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広島工大・菅教授が目指す、CLASを活用した機械除雪支援システム

2021年02月22日

雪国に住む人たちの暮らしを日々守り続けている除雪車。そのオペレーターの作業には熟練の技術が必要であり、少子高齢化の中、新たな人材を確保するのは容易ではありません。この人材不足の課題を解決するために、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用した機械除雪支援システムの開発に取り組んでいるのが、広島工業大学 環境学部 地球環境学科の菅 雄三教授です。

菅教授

広島工大の菅教授

CLASを利用してプラウとグレーダーを自動制御

菅教授は2017年に、CLASを活用した機械除雪支援システム(試行システム)の開発に成功しました。このシステムは、まずCLASによる高精度位置情報と車載写真レーザ測量で取得した「精密3次元道路施設情報」をもとに路面上の構造物を除雪トラックが認識します。それを高速リアルタイム2次元及び3次元同時動画としてガイダンスモニターに表示し、構造物に近づくと警告音を発することでオペレーターの作業を支援するというものでした。
以後、これをさらに進化させ、除雪プラウ、グレーダーと呼ばれる排雪板の自動制御に取り組み、2020年9月に東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)新潟支社、同年10月には一般社団法人日本建設機械施工協会(JCMA)中国支部との共同実験に成功しました。

リアルタイム機械除雪支援システム

リアルタイム機械除雪支援システム(画像提供:広島工業大学 菅雄三研究室)

この実験では、CLASで取得した車両の位置情報と「精密3次元道路施設情報」を組み合わせることで、時速10kmのスピードでテストフィールドを走行しながら、橋梁ジョイントやマンホールなどの構造物を自動的に避けてプラウやグレーダーを昇降させることが可能だと確認できました。
プラウやグレーダーの自動昇降試験に成功したのは国内初であり、新潟の実験では、除雪車に同乗したプロのオペレーターがプラウやグレーダーの動きを確認しながら、「これは良い。助かります」とコメントしてくれたそうです。

山間部の高速道路ではCLASが有効

(画像提供:東日本高速道路株式会社 新潟支社)

このシステムではCLAS対応受信機に三菱電機株式会社のAQLOCを使用しています。測位にCLASを使う理由を、菅教授は次のように説明します。
「プラウやグレーダーの正確な操作には、除雪車両自体を精密に三次元データ化した上で昇降位置をセンチメートル単位で確定することが必要です。それにはCLASやネットワーク型RTK(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)などの高精度測位が欠かせません。AQLOCはネットワーク型RTK測位にも対応していますが、山間部を走る高速道路では携帯電話網の電波が途切れるエリアがあり、ネットワークがつながらない事態を考慮してCLASを利用することにしました」(菅教授)

NEXCO東日本 新潟支社との共同実験

NEXCO東日本 新潟支社との共同実験。プラウが自動的に昇降する様子、赤丸内が受信アンテナ(2020年9月8日、画像提供:東日本高速道路株式会社 新潟支社、広島工業大学 菅雄三研究室)

菅教授は、プラウやグレーダーの昇降試験とは別に、高速道路の走行車線を時速50kmで走行しながらCLASとネットワーク型RTKの測位精度を比較検証しています。双方の精度の差異は5cm以内であり、CLASの精度でプラウやグレーダーを十分制御できると確認できました。
CLASに残る課題は、トンネル内では衛星の信号を受信できないため、トンネルを出た直後、再収束までの間に位置情報の精度が低下する場合があることです。このシステムでは車載写真レーザ測量による精密3次元道路施設情報や、慣性航法装置(INS)と組み合わせて補正を行うことで問題解決を図っていますが、今後、ファームウェアのアップデートなどにより、受信機の更なる精度向上と再収束時間の短縮化が期待されるところです。

JCMAとの共同実験

JCMAとの共同実験。赤丸内が受信アンテナ(2020年10月17日、画像提供:一般社団法人日本建設機械施工協会 中国支部、広島工業大学 菅雄三研究室、実験協力:国土交通省中国地方整備局三次河川国道事務所)

みちびきの高精度測位は“暮らしの安全保障”

CLASは除雪車の測位だけでなく、「精密3次元道路施設情報」を作る際に行う車載写真レーザ測量でも利用しています。菅教授は除雪支援のための「ワンストップサービス(一体型サービス)」構築を目指しており、精密3次元道路施設情報のデータを作成し、それをリアルタイムに測位した位置情報と組み合わせてマシンコントロールを行うまでの一貫したサービスの提供を目標にしています。
それを実現する上での大きな課題が、除雪車のメーカーによって油圧系や駆動部などの仕組みや挙動の特性が異なることです。まずはシステムの基幹を構築した上でメーカーごと、除雪車ごとに、その特性に合わせた微調整を行う必要があります。

菅教授がNEXCO東日本 新潟支社と日本建設機械施工協会(JCMA)中国支部という、同じ機械除雪支援システムの2つのプロジェクトに並行して取り組んでいる理由はここにあります。
「機械除雪支援システムは公共性が高く、研究だけで終わらせず、かならず事業化しないといけないと考えています。それには開発した技術をオープンにした上で、技術を支える仕組みを構築する必要があります。実現には各メーカーや研究者、運用者などが個別に取り組むだけでは難しく、皆が一丸となって新しい仕組みを作り上げたいと思っています」(菅教授)

(画像提供:東日本高速道路株式会社 新潟支社、広島工業大学 菅雄三研究室)

2020年秋の実験は乾燥路でしたが、2021年度はNEXCO東日本 新潟支社と共同で雪道での実証実験を行います。マシンコントロールのシステムはあと1~2年で完成させる予定で、その先には除雪機の完全自動化も視野に入れて取り組んでいく方針です。
「現在、除雪の現場は人員不足に悩み、切羽詰まっています。いずれあらゆる除雪車にCLAS対応受信機システムが載る時代が来るでしょうし、そうしなければ除雪の事業は立ちゆかなくなります。みちびきはその基幹技術の一つであり、まさに“暮らしの安全保障”と言えるものです」(菅教授)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

※記事中の画像提供:東日本高速道路株式会社 新潟支社、一般社団法人日本建設機械施工協会 中国支部、広島工業大学 菅雄三研究室

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