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KISがSLASを活用した水道メーターの位置情報管理システムを開発

2022年09月08日

2019年に改正水道法が施行され、私たちの生活に欠かせない水道を適切に維持・管理し、災害時等の危機管理体制を強化して、水道事業者間や官民の連携を行う基礎情報とするために、2022年9月末からの水道施設台帳の作成と保管が義務付けられました。しかし、全国の水道事業者のうち約6~7割を中小規模の事業者が占めており、水道メーターの位置を含む水道施設台帳の整備は、現在でもまだ遅れている状況です。

水道メーター

周囲の荷物に埋もれ、見つけにくい場所に設置された水道メーター

個々の家屋の敷地内に設置された水道メーターは、検針や調査点検をする際に正確な場所の情報が必要となりますが、多くの水道事業者が、施工業者の手書き図面や、図面からトレースしたマッピングシステムでその位置を管理しており、精度は高くありません。さらに古いメーターなど、マッピングシステムや紙で管理できていないものがあり、整備するに当たっては地中にある水道メーターを地道に1件ずつ現地確認する調査が必要で、これには手間と時間がかかります。ぱっと見で分からない場所に水道メーターがある場合、その位置の把握を個々の検針員の記憶に頼っている状況では、他の検針員への情報の共有や引き継ぎも困難です。
熊本市を拠点にさまざまな業務支援ソリューションサービスを提供する株式会社KISは、こうした課題解決のために、みちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)を活用して水道メーターの位置情報を管理する「水道メーターナビゲーションシステム」を開発しました。

システム構成

システム構成

リストウォッチと検針用端末を連携

同社は、全国の水道事業者向けに水道メーターの検針や水道料金請求などのシステムを20年以上にわたって提供してきました。水道メーターナビゲーションシステムは、この水道事業者向けソリューションで使われている水道メーター検針用のスマートフォンと、SLASに対応した腕時計型の受信端末を連携させ、水道メーターの位置情報の自動収集や、検針業務の負荷軽減を実現することができます。

腕時計端末と検針用端末を連携

SLAS対応の腕時計端末と検針用端末を連携(左)、記録された水道メーターの位置を地図上に可視化(右)

SLAS対応の受信端末には、株式会社MASAのゴルフ用リストウォッチのファームウェアを変更したものを使用します。これと検針用のスマートフォンをBluetoothでワイヤレス接続し、検針員が水道メーターの数値を読み取ってスマートフォンに登録すると、その測位情報が水道メーターの位置として自動的に記録されます。水道メーターの位置情報は自治体の庁舎内で管理でき、地図上にメーター位置を可視化したり、登録したメーターの位置情報をもとに検針や調査の報告書を作成したりできます。

位置情報の記録

検針時に位置情報を自動的に記録

位置情報の記録

KISの西村泰徳氏(ITソリューション事業本部 公共ソリューション部 課長)によると、水道メーターナビゲーションシステムの主目的は水道メーターの詳細な位置情報収集ですが、記録した位置情報を活用して、検針用スマートフォンの表示画面を見ながら水道メーターまでの距離と方向を確認できるナビゲーション機能も実装したそうです。
「検針員が再度、水道メーターを検針する際は、スマホ画面のナビを使えばメーターの位置へ案内してもらえます」(西村氏)

これを使えば、応援検針と呼ばれる、検針員が急病などの際に別の検針員が代理で対応するような場合に、メーターの位置特定にかかる時間を大幅に短縮できます。実際に最近、検針員がコロナ感染した事例では、1日約300件の検針を急きょ別の職員が対応して、メーター位置が分からず通常の2倍近い時間がかかったそうです。人に依存せずにメーターの位置情報を把握できれば、それが効率的な検針につながります。

担当スタッフ

水道ナビゲーションシステムの担当スタッフ。(左から)公共ソリューション部の西村氏、岩崎智史氏、公共医療クラウド営業部の新村悠氏、公共ソリューション部の田中亮史主任

宇佐市でシステムの実証実験を実施

6月9・14日の2日間、KISは、宇佐市(大分県)の協力を得て、同市中心部から半径2km圏内の公共施設及び商業施設に設置された水道メーターを使って、システムの実証実験を行いました。当日は、SLAS対応ウォッチを身に着けた検針員が、実際の検針と同じプロセスで水道メーターを検針しつつ、SLASで測位された水道メーターの位置情報を記録しました。同時に、メーター位置の目印となる遠景・近景の写真も撮影して登録しました。

実証実験の様子

実証実験の様子

ナビゲーション画面

ナビゲーション画面(左)、検針メーターの写真も併用可(右)

また、一通り検針が終了した後、検針した場所を再度訪問し、スマートフォンの画面を見ながら水道メーターにたどり着けるかを検証すると共に、記録した位置情報をデジタル地図に取り込んで地図上にマーカーで表示しました。

デジタル地図に位置情報を表示

記録した位置情報をデジタル地図に取り込んで表示(地図出典:国土地理院)

その結果、11地点15回の測位誤差の平均値は、1回目(6月9日)が1.22m、2回目(6月14日)が2.95mとなり、総合平均が2.08mで、目標としていた誤差3m以内を達成しました。
「測位誤差の目標を達成し、宇佐市の方にも納得していただけました。ナビゲーション機能は、測位した水道メーター位置と現在位置の精度に多少の誤差が生じましたが、遠景・近景の写真情報を併用することで実用でも使えると判断しています。今後はSLAS測位を継続的に行って位置情報データを蓄積し、どのように精度を向上させるかを検討します」(西村氏)

実証実験の結果を踏まえて、宇佐市役所上下水道課の渡瀬氏もこのシステムを次のように評価します。
「ふだんの業務にほぼ影響なくデータが蓄積可能であるため、水道台帳の整備及び検針業務の軽減になると思います。また、災害の際に予想される大規模な漏水に対し、他課の職員や災害派遣に来てもらう他市町村の職員でも検針端末から場所の確認を行えるため、迅速な対応に繋がると考えられます」(渡瀬氏)

SLAS測位の誤差の要因は、水道メーターが上空視界の良くない塀や壁の近く、または軒先などに設置されている場合や、検針員が水道メーターを覗き込む姿勢で検針することによって、測位衛星の信号の受信が妨げられることが考えられますが、今後、検針する際の測位環境に配慮すれば、改善の余地が生じると想定されます。

実証実験の測位結果

実証実験の測位結果

みちびきの高精度測位により差別化

仮に測量系のシステム事業者にすべての水道メーターの位置調査を依頼した場合と比べると、このシステムを利用することでコストを約1/10程度に抑えることができ、データ更新費用もかけることなく、水道メーターの位置情報を整備できるといいます。
「この位置情報は、水道メーターの取り替え時にも有効に使えます。メーターの有効期間は8年と定められており、従来は取り替えの際に施工業者へメーター位置を伝えるのにも時間と手間がかかっていました。紙の地図で提供するのをやめ、SLASで得られた位置情報データを提供するやり方に変えれば、作業時間を大幅に削減できます」(西村氏)

いくつかの自治体ではすでにシステムの導入を予定しており、今回実験を行った宇佐市も、SLASの精度に概ね満足して将来的に導入を検討しています。自治体や水道事業者は、このシステムを使って水道メーターの位置情報を整備することで、将来的に、災害時の漏水箇所特定を迅速化したり、水道事業者間の広域連携に役立てたり、水道管の維持・管理を効率化したりと、さまざまな可能性に期待しているようです。
「水道事業向けのソリューション提供という分野において、SLASによる水道メーターの測位サービスを提供するのは、当社が初めてです。みちびきを使って水道メーターの位置情報を高精度に取得するという付加価値は、他社との差別化を図る上でとても有効であり、今後は全国の水道事業者に拡販していきたいと思います」(西村氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:株式会社KIS

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