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雪氷対策にGNSS技術を活用するNEXCO東日本の試み

2018年03月09日

みちびきを活用したロータリー除雪車に代表されるように、NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)はこれまで、雪氷対策の現場ニーズにGNSS関連の技術シーズを組み合わせ、さまざまなシステムを開発してきました。その背景や狙いについて、NEXCO東日本・北海道支社の小松正宏氏(技術部 技術企画課 課長代理)に話を伺いました。

小松氏画像

NEXCO東日本の小松氏

GPS車両位置管理システムを改良

NEXCO東日本がいち早く実用化したGPS利用のシステムは、同社の新潟支社が開発した「GPS車両位置管理システム」です。ロータリー除雪車などに代表される雪氷機械の効率的な運行管理のため、GPSを使って位置情報を取得し、タッチパネル式の車載端末で作業の内容を入力すると、それらの情報が道路管理用無線を介して管理事務所のサーバーに送られます。北海道支社では、GPS車両位置管理システムを改良し、除雪作業などの情報を道路情報板と連動し自動表示されるシステムを導入しました。

GPS車両位置管理システムのしくみ

「どの区間でどのような雪氷作業が行われているかを表示するには、以前は管理事務所から管制センターに連絡し、その内容を人力で入力、道路情報板に表示させていました。ところが、実際の雪氷作業は同時期に広範囲で行われるので、管制センターへの連絡が集中することがあり大きな負担になっているという事情もありました。煩雑さを避けるには、広いエリアで『除雪車作業中』と表示すればいい訳ですが、これですと関係ない場所に余計な情報を知らせることになってしまいます。一連の操作を自動化することで、利用者の利便性向上にもつながる『より細かい区間でピンポイントの情報掲出』ができるようになりました」(小松氏)

凍結防止剤最適自動散布システムを導入

北海道ならではのニーズに応えるシステムも実用化されています。北海道支社では2012年より、凍結防止剤(塩化ナトリウム)の散布を最適化するシステム「凍結防止剤最適自動散布システム(ISCOS=Intelligent Salting Control Optimization System)」の開発を進め、現在は実用化にメドをつけて北海道全域への配備を進めています。
「タイヤ内蔵のセンサーで路面状況を把握するというブリヂストンの技術と、位置情報を把握するという技術をシーズとし、これらを組み合わせることで適切な場所に適切な量だけ凍結防止剤を自動で散布できるため、オペレーターの負担軽減にもなっています」(小松氏)

ブリヂストンが開発したCAIS

ブリヂストンが開発したCAIS

ブリヂストンの技術は“CAIS(Contact Area Information Sensing=カイズ)”
と呼ばれ、車両の中で唯一路面と接触するタイヤの内部に、加速度センサーや無線通信機器、小型発電装置などを配置し、その情報を無線で車載機器に伝えるものです。いわばクルマに“触覚”を与えるセンサーであり、タイヤの接地面に加わる加速度のパターンにより乾いた路面/濡れた路面/凍った路面を高い精度で判別することができます。加速度センサーからの情報なので、目視による判断が困難な状況でも路面状態を判別できます。

「秋口や春先など雪の残る時期には、日中の融雪水が夕方の気温低下で凍結して、ただ濡れているだけのように見える薄い氷“ブラックアイスバーン”が生じることがあります。こうした状況はたいへん危険なので、それを避けるため、氷点を下げる凍結防止剤を使用してきました。この凍結防止剤は、乾いている路面に撒いてもムダになります。また、撒きすぎると構造物や車両に悪影響を与えます。ただ撒けばいいというのでなく、湿潤/半湿潤の路面状態を見極め、その場所にだけ効果的に散布したいという切実なニーズがありました」(小松氏)
こうしたニーズに即して開発された凍結防止剤最適自動散布システムは、次のようなものです。

凍結防止剤最適自動散布システムのしくみ
  1.  右フロントタイヤ内にCAISを装備した雪氷巡回車から、路面状態と車両の位置情報を送信
  2. この情報をリアルタイムでデータベース化し、散布路線を100m刻みで決定
  3. 散布が必要な延長距離から、凍結防止剤の量を算出して積み込み出動
  4. データベースと散布車のGPS機器を連動させ、散布ON/OFFを自動制御

これにより散布量の最適化が実現し、北海道支社では凍結防止剤の使用量を導入前の1~2割も減らすことができたといいます。安全性を保ったまま大きなコスト削減が達成され、全道配備も来シーズンまでに達成する予定とのこと。

除雪車運転支援システムの開発に挑む

これらシステムの成功を踏まえ、さらに高いハードルに挑んだのが除雪車運転支援システムです。ニーズは切実なものでした。
「除雪作業は過酷です。路面状態や視界が悪い中、設備や機器を壊さずにしっかり除雪するには、非常に高い技能が求められます。技能が必要というのは、育成に時間がかかるということでもあり、人口減少局面では働き手の不足が避けられません。しかし私たちは絶対命題として道路の安全を確保しなければなりません」(小松氏)
この部分を機械の力で補うため、センチメータ級の精度が可能となる高精度測位技術と、精密地図を活用した除雪車運転支援システムの開発が、2013年から始まりました。

除雪車運転支援システムのしくみ

「車両位置の把握だけなら数mの精度があれば十分機能はしていましたが、センチメータ級の測位精度が可能になるなら、これまでになかった新たな用途が広がります。私たちも初体験の領域でしたが、幸い北海道大学の野口伸先生と共同開発ができ、農業用トラクターの自動運転の技術を導入、SPAC(一般財団法人衛星測位利用推進センター)を通じて機器を借りて、テストを重ねることができました。野口先生の力添えがなかったら実現しなかったと思いますし、みちびきがまだ初号機しか上がっていない時期のテストでしたから、仰角が高い時間帯を狙うとなるとテスト走行が真夜中という時期もありましたが、何とかメドが立ちました」(小松氏)

2月5日に岩見沢IC内で行われた公開実演

2月5日に岩見沢IC内で行われた公開実演

開発を終え、今年1月にまずロータリー除雪車を1台、車両基地に配備。2月5日には岩見沢IC内で除雪の公開実演を行いました。当日担当した経験14年の除雪車オペレーターの真鍋賢一氏はシステムの開発に関わったテストドライバーであり、実際の除雪現場の厳しさや、この技術の有用性について誰よりも承知している人物。その真鍋氏は、このシステムの能力を「経験値10年分に相当」と評価しています。

「高速道路の安全と、それを維持するオペレーターの負担軽減にも役立つシステムを目指し開発してきましたが、実際に現場を知るオペレーターから率直な感想もあり、成功の確証が得られました。今後は現場での実証と共に、より広範囲での高精度地図の整備を進め、カバーエリアを広げて行きたいと思っています」(小松氏)

取材・文/喜多充成(科学技術ライター)

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※ヘッダ画像は、イメージです。本文中の図版提供:東日本高速道路株式会社

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