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CLAS活用の測量支援システムが、国交省のNETISに登録

2020年10月05日

みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を活用した測量支援システム「Civil Surveyor QZSS」がこのほど、国土交通省の新技術情報提供システムNETISに登録されました。NETISとは、国交省が建設・土木工事等に関する新技術の情報共有のために運用する公開データベースのこと。登録技術の採用にはインセンティブも設定されており、公共工事などにおいて新技術の活用検討事務を効率化したり、活用リスクを軽減することで、有用な新技術の積極的な活用を推進するしくみです。

申請から8カ月かけてようやく登録へ

株式会社創美でCivil Surveyor QZSSを開発した伊藤良和氏は、現在は独立して合同会社JPSを立ち上げ、その代表を務めます。今回申請したのは、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)信号を携帯端末で受信し、ソフトウェア処理で平面直角座標に変換して地上や沿岸域での測量に利用するというもので、従来のトータルステーションによる計測の代替となる技術です。伊藤氏は、過去に関わった開発案件でもNETISに登録した経験があり、今回も自身で申請を行い、約8カ月を経てようやく登録にこぎつけました。

JPSの伊藤氏

JPSの伊藤氏

「最初に登録の相談に行った時、精度を訊ねられて、水平が35mmで高さ50~60mmぐらいと答えたら、それなら巻き尺でよくないですかと言われ、まったく話を聞いてもらえませんでした」(伊藤氏)
最初は相手にされなかったが、何回か書類を直して説明に通ううち、担当者が他の部署の人から、災害時や緊急時に携帯回線が使えずRTK測位(固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)ができなくても、みちびきの測位ならセンチメートル単位で位置が分かり、使いどころがあるのではとの情報を聞き、システムへの理解を深めてくれたので、そこからはスムーズに手続きが進んだそうです。

「NETISに登録された新技術は、公共工事等の入札の際などに加点として申請できる項目も設定され、運用の実績を重ねるとそのポイントが積み上がる仕組みです。登録できたことで、これまでシステムに目を向けてくれなかった顧客の方も、使ってみたい、デモを見たいと前向きに利用を検討してくれるようになりました。登録をきっかけに採用に結びついたというケースも出ています」(伊藤氏)

関東方面の顧客も多く東京に出張することが多かった伊藤氏は、今年に入って加古川市(兵庫県)から都下の東村山市に拠点を移し、本格的に測量関係の仕事に取り組み始めました。

精度を保ちつつ、ワンマン運用を実現

Civil Surveyor QZSSは、愛知・岐阜・三重の3県にまたがる国定公園木曽三川公園で、総面積242ヘクタールの公園等の緑地の現況計測に使用されています。

草刈りを行うフィールドの求積のための測量

草刈りをするフィールドの求積のための測量。衛星を使えば広い場所でも精度が低下しない

「建設現場では、たとえば500m角を超える広い敷地の場合、トータルステーションの測量では数センチ(約20~30mm)の精度管理が難しい。また、河川や港湾工事では陸地から100mぐらい離れると、振動があるなどの条件が加わり、RTKでは現場に無線の設備を全部置かないと精度を維持できない状況になってしまいます」(伊藤氏)

造園の世界では、道路に縁石を置く作業ならミリメートル単位の精度が必要だが、縁石を置くために地面を掘り返す作業の精度管理ならセンチメートル単位で十分といった使い分けがあります。そうした局面では、作業内容によって、衛星測位を使うことで精度を維持したままコストを下げられます。
また、従来の光波測定などの方式だと、測定のたびに機器を設置し直す作業が必要でした。このシステムを使えば、高精度測位がFIXした状態であれば、ひと筆描きのように移動しながら自動的に座標をスマホに採り込むことができます。機器を設置し直すために複数の人員が必要だった従来方式に比べ、みちびきの補強情報を活用した十分な精度で、完全なワンマン運用を実現できる点が、このシステムの一番の利点です。

現場を案内して実際の作業を見せてくれた測量士の安田忠史氏(トータルマスターズ株式会社 常務取締役 名古屋支店長)は、広大なフィールドならではのメリットとして、精度に加えてコスト面を挙げます。
「衛星経由の補強情報を使うので、地上の基地局などを使う場合に比べてランニングコストが不要。完全なワンマン運用が可能なので、その人件費削減も含めればコストメリットが大きい訳です」(安田氏)

安田氏

現場で説明してくれた安田氏

機材費や人件費を計算すると、月に2日稼働すれば月間のレンタル料のもとが取れるケースもあるほどです。精度も、実際のフィールドに出ればみちびきのCLASによる測位精度で十分過ぎるという用途も多く、安田氏は「現場が分かっている人なら、従来方法と衛星測位の使い分けを上手くできる」と解説します。

今後は海外での利用も検討中

このシステムに使われているマゼランシステムズジャパン製のGNSS受信機は、みちびきのCLASに加え、海外でも利用できる補強信号MADOCAに対応しており、みちびきが見えるアジア一帯なら追加負担なしで高精度測位を利用できます。

JPSの伊藤氏

JPSの伊藤氏

伊藤氏によれば、海外の大規模工事ではRTKの基地局を設置し、補強情報を配信する無線ネットワークも整備した上で工事に着手するケースも多いが、その際に無償の補強信号を使って、衛星受信機だけでセンチメートルオーダーの精度が出せるのは大きな強みだといいます。
「まずは土地勘のあるミャンマーでシステムを検証し、一定の精度が得られることを確認しました。以前、現地で協業していた日系企業なども関心を示してくれています」(伊藤氏)

システムを構成する受信機、スマホ、アンテナ

システムは受信機(左下)、スマホ(左上)、ポール頂部に付けるアンテナ(右)で構成

受信機は、熱によるトラブルを避けるため当初開発したものから外装を改修し、ボディを白色に変え、アルミニウム製の放熱フィンを加えるなどの対策を施しました。その成果もあり夏の酷暑を無事に乗りきれたそうです。システムが今後どのように普及していくのか、その利用事例にも注目したいと思います。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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