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[2020実証-1] 東光鉄工のCLAS対応ドローンによる肥料散布

2021年08月02日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回から何回かに分けて、2020年度の実施事業を事業者ごとに紹介していきます。
第1回目は、秋田県大館市を拠点に各種鋼構造物の設計製作や建築鉄骨、機械装置、ドローン設計製作など幅広い事業を展開する東光鉄工株式会社を取り上げます。みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)対応受信機を搭載した農業用ドローンによる肥料散布の実証実験について、同社UAV事業部のシニアマネージャー鳥潟與明氏に聞きました。

東光鉄工の鳥潟氏

東光鉄工の鳥潟氏

ドローンによる肥料散布でCLASとRTKの精度を比較検証

スマート農業の実現に貢献する農業用ドローン。空から肥料や農薬を自動散布する上で欠かせないのが、高精度な衛星測位技術です。東光鉄工はUAV事業において、オリジナルの農業用ドローンや災害救助用ドローンの設計・製造を展開しており、同社の農業用ドローンはすべて農林水産航空協会の認定機として認められた散布性能を備えています。ホバリング中に回転しながら散布したり、左右に首を振るように機体を動かしながら散布したりする同社独自の機能も搭載しています。

東光鉄工の農業用ドローン

東光鉄工の農業用ドローン

スマート農業(精密農業)においてドローンによる農薬・肥料などの散布を行う場合、他の圃場へのドリフト(漂流)を防ぐ必要があり、高精度な衛星測位技術が必要となります。農林水産航空協会では、自動航行実施時の飛行精度100cm以内を目標として定めていますが、東光鉄工は独自に50cm以内というさらに厳しい目標を掲げています。

スマート農業におけるドローンには高精度な飛行性能が求められるため、これまで衛星測位はRTK方式(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)が採用されるケースがほとんどでした。ただ、RTK方式には、現地に基準局を設置した上で圃場の区画ごとに測量を行う必要があるなどの課題があります。
これに対して東光鉄工は、基準局の設置が不要なみちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を利用することで、簡易基準局設置のための精密測量を簡便化でき、時間とコストの削減が可能となると考えました。そこで今回、CLAS対応受信機を搭載したドローンを使ってRTK方式のドローンと同様の精密散布を行い、両者の精度を比較する実証実験を行うことになりました。

RTK方式と同等の飛行性能を発揮

実証実験には、東光鉄工の農業用ドローン「TSV-AH2」の上部天板に、CLASに対応した三菱電機のGNSS受信機「AQLOC Light」を設置した機体を使用しました。

ドローンにAQLOC Lightを搭載

ドローンにAQLOC Lightを搭載

「設置当初はアンテナの位置が悪いせいか正常に受信できなかったのですが、取り付け位置を変更したところ、正常な受信ができるようになりました」(鳥潟氏)
鳥潟氏は、さらなる工夫として、GNSSアンテナのノイズ対策のためにアンテナ基板にアルミ板を敷設しました。30cm四方の大きなアルミ板を使った場合との比較を行った上で、最終的にはドローンの機体の形に合わせて加工したアルミ板をアンテナの下に敷くことで良好な受信環境を実現しました。

アンテナの下にアルミ板を敷設

アンテナの下にアルミ板を敷設

実験では、設定した地点にドローンを自動航行で移動させて、設定した地点に正しく移動できるかどうか、設定した地点にホバリングで静止状態を保てるかといった点について、RTK方式で測位を行うドローンと比較しました。さらに実験中はビデオ撮影も行って、直線上をずれることなく飛行できるかを目視で確認しました。比較に使用したRTK対応ドローンは、DJI社のドローン用ネットワークRTK測位サービス「D-RTK」で、事前に精密測量を行って基準局を設置した上で実験を行いました。

直進性の検証

直進性の検証

実証実験は昨年10月と12月に実施

実証実験は当初、昨年(2020年)10月に大潟村にて実施しましたが、この時は飛行ルートポイントの測量結果を元期(地殻変動による位置変化を反映していない測位結果)から今期(観測を行った時点の測位結果)に変換しないままドローンの飛行計画に使用したため、CLAS測位結果を使用した実際の飛行経路(今期)と飛行計画の経路(元期)に、ズレが発生してしまいました。そのため同年12月、改めて同社の雪沢飛行場で再実験を行いました。

CLASでの直進飛行性能比較(今期補正前と補正後)

CLASでの直進飛行性能比較(今期補正前と補正後)

2度目の実験は、測量結果を元期から今期に変換した上で実施し、飛行精度は直線上の前進時の左右で誤差30~50cm、上下誤差は40~50cm、ホバリング時の精度は10cm程度という結果となりました。
「実験の結果、高精度飛行においてCLASはRTK方式と同等の飛行性能を発揮できることが分かりました。RTK方式のドローンをCLAS方式に置き換えることで1カ所につき約6万円かかる基地局の設置や、各圃場につき10万円程度かかる事前の圃場測量が不要となり、コスト削減はもちろんですが、作業時間の短縮についても期待できます」(鳥潟氏)

風力発電の点検や災害支援への活用も検討

実証実験の様子

実証実験の様子

同社は今後もCLAS対応の農業用ドローンの開発を進めていく予定で、できるだけ早い実用化を目指しています。一方、鳥潟氏はCLAS対応の農業用ドローンが普及するための課題として、受信機の価格を挙げます。
「今回使用したAQLOC Lightは車載向け製品のため、ケーブルが長すぎるなどの使いづらい点があり、ドローンへの搭載を前提とした価格の安い受信機が発売されることを期待します。農家が使う上での簡便さはCLASのほうがRTKに比べて格段に上ですから、スマート農業の分野では市場性がかなり見込めます」(鳥潟氏)

鳥潟氏は、CLAS対応ドローンに対してさまざまな可能性を感じています。
「秋田県で行っている洋上風力発電の定期点検に使えるのではないかと思います。風車のブレードに近づいて補修箇所を確認する作業を無人化できれば、大きな省力化につながります。また、災害支援用ドローンを使って被災地へピンポイントに物資を届ける場合、測位が高精度であるほど有利なので、そうした場面でもCLASが有効です。今後、CLAS対応のドローンの開発を進めるためにも、みちびきの7機体制には大きく期待しています」(鳥潟氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

※ヘッダ及び本文中の画像・図版提供:東光鉄工株式会社