コンテンツです

[実証2022-3] TOKYO MX:地上デジタル放送波を活用した避難者情報伝達手段の実証実験

2023年08月21日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、首都圏を放送対象地域として地上デジタルテレビ放送を行う東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(TOKYO MX)が2022年度に実施した「地上デジタル放送波を活用した避難者情報伝達手段の実証実験」を紹介します。この実証事業を行った同社編成局 局次長で総合戦略部長を兼任する服部弘之氏に話を聞きました。

Q-ANPIとデータ放送の連携で避難者情報を配信

災害時には電話回線やモバイル回線が集中して混み合い、繋がりにくくなったり、通信の途絶でインターネットを使った情報収集が困難になります。その一方で、地上デジタル放送は独自経路で配信するため災害時に途切れづらく通信障害が起こるリスクは低いのですが、同時大多数に向けて一斉に同報する仕組みであり、安否確認などの個人的な情報を扱うにはあまり適していません。
そこでTOKYO MXは、みちびきのQ-ANPI(衛星安否確認サービス)を活用して、地上デジタル放送のデータ放送により「どの避難所に自分の家族が避難しているか」といった情報を各世帯のテレビへ届けることができないかと考えました。
Q-ANPIのシステムと地上デジタル放送を連携させて、災害時にテレビへ向けた家族の避難情報を配信し、インターネットに接続されていないテレビでも安否状況を確認できるようにするのです。
「これまでのテレビは、記者が取材してそれを報道番組で伝えるだけでしたが、Q-ANPIを利用すれば安否情報を伝えるシステムを構築でき、災害時に地域へ貢献できると考えたのです」(服部氏)

仕組み図

避難者情報をデータ放送でテレビ配信

Q-ANPIで取得したデータを放送用に変換する

今回の実証では、避難所のQ-ANPI端末に登録した避難者情報を、データ放送の一部である1Mbpsの帯域を利用してテレビに配信し、視聴者がテレビを使って安否確認を行えるかを検証しました(原理検証)。また、TOKYO MXの放送エリアである東京都での利用を想定し、1,500万人分の避難者情報データを既存の放送設備を使って配信した場合、一般家庭で使われているテレビで正常に受けられるかを確認しました(実用性検証)。

検証内容の説明図

実証での検証内容

避難者情報を取得して配信するまでの流れは、次のとおりです。まず避難所において、避難者がTOKYO MXの公式アプリ「エムキャス」を使って、携帯電話番号をもとにQRコードを生成します。これを設置されたQ-ANPI端末のパソコンのカメラで読み取り、避難者の氏名や安否情報を登録します。

登録方法の図解

生成したQRコードを使ってパソコンに避難者情報を登録

Q-ANPI端末を使って避難者情報をみちびきに送信し、衛星経由で地上局のQ-ANPIサーバーへ送信されます。TOKYO MXはQ-ANPIサーバーに避難者情報を照会し、そこから取得したデータをクラウド上の変換用サーバーでフォーマット変換し、東京スカイツリーの地上デジタルテレビ放送送信所へ送出し、データ放送として配信します。

システム構成図

システム構成図

情報処理時のPC画面

Q-ANPIサーバーに情報が到着し(左)、データ放送向けにフォーマットを変換する画面(右)

PCなどの機器

データ放送として送出

「インターネット上のデータ通信と、地デジのデータ放送による配信では技術の分野が異なります。データのやりとりの方法も違い、大量データを受け取った家庭用のテレビがきちんと正常に動くかも検証する必要があります。特にデータファイルを送り出す時に、どれくらいの大きさに分割し、どれくらいの間隔で送信するかを決めるのには苦労しました」(服部氏)

検索画面

テレビを使って避難者情報を検索可能に

TOKYO MXの社内で行った原理的な動作検証(2022年11月15日)では、Q-ANPIサーバーに1~3人分の避難者情報を照会したところ、サーバーから回答を得るのに3~4分、そこからデータ放送を配信してテレビに表示されるまで合計5分程度で避難者情報を表示できることを確認しました。

1,500万人の避難者情報を47分30秒で受信

2023年1月19日には、TOKYO MXの社内で実用性を検証しました。クラウド上に仮想Q-ANPIサーバーをテストサーバーとして設置し、同じくクラウド上にデータ変換用サーバーを設置しました。仮想Q-ANPIサーバーから避難者情報を取得し、変換用サーバーでデータ放送向けのフォーマットに変換した上で、社内に設置した送出装置を使って、複数の検証用テレビで避難者情報が正常に受信されるかを確認しました。その結果、1つのデータファイル内に約9万3千人分の情報を入れて、1分ごとに4つずつ、つまり1分間に約38万人の情報を配信することで、どのテレビでも正常にデータを受け取れることを確認できました。

配信の仕組み

1分ごとに4つのファイルを配信

なお、配信した1,500万人の中に特定の3人(はは、ちち、じいちゃん)の情報を入れ込み、それぞれどれくらいの時間でテレビに結果が表示されるかを計測したところ、Q-ANPIサーバーにリクエストを出してから、それぞれ5分46秒、25分37秒、47分35秒後に表示されました(テレビ自体の性能差により、表示するまでの時間に差が生じています)。これにより、サーバーに避難者情報を問い合わせた時点から1,500万件すべての避難者情報を受信し終えるまでに約47分30秒を要することが分かりました。
「理論値では45分で終わるはずでしたが、実際には2分30秒ほど長くかかりました。もう少し速度を速くすることも考えましたが、速くすると受信できないテレビがあったため、この速度に落ち着きました。1,500万人のデータをこれくらいの時間で送れるのなら、実用的に十分使えると思います」(服部氏)

計測画面

特定の3人が表示されるまでの時間を計測

江戸川区役所の屋上にQ-ANPI端末を設置

区役所の建物

江戸川区役所

2023年2月7日、防災訓練にあわせて江戸川区役所の屋上にQ-ANPI端末を設置し、実際にみちびきに避難者情報のデータを送信した上でQ-ANPIサーバーに避難者情報を照会し、放送波経由で区役所内に設置したテレビに避難者情報を表示するデモを行いました。

Q-ANPI端末

屋上に設置したQ-ANPI端末

デモに参加した人に感想を聞いたところ、「テレビ画面に家族の安否情報が出るのは利便性が高い」と好評価を得られた一方、「平時から使っていないと緊急時に使えない」「お年寄りには操作や登録方法などの説明が必要」といった課題を指摘する意見も寄せられました。

デモ参加者

デモに参加した人たち

避難場所がデータ放送経由でテレビに表示

また、データ放送ではいったんデータを受信し始めると、全データを受信し終えるまでチャンネルを変えられないという制約があり、今後の課題です。インターネットが使える場合はスマートフォンアプリでも避難者情報を同時に受信できるようにしたり、インターネットが使えない時には、防災行政無線の戸別受信機へ地上波デジタル放送を使ってデータを送信する技術を活用したりするなど、データ放送以外での情報配信も検討しています。

同社は今後、データ変換用サーバーのパフォーマンス改善や、「エムキャス」アプリの防災向け機能の拡充などに取り組みながら、避難訓練での活用なども含め、実運用に向けた各自治体への働きかけを行っていく方針です。データ放送による避難者情報の配信サービスについては、2024年度のサービスインを目指しています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:東京メトロポリタンテレビジョン株式会社

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

関連記事