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[実証2023-5] 仙台高専:CLASにより自動走行するインフラ点検用地中レーダロボットの開発

2024年09月19日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、2023年度に独立行政法人国立高等専門学校機構 仙台高等専門学校(仙台高専)が実施した「みちびきCLASにより高精度で自動走行するインフラ点検用地中レーダロボットの開発」の取り組みを紹介します。
同校は、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応受信機を搭載した自動走行の地中レーダロボットを開発し、その走行制御と地中物体位置の特定にCLASで測位した高精度位置情報を活用しました。6人の学生と共に実証事業を行った同校総合工学科の園田潤教授に話を聞きました。

顔写真

園田教授

地中レーダとは、電波を地面や構造物に発射して、内部からの反射波の到達時間や強度、波形などを計測することで埋設部や内部構造物を計測する技術です。園田教授は、2011年の東日本大震災をきっかけとして被災箇所を点検するための地中レーダ調査の研究を行っており、2017年から作業を自動化できる自動走行地中レーダロボットを開発しています。
地中レーダ調査を手動で行う場合、事前に人の手で路上に“測線”を複数引いた上で、線に沿って地中レーダを移動させて計測しますが、従来はこの測線を引く作業に多大な労力が必要でした。地中レーダロボットを自動で走行させることにより、地図上に経由地のピンを複数配置するだけで指定経路を自動走行させることができます。

地中レーダ調査の様子

従来は手動で行う必要があった地中レーダ調査

園田教授は地中レーダロボットの自動走行化に当たって、当初は一般的な単独測位のGNSS受信機を使用していましたが、2020年からはネットワークRTK測位を採用し、地中レーダの調査結果に高精度な位置情報を付与することで地中物体の位置を正確に特定できるようになりました。そして今回の実証事業において、園田教授はこれまで使用していたネットワークRTK測位からCLAS測位に切り替えました。
「CLASはみちびき衛星から補正信号が直接送られてくるので、ネットワーク不要でどこでも高精度な測位が可能です。それがCLASを採用した理由です。実はCLASには以前から注目していましたが、受信機が高価なので様子を見ていたところ、最近になってかなり低価格化したので、今回の実証で使ってみようと考えました」(園田教授)

搭載型

搭載型の地中レーダロボット

牽引型

牽引型の地中レーダロボット

実証事業では、小型軽量のクローラロボットを2台製作しました。1台は自動走行を行うクローラロボットに地中レーダを搭載した「地中レーダ搭載型」、もう1台は地中レーダとロボットを分離し、地中レーダ部分をロボットが牽引する方式の「地中レーダ牽引型」です。
地中レーダは周波数によって大きさが異なり、測定できる深さにも違いがあります。地中レーダ搭載型の方が小回りが効いてスムーズに旋回できるのに対し、地中レーダ牽引型は大きいサイズの地中レーダを搭載できるほか、不整地や傾斜地を調査する際に上下動が少なく安定するのがメリットで、場所や用途により使い分けが必要となります。
クローラロボットには制御ユニットとCLAS対応受信機を搭載し、CLAS対応受信機はロボットの位置を測定するための受信機と、地中レーダの調査結果に位置情報を付与するための受信機の2台を搭載し、それぞれにCLAS対応アンテナを1台ずつ接続しました。

今回の実証では、まず2023年9月29、30日の2日間、山形県酒田市飛島の公道において地中レーダロボットの自動走行実験を行いました。実施場所は、1)飛島西側の9%傾斜橋梁道路、2)携帯キャリア電波が受信困難な西側道路、3)携帯基地局が設置されているグラウンドの3カ所です。

実施場所-1

1)飛島西側の9%傾斜橋梁道路

実施場所-2

2)携帯キャリア電波が受信困難な西側道路

実施場所-3

3)携帯基地局が設置されているグラウンド

この結果、1)では幅3mの狭い道路において、50cm間隔で4側線分の地中レーダデータが得られ、CLASによる測位により測線を引く作業を行うことなく、地図上で指定した箇所を自動走行できることが確認できました。また、3)についても不整地の草地において良好に自動走行できることが確認できました。CLASで取得した高精度な位置情報を地中レーダの調査結果と組み合わせることで、地中の様子を表すレーダ画像から内部の異常箇所などを地図上で高精度に特定できることも確認できました。
一方、2)の場所では上空の見通しが悪く、衛星電波を受信しにくい木々の下を走行する際に自動走行の精度が低下し、地中レーダロボットが蛇行してしまいました。蛇行する現象は方向旋回時にも見られました。園田教授は方向旋回時の蛇行を改善するため、自動走行のPID制御パラメーターやアンテナ位置の見直しを試みましたが、改善が見られなかったため、次に磁気コンパスからCLASを活用したGNSSコンパス(CLASコンパス)への変更を行いました。
初期のロボットには、ロボットの走行制御用と地中レーダ用にそれぞれ別々のCLAS対応受信機とアンテナを使用し、方向角の検出には磁気コンパスを使用していました。CLASコンパスへの変更に当たっては、片方のCLAS対応受信機とアンテナをロボットの走行制御用と地中レーダで共用し、もう片方のCLAS対応受信機とアンテナで得られた位置情報との位置差をもとに方向角を検出するように改良したところ、仙台高専の校内の周回道路の自動走行実験において蛇行を低減できることが確認できました。

移動軌跡

磁気コンパスとCLASコンパスの移動軌跡の違い

この改良後の地中レーダロボットを使って、2023年12月11、12日に、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドの市街地フィールドにて自動走行実験を行いました。幅が約6m、長さ100mの南北道路において、幅方向で1m間隔で自動走行しながら地中物体を検出する実験を実施したところ、CLASを活用したGNSSコンパスによって高精度に自動走行できることが確認できました。

市街地フィールドでの自動走行試験

福島ロボットテストフィールドでの実証実験

この時の地中レーダによる計測により、埋設管と想定される地中の反射画像も得られました。福島ロボットテストフィールドから提供を受けた埋設管敷設部と照合したところ、レーダ画像の反射波の位置に埋設管が実際に敷設されていることが確認できました。
この結果をもとに、埋設管が敷設されている幅6m×長さ6mのエリアにおいて50cm間隔で詳細に自動走行し、埋設管を高分解能で検出する実験を実施したところ、50cm間隔の11本の測線を高精度に走行できることが確認され、地中レーダによって得られる反射画像から埋設管の位置を高精度に推定できることが確認できました。

移動軌跡と地中レーダ画像

市街地フィールドでの移動軌跡と地中レーダ画像

さらに埋設管検出の位置精度を定量的に評価する実験を、仙台高専に設置されている埋設管実験フィールドにおいて実施しました。この埋設管実施フィールドは25mm径の水入りと水なしの金属管及び塩化ビニール管を1m間隔で0.5m、1.0m、1.5m、2.0mの4段階の深さに設置したもので、地中レーダロボットの自動走行は、アスファルト舗装された4m×1.2mの範囲を30cm間隔の経路で実施しました。

実験場所と走行軌跡

仙台高専の校内にある埋設管実験フィールド(左)における地中レーダロボットの走行軌跡(右図、赤・青・緑色の3回走行分)

この結果、事前に設定した走行軌跡との誤差は平均4.3cm、最大16cmという結果となりました。この自動走行によって得られた地中レーダの画像から得られた埋設管位置の緯度・経度と実際の埋設管の位置を比較したところ、誤差13cmの精度で埋設管の位置を特定できることが確認できました。

地中レーダ画像と埋設管位置

埋設管実験フィールドで得られた地中レーダ画像(左)と埋設管位置(右)

続いて2024年1月11、12日には、福島ロボットテストフィールドの市街地フィールド(道路)及び瓦礫・土砂崩落フィールド(土砂傾斜)において、重量や大きさの異なる複数周波数の地中レーダアンテナを搭載した走行実験を実施しました。地中レーダは、周波数が低いほど探査深度が深くなります。2023年12月に行った実験では深さ2m程度を探査できる750MHzアンテナ(重量6kg)を使用しましたが、2024年1月の実験では深さ3m程度を探査できる450MHzアンテナ(重量7.5kg)を使用しました。

2種類の地中レーダ

750MHzの地中レーダ(左上)と450MHzの地中レーダ(左下)

瓦礫・土砂崩落フィールド

土砂傾斜のある瓦礫・土砂崩落フィールド

この結果、道路と土砂傾斜のいずれの場合においても、サイズが大きく重量の重い450MHzアンテナを搭載した場合でも安定した自動走行が可能であることが確認できました。また、自動走行で得られた地中レーダ画像より、深さ0.6m及び1.2m程度に埋設管、深さ3~4mに地盤構造と思われる物体を検出できました。土質や土壌水分率にも依存しますが、450MHzアンテナによる地中レーダロボットにより、深さ4.0m程度の物体が検出可能であることが確認できました。

地中レーダ画像:市街地フィールド

市街地フィールドのロボット走行で得られた地中レーダ画像

地中レーダ画像:瓦礫・土砂崩落フィールド

瓦礫・土砂崩落フィールドのロボット走行で得られた地中レーダ画像

実環境における実験として、宮城県塩竈市の桂島と宮城県丸森町でも走行試験を行いました。2024年1月16日に実施した桂島の実験では、冬期の低温積雪状態において、1周1km程度の10°程度の斜面を含む市道において、750MHzアンテナを使用した走行実験を実施しました。この時は暴風警報が発令される中、気温-2℃で積雪2cmの状況でしたが、低温状態で積雪かつ凍結した路面上でも問題なく走行できました。
また、地中レーダ画像からは深さ約2.0m以内に埋設管や路面下状況を検出できました。桂島は東日本大震災の津波で大きな被害を受けて、走行した市道は埋め立て工事などが実施されており、震災復興後の路面下の状況を把握することもできました。

桂島での実証実験

氷点下で行われた、宮城県塩竈市の桂島での冬期積雪凍結道路における実証実験

地中レーダ画像

実験で得られた地中レーダ画像

一方、宮城県丸森町では、2024年1月12日に阿武隈川の堤防において750MHzアンテナによる斜面走行の検証を行いました。この結果、傾斜のある河川堤防法面においても問題なく走行できることが確認できました。また、地中レーダ画像からは、深さ30~50cmに複数のモグラ穴と思われる空洞を確認できました。

宮城県丸森町における実際の河川堤防法面での実証実験

地中レーダ画像

実験で得られた地中レーダ画像

園田教授は実証実験の結果を踏まえて、「埋設管を調査する用途では、CLASの測位精度で十分に使えると思います」とCLASによる地中レーダロボットの自動走行の成果を高く評価しています。自動走行化により、地中レーダ調査でとくに労力を要していた測線を引く作業が不要となるため、園田教授の見立てでは現在の1/10程度の時間及び労力を削減できる可能性があります。
園田教授は今後、地中レーダロボットに障害物を検知するセンサーを搭載するなど、改良を図りながら実用化に向けて取り組んでいく予定で、自治体とも連携しながら社会実装を目指していく方針です。
「地中レーダは埋設管の調査のほかにも、埋め立て処分場の調査や遺跡調査、災害復興などさまざまな分野において活用が進むことが予想され、これにCLASによる自動走行を組み合わせることで可能性が大きく広がると思います」(園田教授)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:仙台高等専門学校 園田 潤教授

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

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