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フジクラとIoTBASEがLPWA活用みちびき対応トラッカーで実証実験

2019年11月25日

位置情報を取得してクラウドへ送信するIoT端末の普及が進む中、IoT向けの新たな通信規格として注目されているのが、省電力で広範囲の通信を実現する「LPWA(Low Power Wide Area)」と呼ばれる無線通信技術です。LPWAの中でも、携帯キャリアが運営するネットワークを用いる「セルラーLPWA」は、既存のLTE基地局を活用することで全国エリアを幅広くカバーできます。
2019年に入って、株式会社フジクラとIoTBASE株式会社は、セルラーLPWAの一つであるCat.M1を利用したみちびき対応のGNSSトラッカーを使用した2件の実証実験を実施しました。株式会社フジクラの安原賢治氏(エネルギー・情報通信カンパニー マーケティング室 情報通信担当課長)とIoTBASE株式会社の澤和寛昌氏(代表取締役)にこの実証について取材しました。

澤和氏と安原氏

IoTBASEの澤和氏(左)とフジクラの安原氏(右)

GNSSトラッカーを自社開発

フジクラは2018年、3G回線に対応したGNSSトラッカーを使った高齢者見守りの実証実験を鹿児島県肝付町で行いました(株式会社ハタプロ、株式会社キャラバン、株式会社LiveRidgeとの共同実験)。実験では、位置情報を取得して3G回線で送信することが可能なIoT端末を装着できるシューズを新たに設計し、実際の利用シーンを想定した捜索実証実験を行い、その有用性を確認しました。

この実験でいくつかの課題が出ました。その一つが位置情報の送信頻度に関するものです。送信間隔が長いと、位置情報を取得してその場所に向かう間に行方不明者が次の場所へ移動してしまうため、捜索時には高頻度に送信することが求められます。ただ、あまりにも頻繁に位置情報を送るとバッテリーの消耗が激しくなるというジレンマがあります。そのため、捜索の時だけ最適な間隔で送信する必要が生じるのです。
この時、IoTデバイスとして使用した市販のGNSSトラッカーは位置情報の送信頻度に問題があり、行方不明者を迅速に捜し出せないケースがありました。さらにGNSSトラッカーのサイズや重さ、測位精度にも不満があったほか、操作性に関してもボタンや設定項目が多くて分かりづらいという課題がありました。

シューズ

GNSSトラッカーを装着できるシューズ

これらを解決するため、フジクラは自社でGNSSトラッカーの開発に開始し、2019年1月に試作品を完成させました。このGNSSトラッカーは、みちびきのGPS補完機能にも対応しました。
「私どもはGNSSトラッカーでもっとも重要なのは測位精度だと考えています。みちびきは常に日本の上空に衛星が位置し、ビルが多い都会や山岳地でも安定した測位が可能です。測位の安定性や精度の良さはみちびきの一番の魅力だと思います」(安原氏)

フジクラの安原氏

フジクラの安原氏

安原氏は、通信方式にCat.M1を採用した理由を次のように説明します。
「3G(第3世代)通信は新しいSIMの受付が近いうちに終了するため、新たな通信方式を採用する必要がありました。(第4世代への移行を目指す通信規格のうち)LTE通信はバッテリーの消費電力が大きいため、電力消費を抑えられる機能を持つCat.M1を採用しました」

このCat.M1を利用したみちびき対応GNSSトラッカーはSIMフリーで、NTTドコモ、au、SoftBankの3つの携帯キャリアに対応しています。無線局免許が不要なアンライセンス系のLPWAではなくセルラーLPWAを選んだ理由は、高齢者の徘徊などは一晩で数十kmも移動することがあり、行方不明者の捜索を想定した場合、広範囲のエリアをカバーするキャリア系である必要があったからです。ゲートウェイの設置やメンテナンスが不要で、ユーザがGPSトラッカーを充電すればすぐに使用開始できる手軽さを提供できることも理由の一つとなりました。

Cat.M1を利用したみちびき対応GNSSトラッカー

Cat.M1を利用したみちびき対応GNSSトラッカー

実証1)長野県で除雪車位置をリアルタイム把握

フジクラは2019年1~3月、自社で開発したCat.M1を利用したみちびき対応GNSSトラッカーを使って、IoTプラットフォームを提供するIoTBASE株式会社と共同で、長野県大町市において除雪車管理の実証実験を実施しました。

実証実験に使用した除雪車

実証実験に使用した除雪車(画像提供:株式会社フジクラ)

長野県北西部に位置する大町市は、2月の平均積雪深(積雪の深さ)が50cmを超える豪雪地帯で、冬季の除雪のために多数の除雪作業車を管理しています。除雪作業の大部分を外部業者に委託しており、業者から稼働時間の報告を受けた市職員が、手作業で毎月の委託費を確認していました。住民からの除雪作業の問い合わせに対し、市職員が電話で除雪状況を確認することも負担となっていました。
今回の実証実験では、除雪車3台にCat.M1を利用したみちびき対応GNSSトラッカー、2台に従来の3G対応GNSSトラッカーを設置しました。これにより、IoTBASEが提供するIoTソフトウェア「スマートマップ」上で位置情報をリアルタイムに把握することが可能となり、これをもとに稼働時間の自動計算に取り組み、作業エリアの把握による稼働動線の適正化や住民問い合わせへ対応にも活用しました。

スマートマップ

IoTBASEのスマートマップ(画像提供:株式会社フジクラ)

Cat.M1を利用したみちびき対応トラッカーと、3G対応トラッカーの精度を比較したところ、その軌跡には歴然とした違いが見られたそうです。
「トラッカーは除雪車のダッシュボード付近に設置し、外部アンテナは使用していません。位置精度を比較すると、3G対応トラッカーでは、ある地点でいきなり位置が遠くへ飛んだりすることがありましたが、Cat.M1を利用したみちびき対応トラッカーはそのようなことがなく、とても安定した軌跡が得られました」(安原氏)

稼働時間の自動計算では、従来の手動による集計と、システム計算による結果を比較して、同等の精度であると確認されました。また、GNSSトラッカーから除雪車の位置情報を30秒間隔で送信することで、除雪ルートをほぼ正確に把握し、地図上で作業状況をリアルタイムに確認できました。これにより、住民からの問い合わせにも迅速に対応できるようになりました。

実証2)キャンピングカーにトラッカーを搭載

フジクラとIoTBASEは、大町市の実証実験に引き続いて4~6月と8月の2回、キャンピングカーのレンタル事業などを手がけるキャンピングカー株式会社の協力を得て、レンタルキャンピングカーにCat.M1を利用したみちびき対応トラッカーを搭載する実証実験を行いました。

実験に使用したキャンピングカー

実験に使用したキャンピングカー(画像提供:株式会社フジクラ)

キャンピングカー社は、レンタル需要が近年、大幅に増加する中で、「渋滞などによる返却時間の遅延を把握し、スタッフのオペレーションを効率化したい」「事故・トラブルの発生場所を正確に特定し、より迅速な対応を行いたい」「営業所ごとに配置されている車種、台数を最適化したい」といったさまざまな課題を抱えていました。
今回の実証実験では、フジクラのCat.M1を利用したみちびき対応トラッカーをキャンピングカー車両に搭載し、除雪車の実証実験と同様にIoTBASEのスマートマップを使ってPCやスマートフォン上で位置を把握できるようにしました。位置情報は1分ごとにサーバーに蓄積され、位置情報を分析することもできます。

また、単純に位置を把握するだけでなく、エリアを設定し、そこへの出入時に、指定したアドレス宛にメールを送信することも可能としました。さらに、車両の故障や事故などのトラブル発生時にはGNSSトラッカーに搭載された通知ボタンを押すことで、マップ上で位置を確認できるリンク情報が記載されたメールが送信されます。これにより、トラブル時に迅速に場所を把握できる仕組みとなりました。

スマートマップ

スマートマップに車両位置をリアルタイム表示

車両の位置を正確に把握でき、走行距離などのデータも細かく取得できたという今回の実証実験の結果は、キャンピングカー社からも高い評価を得られたとのことです。また、シガーソケット接続のUSB充電器にケーブルを接続するだけで簡単に設置できる点や、取り扱いが容易な点も評価されたそうです。
「近年は外国人観光客の利用者も増え、車両トラブルが起きた場合に電話で場所などを伝えるのは難しいケースもありますが、GNSSトラッカーを使えばボタンを押すだけで位置情報を送信できます。キャンピングカー社はこのようにして蓄積した位置情報を解析して、新たなサービスの検討も行っているそうです」(安原氏)

2件の実験を終えた今、みちびきにどのような期待を持っているのでしょうか。
「今後、高精度測位に対応したGNSS受信チップが今よりも安くなれば、サブメータ級測位が可能なGNSSトラッカーなどのリリースも検討していきたいと思います。位置情報というのはさまざまな使い方ができるし、これからさらに大きな市場になると思います」(安原氏)

IoTBASE社は、今回の実証実験を通じて、除雪車の稼働時間を自動計算したり、キャンピングカーの移動距離を積算する機能などを「スマートマップ」に追加し、より使い勝手の良いIoTプラットフォームの構築に取り組みました。

澤和氏

IoTBASEの澤和氏

「みちびきの高精度測位は、要素技術として自動運転やM2M(Machine to Machine、機器間の通信)などの分野で活用されていくと思います。われわれのようなクラウドソリューションを提供する側から見ると、例えば危険なエリアに入った時にメールを送信するとか、位置情報に関するニーズは多様にあって、今後の進化がとても楽しみな技術だと思います」(澤和氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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