コンテンツです

トヨタ自動車がみちびきを活用した駐車管理システムを試験運用

2021年04月19日

国内において年間自動車販売数トップを誇るトヨタ自動車株式会社。同社の系列販売会社であるトヨタカローラ札幌株式会社の恵庭新車受渡センター(北海道恵庭市)は、みちびきの高精度測位を活用して自動車の駐車位置を管理するシステムを2020年11月から試験的に運用しています。トヨタ自動車の彦坂友弘氏(流通情報改善部 グループマネージャー)と椿本樹矢氏(流通情報改善部 オペレーション開発改善室 3G)に、システムの概要とみちびきの技術を導入した理由を聞きました。

トヨタ自動車の彦坂氏と椿本氏

彦坂氏(左)と椿本氏(右)

SLAS対応のスマートウォッチで駐車位置を判別

恵庭市は、札幌市の東南、新千歳空港に向かう途中に位置する町です。市内にある恵庭新車点検センターは、他に取り扱う中古車も含めると約1600台を収容する駐車スペースを持つ拠点施設。ここでは工場から出荷された新車をディーラー(特約販売店)へ引き渡す前に、ディーラーオプションと呼ばれるさまざまな部品を車両に装着しています。同センターはこれまで車両の管理を、駐車位置と車両情報を記入した紙の伝票を棚に差し込む形で行ってきました。

従来使っていた棚

従来は、棚に伝票を差し込む形で管理

全国各地にある新車受渡センターでは、こうした紙の伝票で管理する方法のほか、車両と駐車区画に埋め込んだRFID(Radio Frequency Identification)タグを携帯端末(Apple製iPod touch)で読み取り、双方をひも付けた情報をクラウド上で一元管理するシステムを採用しているところもあります。
ただ、駐車区画に埋め込むRFIDタグ(ロケタグ)は導入時に設置人件費等の費用がかかるほか、北海道などの雪国では冬季、屋外の駐車場が雪に覆われてしまい、ロケタグが雪かきで剥がれたり、割れたりするため、メンテナンスが必要となり、そのためのコストが問題となっていました。そこで同社が注目したのが、みちびきの高精度測位でした。

登録のしくみ

車両情報とロケ情報をクラウドに登録する

サブメータ級測位補強サービス(SLAS)に対応した腕時計型受信機(スマートウォッチ)を使ってどの車両がどの区画に駐車しているかを判別し、車両情報と駐車位置(ロケ情報)をクラウド管理することで、駐車管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現したのです。

SLAS対応ゴルフウォッチ

SLAS対応ゴルフウォッチ

携帯端末

RFIDリーダーを取り付けた携帯端末

作業スタッフが装着する受信機は、市販されている株式会社MASAのSLAS対応ゴルフウォッチ「THE GOLF WATCH A1-II」及び「THE GOLF WATCH NORM II」をベースに、ファームウェアを変更したものを使用しました。この受信機で取得した位置情報をもとに、車両がどの駐車区画にいるのかをRFIDリーダーを取り付けた携帯端末(iPod touch)の画面上に表示します。さらに車両に付与したRFIDタグ(車両タグ)をこの携帯端末で読み取ることで、車種や型式、色、フレームナンバーなどの情報を加え、クラウドに登録するという仕組みです。

「駐車管理に衛星測位を使うシステムは、社内で以前から検討していましたが、従来のGPSは誤差が大きく実用的ではありませんでした。RTK(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)ではランニングコストがかかるため、もっと低コストで運用できる方法を模索していたところ、みちびきのサブメータ級測位に対応したゴルフウォッチが登場したことを知り、導入を決めました」(彦坂氏)

今回の試験運用に当たって、この腕時計型受信機を予備も含めて計30台導入したとのことです。

作業の様子

作業スタッフは携帯端末でタグ情報を読み込んだ後、SLASで測位して位置をクラウドに登録する

CLAS対応受信機で駐車場内の地図を事前作成

このシステムを導入するには、駐車区画ごとの正確な座標を登録した場内の地図を事前に作成する必要があります。その登録座標をもとに、SLASで取得した測位座標からもっとも距離が近い駐車区画の番号をスマートフォンに表示します。駐車区画の座標登録には、マゼランシステムズジャパン株式会社及び三菱電機株式会社が提供するセンチメータ級測位補強システム(CLAS)に対応した受信機と対応アンテナを使用しました。

作業風景

CLAS測位で駐車スペースの位置情報を取得

「運用時にスタッフがSLASで測位する運転席の位置座標と合致するように測位しました。駐車区画は1000以上あるので、各区画を1つずつ測位していくのではなく、連続した駐車区画の左右の端を1カ所ずつ測位して、区画数で均等割りして座標を登録しました。これでほぼ正確な位置を特定でき、作業工数も減らすことができました」(椿本氏)

測位誤差が生じる可能性を考慮して、スマートフォンには1つの駐車区画だけでなく、前後左右斜めなどの隣接する4区画も候補として表示されます。作業スタッフは実際にどの位置に新車が止まっているかを確認した上で、提示された区画が誤っている場合は正しい区画を選んで登録します。

登録位置の判定

測位した座標にもっとも近い区画を現在位置と判定

「SLASによる測位で提示される駐車区画の正解率は約88%と完璧ではなく、万全を期すため候補区画を複数表示する仕様にしました。測位誤差により誤った駐車位置が表示された場合は、作業スタッフの目視による確認で補い、伝票を使っていた時と同様に間違いのない駐車管理を実現できました」(彦坂氏)

スマホ画面

隣接する4区画の番号も候補として表示する

全国の販売会社へのオプション提供を準備中

全国に100カ所以上ある新車受渡センターで管理される車両数は10万台を超えます。その駐車区画一つずつにロケタグを設置したり、損傷したロケタグを設置し直すコストを考えると、将来的に雪国以外でも衛星測位を使った駐車管理システムが採用される可能性は高いといえます。

椿本氏

椿本氏

「SLASは精度が高く、受信も安定しています。また、RTKと違ってランニングコストがかからないというのも販売会社にとっては大事なポイントです。今後は駐車位置を測位する際の精度がより向上すること、屋外へ出てから測位可能となるまでの時間が短くなること、CLAS対応の受信端末が小型化することなどを期待しています」(椿本氏)

彦坂氏

彦坂氏

「現在は作業スタッフがiPod touchを1台ずつ持って車両の位置を管理しています。将来、こうした携帯端末にSLAS対応の測位機能が内蔵されるようになれば、別にスマートウォッチを装着する必要がなくなり、できるだけ余分な装備を持たないという理想形にさらに一歩近づけると思います」(彦坂氏)

同社は今後、この駐車管理システムを、RFIDタグを使ったシステムのオプションとして全国の系列販売会社に対して提供していく方針で、来年夏頃の提供開始を目指して準備を進めています。
(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

※本文中の画像・図版提供:トヨタ自動車株式会社