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[実証2020-4] コア中四国カンパニー、みちびきを活用した石灰石の採掘支援

2021年08月30日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。
今回は、2020年度みちびきを利用した実証事業として、株式会社コア 中四国カンパニー、及び日本キャタピラー合同会社、秋芳鉱業株式会社、地方独立行政法人山口県産業技術センターの4者が実施した石灰石の採掘支援システムの実証実験を紹介します。石灰石採掘工程の品質・操業・路面管理においてみちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)及びサブメータ級測位補強システム(SLAS)を活用したシステムであり、日本無線株式会社や住友大阪セメント株式会社の協力を得て、住友セメント秋芳鉱山(山口県美祢市)で行いました。
その概要をコア中四国カンパニーの板屋真一郎氏(営業統括部 営業企画主査)と、山口県産業技術センターの藤本正克氏(企業支援部 電子応用グループ グループリーダー)、秋芳鉱業 生産部 採鉱課の大谷祐介課長、岩下直樹氏に聞きました。

左から板屋氏、藤本氏、大谷氏、岩下氏

左からコアの板屋氏、山口県産業技術センターの藤本氏、秋芳鉱業の大谷氏、岩下氏

石灰石の採掘に関する課題を高精度測位で解決

石灰石は、国内で自給できる数少ない天然資源として全国約200カ所以上の鉱山で採掘されています。その多くは露天採掘である階段採掘(ベンチカット)法を採用しており、地表から高さ約5~15mの階段(ベンチ)状に掘り下げていきます。
作業では、階段の高さに合わせて掘った直径約10~20cmの発破孔(穴)に爆薬を装填して発破(爆破)を行います(通常は1回に10~20孔を発破)。発破で起砕された石灰石はホイールローダー(車輪で走行するトラクターショベル)や油圧ショベルによってダンプトラックに積み込まれ、立坑(鉛直方向に掘削した坑道)まで運搬されて投入されます。

石灰石の採掘作業

石灰石の採掘作業

石灰石は、セメントの主原料となるほか、コンクリート用骨材、鉄鋼、化学、製紙などさまざまな分野の副原料として利用されており、高品質な市場ニーズに対応するため、原石採掘工程から品質管理が行われています。原石の積み込み運搬作業においてもオペレーターが作業ごとに記録していますが、原石の峻別記録の精度を向上させるため高精度位置情報を用いた、記録作業の自動省力化が求められています。

また、今回、実証実験を行った住友セメント秋芳鉱山では、発破孔の穿孔(せんこう、穴あけ作業)で発生した繰り粉(石灰石の粉末)のサンプル収集位置を測位して、その成分を分析して品位マップを作成しています。このサンプル収集は数mの間隔で穿孔する発破孔で行われるため、サンプル位置の測位にはセンチメータ級の高い精度が求められます。現在は、RTK測量機(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)にて測位を実施していますが、機器が高額であるという課題があります。

さらに、鉱山では岩盤の表面を原石運搬経路としており、通行を繰り返す中で大きな凹凸などの起伏が生じ、燃料消費量や作業効率、安全に悪影響が発生します。そのため、オペレーターの目視情報をもとに運搬経路の走路修復を要する箇所を判断して修復しますが、その箇所の特定にも効率化が必要です。

実証では重機にみちびき対応受信機/アンテナを搭載

穿孔位置の測位実証を実施した5カ所

鉱山内の計5カ所で穿孔位置の測位実証を実施

実証実験では、みちびきのSLAS、CLAS、MADCAを使用した高精度測位と重機(ホイールローダー、ダンプトラック)からの情報、発破孔の成分分析結果などを組み合わせて、課題解決について検証しました。実証したのは、歩行による穿孔位置の計測と、積み込み位置/運搬・投入位置の計測で、受信機はCLAS対応のセプテントリオ「AsteRx-U」3台、MADOCA対応のコア「Chronosphere-L6」1台、SLAS対応のコア「QZNEO」3台の計7台(RTK用基準局には「AsteRx-U」を使用)、車両はホイールローダー1台、ダンプトラック3台を使用しました。穿孔位置測位調査では、Androidタブレットを使って各受信機からの位置情報を収集しました。

実証機器と、実証実験の様子
実証方法

穿孔位置測位調査は、現在RTK測位にて実施している穿孔位置測位が、みちびきによる測位で代替可能であることを示し、RTK測位に必要な受信機が高額であるという課題を解決するための調査です。石灰石のサンプル試料収集時の穿孔位置測位計測を歩行で実施し、精度を検証しました。鉱山内の5つのエリアで測位し、各エリアにつき10ポイント(5ポイント×2ライン)ずつ、6m間隔(歩測8歩)で位置情報を取得しました。

実験の結果、CLASではRTKの結果と比べて4~12cm程度の誤差となり、実運用として使用可能であることが確認できました。また、MADOCAはCLASと同様の測位精度が得られたものの、収束に30分ほどかかるため、自動車で移動しながら計測を行うため実運用は難しいという結論になりました。一方、SLASについてはRTKの結果から1m以内に収まった日と、誤差が大きくなる日があり、測定日により結果が変わってしまいました。

「鉱山内では残壁から5mほど離れれば、問題なく高精度で測位可能だと確認できました。精度の面では、穿孔位置の測位にはCLASを使うほうがいいと思われます」(コア・板屋氏)

CLASのほか、SLASの精度でも操業管理を実施可能

RTK用基準局(左)と移動局(右)

AsteRx-Uを使用したRTK用の基準局(左)、自動車の屋根にGNSSアンテナを取り付けた移動局(右)

積み込み位置/運搬・投入位置の計測は、操業記録時のオペレーター負荷低減、記録精度向上を目的とした、システム開発実現可否判断のための実証です。鉱山内で各アンテナと受信機をホイールローダー1台、ダンプトラック3台に分散して搭載し、積込・運搬・投入作業の位置情報を収集すると共に、運搬量・時間・燃料などの重機情報を収集して関連付けを行いました。実験の結果、鉱山内ではFIX率が100%と良好で、積込・運搬・投入に関する重機位置の計測は、CLASはもちろん、SLASの精度でも操業管理を実施可能と確認できました。

重機の移動軌跡

重機の移動軌跡(緑線:ダンプトラックと赤線:ホイールローダー)と積込位置(赤丸)

積込位置は、高精度測位によって得られた車両の軌跡をもとに推測して計測できました。今回はホイールローダーに受信機とアンテナを2台ずつ取り付けてバケットの方向などを検知しましたが、実用化の際はコスト面や取り付け位置の制約から受信機とアンテナをそれぞれ1台にするため、今後は運転席の位置情報からバケット位置を推定する技術を開発する必要があります。

ホイールローダー

アンテナを2台搭載することでバケットの位置を算出

また、路面管理に関して、今回の実証ではダンプトラックの移動軌跡から路面の悪い場所を避けている形跡は見受けられず、修復が必要な路面を位置情報から特定するには至りませんでした。今後は、ダンプトラックのサスペンション圧情報から路面の起伏状態を捉え、それを位置情報に組み合せる方式について検証を進めたいと考えています。

採掘業界用の測量キットや操業管理システムを発売予定

コア 中四国カンパニーは現在、みちびきの高精度測位を活用した採掘業界用の測量キットを開発しています。CLAS対応受信機、アンテナ、バッテリー、三脚、専用アプリケーションなどがセットになった可搬型のキットで、RTK測量機の半額以下の金額を目指しています(今年秋頃に発売予定)。発売後は、現在RTKで行っている作業を、みちびきのCLASを使った測量キットのシステムに置き換えていく予定です。

また、重機位置情報を活用した石灰石採掘工程の操業管理には、作業効率化のため、積み込み位置の自動判別や運搬結果の自動集計を行う必要があり、システム化が必須です。それには重機メーカーとの協業が重要で、コアは日本キャタピラーと連携して開発を進める方針です。重機のテレマティクスデータと、みちびきの高精度測位を活用した石灰石採掘操業管理システムは、来年春頃のリリースを目指しています。

「日本キャタピラーの重機には、路面状況を検知する機能などがすでに搭載されており、それを位置情報と組み合わせることで、路面管理や重機メンテナンス時期の特定などに役立てていこうと考えています」(コア・板屋氏)

最後に、みちびきへの今後の期待について聞きました。

「住友大阪セメントには他に鉱山が7カ所あり、そこにも水平展開できると思います。受信機の低価格化に期待しています」(秋芳鉱業・大谷氏)

「操業管理・品質管理には、採掘実績の管理が重要なポイントとなります。みちびき対応受信機を多くの重機に搭載することで、高い位置精度で採掘実績管理ができるようになることを期待しています」(秋芳鉱業・岩下氏)

「今回のような事例が増えて、県内企業への利用拡大や新産業創出につながればいいと考えています。それにはみちびきの知名度向上や機器の低価格化が必要であり、利用実証の公募事業もぜひ続けていただきたいです」(山口県産業技術センター・藤本氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

※ヘッダ及び本文中の画像・図版提供:株式会社コア 中四国カンパニー、日本キャタピラー合同会社、秋芳鉱業株式会社、地方独立行政法人山口県産業技術センター

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