ICタグで物流管理

2020年06月08日

函館市に本社を置く株式会社エクスプローラは、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)を活用した物流コンテナ向けの管理システムを構築し、現在、サービス提供に向けた準備を進めています。同社は「みちびきのサブメータ級測位補強を付加した無線ICタグによる物流管理」のテーマで、2019年度みちびきを利用した実証実験公募に応募・採択され、昨年秋から今年春にかけて実証実験を行いました。同社営業本部の豊田猛部長と若松範之課長に、システムを開発した背景や狙いを聞きました。

エクスプローラの若松氏と豊田氏

エクスプローラの若松氏(左)と豊田氏(右)

1950年代にコンテナが規格化され、物流が加速

仕事や生活で必要とされる物資の多くは「コンテナ」で輸送されています。コンテナとは決められたサイズの鋼製、又はアルミニウム製の箱状の構造物で、鉄道・船舶・トラックなどに積み替えられながら、生産地から消費地まで物資を直接届けます。

コンテナが最初に登場したのは、1950年代のアメリカです。サイズが規格化されたことで輸送インフラの最適化が進み、同一サイズのコンテナが大量輸送され、広大なコンテナヤードで仕分けられ、目的地に散っていくという物流の形ができました。これにより物流コストは大幅に低下し、国境を超えた物流が加速されました。

トレーラーのイメージ画像

「船積みされてきたコンテナはコンテナヤードに降ろされ、トラックのドライバーが指定された場所からピックアップします。しかしその場所に目的のコンテナが正しく置かれているとは限りません。何しろ同じようなコンテナがびっしりと並んで、人が手作業で情報をやりとりしています。置き場所や取りに行く場所の間違いが起こりがちです」(豊田氏)

そこで同社は、コンテナシャーシ(コンテナを積載するトラック輸送用の台車)を輸送する際の駐車場での捜索時間や順番待ち時間の削減など物流業界におけるトラック運転手の負担軽減を目指し、シャーシ等への装着を想定した、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)の機能を付加した無線ICタグモジュールを開発したのです。

コンテナに設置したタグの番号を選択し、駐車番号を正しく表示させる

(図版提供:株式会社エクスプローラ)

システムの情報と作業の流れ

このシステムの情報と作業の流れは、次のようになります。
1)SLASに対応した測位モジュールを使用し、コンテナ頂部のアンテナでGNSS信号を受信

設置イメージ

設置イメージ(図版提供:株式会社エクスプローラ)

2)得られた位置情報をSigfox(商用LPWAの一種)でサーバーに送信
3)高精度地図と重ねて表示されるコンテナの情報を、ドライバー自身がAndroidスマートフォンで確認

アプリで駐車位置を確認

アプリで駐車位置を確認(図版提供:株式会社エクスプローラ)

4)コンテナに装着された無線ICタグの情報を、AndroidスマートフォンのNFC機能で読み取り、正しいコンテナであることを確認

駐車場で駐車位置が正しいことを確認

駐車場で駐車位置が正しいことを確認(図版提供:株式会社エクスプローラ)

5)トラクタヘッド(牽引車両)をコンテナシャーシに連結し、輸送を開始

SLASを使って測位精度を2m前後に追い込む

若松氏は、ドライバーの負担軽減について次のように説明します。

エクスプローラの若松氏

若松氏

「従来のGPS測位ではどうしても20~30mの誤差が残るため、それを頼りに指定された場所に行っても見当たらず、場合によっては捜索に1時間以上かかるという話も聞きました。運ぶのが仕事であるドライバーが、運ぶ以前の荷物探しに時間を奪われ、休息時間を削って運転しなければならない状況に陥っています」(若松氏)

しかし、SLASを使って測位精度を2m前後に追い込めれば、ピンポイントで目的のコンテナにたどり着けて、ストレスなく仕事を始められます。特にここ数カ月は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、物流を始めとする配達作業員の負担軽減が大きなテーマとして取り上げられていて、それにも貢献できるシステムです。

もともとエクスプローラ社は、放送局や医用画像診断機器向けに、高度な画像処理機能を提供する機器やモジュールを手がける会社です。函館市に本社があることから、北海道庁の経済部産業振興局が立ち上げた「北海道衛星データ利用ビジネス創出協議会」に参加して、そこでみちびきの測位補強サービスについて知ることになりました。それがきっかけで、今回採択される一年前、2018年の実証実験公募に応募したそうです。

「その時は屋内外のシームレス測位による動態管理システムという、今思えば背伸びをしすぎたテーマ設定でした」(若松氏)
それが選に漏れたことで調査を進める時間ができ、一年後に今回のシステムで採択となりました。

「位置情報を知らせて参照する」シンプルな仕組み

無線ICタグユニット

無線ICタグユニットの内部(画像提供:株式会社エクスプローラ)

「位置情報を知らせて、それを参照する」というモジュールの仕組みはとてもシンプルで、最初はどうしてこれまであまり市場に出なかったのかと思いましたが、実際に手がけてみて、かなり厄介だと実感したそうです。

「目的のためにどんなLSIチップやICチップを採用し、基板をどう設計するかについては、われわれはノウハウを持っていました。ファームウェアと呼ばれるモジュール側のソフトは、実に20数回のバージョンアップを繰り返しました。コンテナヤードの地図のキャリブレーションやサーバー側やスマホ側のウェブアプリ開発も、グループ内で完結させました」(若松氏)

豊田氏も、さまざまなスキルや経験を持ったスタッフがいたこと、多方面に及ぶ開発リソースやノウハウをグループ内に有していたこと、しかもそれが小さな所帯であったことが、短期間でシステムを構築できた理由の一つだと話します。そして、将来に向けた期待を聞くと、次のように答えてくれました。

エクスプローラの豊田氏

豊田氏

「衛星を利用する動態管理システムというのは、非常に幅広い用途が期待できます。コンテナの動態管理に限っても、今回のシステムはドライバーとコンテナを結ぶ1対Nのシステムでした。さらにシステムが普及すれば、N対Nのマッチングサービスや、コンテナの中身まで考えればN(ドライバー)対N(コンテナ)対N(中身)を結びつける新たなビジネスのフレームが見えて来るかもしれません」(豊田氏)

将来は安価なシステムとしてリリースしたい

ちなみに今回の実証用のシステムが出来上がったのは昨年、2019年の年末でした。真冬の北海道で、吹きさらしのコンテナの上に上がっての受信・通信試験と環境試験は、とても過酷だったといいます。

トラック屋上に機器を設置して測位

トラック屋上に機器を設置して測位(画像提供:株式会社エクスプローラ)

「将来的には端末価格数千円、毎月のサービス利用料が数百円レベルの、安価なシステムとしてリリースしたい。今回の実証実験は間違いなく、そのきっかけになったと思います」(若松氏)

同社は今後、試作端末を数十台規模に増やし、顧客のフィードバックを得ながら社会実装に向けた製品化設計を行い、今年度中の市場投入を目指す予定です。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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