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国際航業、インドネシアでみちびきを活用した高精度測量の実証実験

2020年06月29日

みちびきが提供する高精度測位の実用化に向けた取り組みが、アジアやオセアニア地域で始まっています。国際航業株式会社による実証実験もその一つで、同社は2019年度みちびきを利用した実証実験公募に応募・採択され、昨年秋から今年2月にかけて、日本国内及びインドネシアにおいて、みちびきの実証実験向けセンチメータ級測位補強信号であるMADOCAの測量への適用を目的とした測位精度の検証を行いました。
この実証実験を担当した同社センシング事業部の新井邦彦室長(事業推進部 宇宙・G空間推進室)、海外開発部の翠川利一部長、青木雅詠氏、技術顧問の笹川正氏に4人に話を聞きました。(所属・肩書は、実証実験当時のもの)

取材先4氏の集合写真

左から新井氏、翠川氏、青木氏、笹川氏

OneMap政策による需要増加がビジネスチャンスに

今回の実証実験はみちびきを用いた高精度測量事業の海外展開を見据えたもので、大縮尺の地図作成などの用途に適用できるかを検証する目的で行われ、実証実験の舞台にはインドネシアが選ばれました。
「インドネシアは静止衛星であるみちびき3号機の軌道直下に位置しており、電波を受信しやすいことに加えて、同国に電子基準点が少なく、地上通信網が発達しておらず、RTK-GNSS測位よりもMADOCAによる高精度単独測位が有用と考えました」(新井氏)

衛星測位による公共測量を実施するには、これまで高密度の電子基準点による地上補正が必要でした。ところが日本では約30kmごとに全国で1,300点以上の電子基準点が配置されているのに対し、インドネシアやフィリピンなどは国土面積が広く、島嶼部が多いため、電子基準点網を高密度に整備することは困難です。
こうした状況の中で、インドネシアでは国土空間データの基盤を整備する計画としてOneMap政策を掲げており、より高精度で大縮尺な5,000分の1地形図の作成需要が高まることが見込まれ、現地の企業にとって大きなビジネスチャンスとして期待されています。

国内で電子基準点データを使ったシミュレーション

実証は、まず日本国内で、電子基準点の数が少ない海外を想定した衛星測量を行いました。
はじめに国土地理院のGNSS連続観測システム「GEONET」より得られた電子基準点(水上2、富士、銚子、大宮)のデータをもとに、MADOCA補強データを使って、オープンソースソフトウェア「RTKLIB」により計算を行いました。点間距離が200Km離れた水上・富士・銚子の3点における計算結果をもとに、最小二乗法によって、未知点とした大宮の電子基準点のデータを補正し、公開座標(真値)と比較しました。
さらにマゼランシステムズ社製のMADOCA対応受信機を使用して、水上・富士・銚子の3点で囲まれたエリア内において、国土地理院の基準点の中から20点を選び、実測による試験を行いました。

地図(電子基準点と計測点の位置)

国内実証実験で使用した電子基準点と計測点の位置

なお、日本やインドネシアは地震や地殻変動が大きく、それぞれの国の座標系(元期座標)を設定しているのに対して、MADOCAの補強は今期座標系(WGS84)での測位となります。測量成果を元期座標にするために、今回の実証試験では、海外の電子基準点網がまばらであることを想定して、200km離れた電子基準点データを利用して元期座標系に整合させました。
これらの実証実験の結果、誤差はCE90:20cm以内(90%以上が半径20cm内に収まる位置精度)となり、高精度な測位が実現可能であることが分かりました。また、今回の手法を使うことで、L6非対応のGNSS機器であっても、後処理で補正することにより、高精度測位による測量が可能となることも検証できました。

インドネシアでも同じ手順で実験し、有効性を検証

実験の仕組み図

点間距離200kmに位置する3つの電子基準点のデータを使用

次にインドネシアでも、事前に国内で行った方法と同じ手順で実証実験を行い、有効性を検証しました。使用したのはインドネシア地理情報庁(BIG)が運営する電子基準点(CORS)4点のデータで、約200km離れた3点の電子基準点データを用いたMADOCAの成果計算を行い、残り1点の電子基準点データを未知点として推計することで真値と比較しました。さらに、約200km離れた3点の電子基準点に囲まれたエリア内にある5カ所の基準点において、MADOCAで直接計測した測位データも算出しました。

地図(電子基準点と計測点の位置)

インドネシア実証実験で使用した電子基準点と計測点の位置

インドネシアでの実証実験ではさまざまな苦労があったそうです。
「評価ユニットが防水ではないため、突然のスコールで中断せざるを得ない場合があり、交通渋滞と合わせて、現地計測には苦労しました。また、事前のテストで計測対象の地上基準点がなくなっていたり、壊れていたりすることが判明したため、実際に実証実験を行う時は、さらに多くの候補点を用意して、予定点が計測できない場合はその近くのオルタナティブ(代替)点を計測するようにしたと聞いています」(翠川氏)

インドネシアでの計測の様子

インドネシアでの計測の様子

インドネシアでの計測の様子

インドネシアでの計測の様子

インドネシアでの計測の様子

みちびきは、インフラや通信網が未整備な国でも有効

実証実験の結果、インドネシアが計画する5,000分の1大縮尺地図の作成に必要な精度である“CE90:25cm”(90%以上が半径25cm内に収まる位置精度)が得られました。より縮尺の大きい1,000分の1地図作製に必要な精度“CE90:9cm”には満たないものの、電子基準点網の密度が低いインドネシアにおいて、MADOCAによる高精度測位補強サービスが測量手段として有効であると分かりました。

「“CE90:25cm”の精度が得られると確認できたことで、一緒に作業したBIGのスタッフもみちびきの高精度測位に大いに手応えを感じていました。BIGは現在、欧米から入手した高解像度の衛星画像をもとに大縮尺地図を作成しようと取り組んでいる最中で、そこで使用する標定点の測量にMADOCAを使えば高精度な地図を作成できると期待しており、今回の結果はそこに大きな道すじを付けることができたと思います」(翠川氏)

新井氏

新井氏

一方で新井氏は、今後の課題として、MADOCAに適用できる衛星数がまだ少なく上空視界が悪い場合は安定的な高精度測位が困難であること、みちびきがインドネシアの電子基準点で受信されていないこと、インドネシアの電子基準点データに民間利用者が容易にアクセスできていないこと、そして対応受信機の導入コストなどを挙げています。

「みちびきはインドネシアやフィリピンなど測位インフラや通信網が未整備な国においては、通信コストなどがかからない有用な宇宙測位インフラとして期待されています。ただ、残念ながら、みちびきやMADOCAに対する有用性の理解や認知度はまだ低いのが現状です。今回の実証は、みちびきの技術を海外に浸透させるために、まずは切り口を開くための一助になったと思います」(新井氏)

同社は今後も引き続き、インドネシアでのみちびきを利用した高精度な測量事業の構築を進めていく方針で、東南アジア全体への展開も目指しています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文中の画像・図版提供:国際航業株式会社