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豊田通商などが豪州でみちびきを活用した自動運転車の実証を実施

2019年09月30日

オーストラリアでは貨物輸送の40%弱が陸路に依存する一方で、ドライバーの高齢化や、それに伴う長距離ドライバーの人員不足が進んでいます。加えて、交通事故の80~90%が運転手の違反や不注意などの人為ミスを原因としており、過酷な労働環境下におけるドライバーのヒューマンエラーによる事故の抑制が求められています。
こうした課題を解決するため、トヨタグループの総合商社である豊田通商株式会社は、三菱電機株式会社、ダイナミックマップ基盤株式会社、グローバル測位株式会社(GPAS)、マゼランシステムズジャパン株式会社、株式会社日本総合研究所、慶應義塾大学の5社1大学、そして豊田通商のグループ企業である豪TT Logistics社、TOYOTA TSUSHO NEXTY ELECTRONICS タイ法人の2社と協力して、みちびきを活用した自動運転車の実証実験をオーストラリアで行いました。

豊田通商の大場氏

豊田通商の大場氏

今回のプロジェクトを担当した豊田通商株式会社の大場貴之氏(化学品・エレクトロニクス本部 ネクストモビリティエレクトロニクス事業部 コネクティッドグループ 主任)に、実証実験の詳しい状況を伺いました。
※この事業は、経済産業省が公募した「平成30年度 衛星データ統合活用実証事業」の1つとして採択され、2018年7月~翌19年2月にかけて実施されました。

MADOCAの高精度測位で自動運転を制御

今回の実証実験では、トヨタ自動車株式会社のエスティマハイブリッド(2009年式)をベースに、慶應義塾大学の大前研究室の技術で改造した車体を採用しました。PCから、ハンドル角やアクセルペダルストローク、ブレーキペダルストローク、ギアシフト、ウィンカーなどを制御できるように改造されています。
車体上部には、LiDAR(レーザーレーダー)、衛星測位用アンテナが、車内にはみちびきに対応した高精度の測位受信機が搭載されており、車体前部にはミリ波レーダーを搭載しています。大前研究室の自動運転車は、通常はRTK-GPS対応受信機を使用しますが、今回はマゼランシステムズジャパン株式会社が提供する、みちびきのL6/L6E信号に対応した受信機をメインに使用しました。実証が海外で行われたので、みちびきが提供し日本国内で使用されているセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)ではなく、L6E信号を使った実験信号「MADOCA」によるセンチメータ級の精密単独測位(PPP)を利用しました。

実験に使用した車体(画像提供:豊田通商株式会社)

実験に使用した車体(画像提供:豊田通商株式会社)

衛星測位用アンテナは、車体上部の前方と後方に2m間隔で2台設置し、それぞれのアンテナについてMADOCAを活用した高精度測位による位置情報を算出しました。同時に、評価基準となるRTK-GNSS対応受信機も併用し、RTK測位で算出された位置情報を、MADOCAによる高精度測位で得られた位置情報を評価するリファレンスとして活用しました。

システム構成(画像提供:豊田通商株式会社)

システム構成(画像提供:豊田通商株式会社)

自車位置を把握する手法は、「MADOCAによる高精度測位」と、「LiDARで取得した周辺構造物の位置情報と、事前に取得した高精度3次元地図(HDマップ)上にインプットされている構造物の位置情報をスキャンマッチングさせる方法」の2種類を採用しました。メインは衛星測位ですが、自動運転車の走行中に測位が不安定になり、測位精度の誤差が0.2m以上となった場合は、LiDAR情報のスキャンマッチングによる補正に切り替えました。
さらに精度が劣化した場合は、車速などのデータをもとにデッドレコニング(自律航法)を行って自車位置を特定しました。なお、HDマップのデータは、三菱電機が提供するMMS(モービルマッピングシステム)に事前に同じコースを走行させてデータを取得し、それをもとにダイナミックマップ基盤が生成したものを使用しました。

このほか、今回は自動運転車から車両の位置情報や状態情報、自動運転にかかわるデータを取り込んでリアルタイムにデータベースの更新およびデータの蓄積を行う統合管制システムも、TOYOTA TSUSHO NEXTY ELECTRONICSタイ法人によって開発が行われました。同システムでは、取得したデータの監視・分析を行った上で、必要に応じてアラートの発令を行う機能も搭載しています。

メルボルン郊外の道路で1.5kmの距離を自動運転で走行

2018年12月に行われた現地のフィールドテストでは、ヴィクトリア州メルボルン郊外の道路を実証コースとして、約1.5kmの距離を折り返し走行しました。コース中には右左折路やT字路が存在し、折り返し地点がラウンドアバウト(環状交差点)になっています。道路脇には背の高い建物は一切なく、ほぼオープンスカイの状態で、歩行者もほとんどいませんでした。なお、今回の実証で使用する自動運転車の技術に、オーストラリアの信号機や信号標識の認識機能が含まれていないため、信号が存在しないコースとなっています。

大場氏は、実証の場として豪州を選んだ理由について、「オーストラリアは主要な都市が沿岸部に集中していて、その都市と都市の間の数百・数千キロの距離をトラックドライバーが運転しています。そこを自動化することによって安全面・コスト面を削減できるということで、『物流を自動化したい』というニーズがとても高く、そのような環境下でこの実証を行うことに意義があると考えました」と語りました。

実証コース(豊田通商株式会社の提供資料をもとに作図)

実証コース(豊田通商株式会社の提供資料をもとに作図)

自動運転車はスタート地点から自動的に発進し、あらかじめ設定した走行ルートに沿って車線を維持しながら自動で走行しました。ミリ波レーダーで前方障害物を把握し、車間距離を調整します。交差点やT字路の右左折では、LiDARが交差道路に車両を検出すると、車両が通過するまで停止し、通過後に自動的に再スタートします。

なお、ミリ波レーダーやLiDARが走行ルート上に障害物を検知すると自動的に停止します。一定の左右幅での回避が可能な場合は、徐行運転で回避します。今回の実証では運転席にドライバーが搭乗し、危険を察知するとドライバーがハンドルやブレーキ操作を行って自動運転モードを停止させ、運転操作の権限をドライバーへ移譲する「オーバーライド」を行うことで、安全を図りました。今回、ラウンドアバウトで混雑した場合などに一部オーバーライドを行いました。

実験14回のうち11回で誤差0.2m以下の精度を達成

車内の様子(画像提供:豊田通商株式会社)

車内の様子(画像提供:豊田通商株式会社)

実証の結果、MADOCAによる測位精度が、LiDARのスキャンマッチングに切り替わるしきい値である誤差0.2m以下の精度を達成したのは、全14回の実験中で11回、前方と後方のアンテナ間の距離の実距離(2m)との差について、誤差が0.3m以下の精度を確保できたのは、全14回中12回という結果でした。
測位精度の悪化が原因で自動運転モードを停止させ、運転操作の権限をドライバーへ移譲する「オーバーライド」が発生したのは全体の7%で、総走行時間中に占める高精度測位による位置情報の採用率は、全14回中13回は100%を達成し、残りの1回は、LiDARやデッドレコニングによるマッチングを採用した比率が0.05%でした。
統合管理システムの評価では、スピード制限を故意に逸脱させた時のアラート発令と、実証コースから故意に逸脱させた時のアラート発令の2件を確認したところ、アラートの通知先であるタブレットやスマートフォンの管理画面に問題なく通知されていました。

この結果について大場氏は、MADOCAによる測位は精度が数cmに収束するまで約30~50分かかり、スタートする時に30分間のアイドリング時間が必要となる点を前提とした上で、「十分な測位精度を確保できた点が大きな成果で、実際の自動運転車の挙動も、RTK測位とほぼ同じ走行を実現できた」とその高精度測位を評価しました。
また、天頂付近にある場合が多いみちびきですが、「南半球のオーストラリアでは仰角が下がるタイミングがあり、木や建物の陰に隠れた時に信号が途切れることもありました」(大場氏)といいます。

みちびきの軌道と実証を行ったメルボルンの位置

みちびきの軌道と実証を行ったメルボルンの位置

まずは産業機械への適用を進めたい

今回の実証で得られた成果について大場氏は、「公道での自動運転システムの実現には技術面、法令面でまださまざまな課題があり、まずは建機やAGV(無人搬送車)、ドローンなど産業機械の自動運転システムに適用できないかを検討しています。産業機械であればクローズドなエリアで使われることが多く、衛星測位の活用に有効なオープンスカイの環境を確保しやすく、規制や法令面でも公道に比べて難易度が低いためです」と、短期的には産業機械への適用を考えていると語ります。
一方、長期的には、公道向けの自動運転システムにも取り組んでいく方針です。「当社は自動車メーカーに部品やシステムを供給するサプライヤーに向けて、今回のような高精度測位に関する技術を提供する、というビジネスモデルになると思います」(大場氏)

豊田通商の大場氏

豊田通商の大場氏

また、大場氏はみちびきへの期待について、「LiDARやミリ波レーダー、カメラなどによるスキャンマッチングが相対測位であるのに対して、みちびきを活用すれば絶対位置を得られます。周囲に特徴的な地物が少ない場所においても高精度な自車位置特定でき、そうした環境に適用していきたいと思います」と話してくれました。

同社は今回のプロジェクトに参加したマゼランシステムズジャパンとGPASに出資しており、この2社と強固な関係を築きながらプロジェクトを進めました。今後はグループ会社の企業とも連携しながら、みちびきの高精度測位を活用した産業機械向けの自動運転システムの開発に取り組みたいと考えています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

※ヘッダ及び本文中の実証実験画像提供:豊田通商株式会社

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