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みちびきの高精度測位を活用した農地管理アプリ「連防」

2020年03月30日

みちびきの高精度測位の活用事例として、トラクターなど農業機械の自動制御に役立てる試みが知られていますが、農業分野におけるみちびきの活用はそれだけではありません。栃木県小山市のアクリーグ株式会社は、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用した農地管理システムの実証実験を2019年秋から実施しています。

作物を植えた場所の位置情報をCLASで記録

アクリーグの磯山社長

アクリーグの磯山社長

同社が行っている実証実験は、耕作地における“連作障害”を防ぐことを目的としています。連作障害とは、同じ科目作物を連続して同じ場所で育てることによって起こる生育不良などのトラブルで、特にナスやジャガイモ、トマトなどのナス科や、キュウリやカボチャなどウリ科の作物で発生しやすいと言われています。これを回避するには作物を植える場所を毎年変更する必要がありますが、小規模な畑の場合は区画が細かくなるため管理が難しくなってしまいます。
アクリーグの磯山左門・代表取締役社長は、この点について「限られた範囲で連作障害を防止するには、作物を植える場所の緻密なローテーション管理が必要です」と説明します。磯山社長は、20年前から小山市内に農園を借りて、趣味で週末に野菜を育てていました。小規模農園における連作障害の課題意識はその経験から生まれたもので、以後、同社はビジネス化を視野に入れて課題解決に取り組むことになったそうです。

 実証実験は、磯山社長が借りている農園を使って昨年(2019年)11月から開始しました。約1000 m2の農地において、三菱電機のCLAS対応受信機「AQLOC」を使用し、登録する区画の位置情報を記録していきます。
登録する区画の位置情報を記録

登録する区画の位置情報を記録(画像提供:アクリーグ株式会社)

畑には、作物を作るために細長く直線上に土を盛り上げた“畝(うね)”が平行に何本も並んでいます。作付けをする際にはその都度、盛り上げた土を平らにならしてから、前年の位置とは少しずらした位置に新たな畝を作り直さなければなりません。畝の幅は約0.7mで、畝と畝との間隔は1.2mほど離す必要があります。

「畝の幅はわずか0.7mなので一般的な衛星測位では誤差が大きく使いものになりません。それぞれの畝にどんな作物を植えたか細かく管理するには、高精度測位が不可欠でした」(磯山社長)

アプリを使って作付け場所や栽培履歴を管理

アクリーグの阿部課長補佐

アクリーグの阿部課長補佐

今回の実証実験ではCLASの精度検証を目的として、AQLOCに加えて日立造船のGNSS受信機「NetSurv RE」を併用し、RTK方式(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)による高精度測位も行った上でAQLOCとの精度を比較しました。

プロジェクトを担当した同社商材開拓戦略本部の阿部雄生課長補佐は、受信可能な衛星数が少ない時に一時的に誤差が大きくなることがあっても、ほとんどの場合、5cm以内の誤差に収まったと話し、「これだけ高精度であれば十分使える」とCLASの精度の高さに満足しています。

こうして記録した位置情報を、作物ごとの栽培状況や栽培履歴と共にサーバーに保存し、それらをもとに畝の形を描いたポリゴン(多角形)データが作成されました。同社は、このポリゴンデータなどを閲覧するためのiOSアプリ「連防(れんぼう)」も開発しました。

農地管理アプリ「連防」で耕作エリアの位置や作物の種類を表示

農地管理アプリ「連防」で耕作エリアの位置や作物の種類を表示(画像提供:アクリーグ株式会社)

「連防」は、作物を植えた区画の位置情報や栽培履歴を管理するための農地管理アプリです。このアプリを使うことで、翌年の作付けの際に、記録した耕作エリアの位置や作物の種類をスマートフォンやタブレット上で確認し、過去と現在の耕作エリアを比較・検討して連作の防止に役立てることができます。
例えば、同じナス科やウリ科の作物でもさまざまな種類があり、連作障害を防止するにはどれくらい年数を空ける必要があるのか、間隔はそれぞれ異なります。「連防」を使うことで、作物ごとに異なるさまざまな情報を、畝の位置情報とひも付けて管理できます。

画面の耕作エリアをクリックすると(左)、作物の詳細情報を表示できる(右)

画面の耕作エリアをクリックすると(左)、作物の詳細情報を表示できる(右)

過去の畝の位置と同じ場所に新たな畝の位置を登録しようとした場合、連作になってしまうことを自動的に知らせるアラート機能も実装しています。また、将来的にスマートフォンやタブレットの位置情報がより高精度に進歩することを見据え、位置情報の登録をアプリ上で直接行う機能も備えています。

ドローンで上空から撮影した畑の画像

ドローンで上空から撮影した畑の画像(画像提供:アクリーグ株式会社)

CLASをより簡便に使えるように期待

「連防」は、機能面について引き続き改良を図っていく方針です。スマートフォンのカメラに写った農園の映像に、過去に作付けした畝の位置をAR(拡張現実)で重ねる機能などの追加を検討しています。

阿部課長補佐は、「RTK方式は補正データを購入しなければなりませんが、CLASなら単独で高精度測位を利用でき、今後のビジネスにおいて大きな可能性を感じます」と、CLASを使うことのメリットを説明します
磯山社長も、CLASの精度には満足しており、「あとはいかにこの技術を簡便に使えるようにしていくかが重要です」と指摘。「連防」についても、「作付けの位置情報の登録から栽培管理まで、すべてスマートフォンを使って完結できるようになれば、もっと利便性が向上します」と、今後に期待を寄せています

位置情報の記録作業の様子

位置情報の記録作業の様子(画像提供:アクリーグ株式会社)

同社は今後、小山市内で貸し農園のサービスを開始し、家庭菜園を楽しむ個人客に向けて「連防」を使ってもらう予定です。また、他社の貸し農園に「連防」のシステムを提供したり、耕作放棄地の管理に「連防」のシステムを活用したりすることも検討しています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※ヘッダ画像提供:アクリーグ株式会社