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豊橋鬼祭に、みちびきのSLASを活用したアプリ「おにどこ」登場

2020年04月27日

衛星測位とスマートフォンを組み合わせた事例として、祭礼で神輿(みこし)や山車(だし)の位置をアプリで確認できるサービスが各地で提供されています。このような祭りにおける位置情報の配信において、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)を活用する動きが始まっています。

豊橋鬼祭の様子

豊橋鬼祭の様子(画像提供:おにどこ実行委員会)

鬼や天狗の付き添い役がGNSSトラッカーを携帯

豊橋技術科学大学のユビキタスシステム研究室(大村研究室)と建築設計情報学研究室(水谷研究室)、そして株式会社ウェブインパクトの三者で構成される「おにどこ実行委員会」は、愛知県豊橋市内にある安久美神戸神明社の例祭として毎年2月に開催される「豊橋鬼祭」において、街を練り歩く“赤鬼”や“天狗”などの居場所を地図上で確認できるアプリ「おにどこ」を、2018年から提供しています。

境外へ出て、街を練り歩く天狗

境外へ出て、街を練り歩く天狗(画像提供:おにどこ実行委員会)

2日間にわたる祭礼の中で、広く一般に知られているのが「天狗と赤鬼のからかい」です。荒ぶる神である赤鬼と天狗が闘い、敗れた赤鬼が償いにタンキリ飴や白い粉をまきながら境外へ去ります。赤鬼や天狗は氏子各町を巡り、延べ9kmという広い範囲を約9時間かけて練り歩きます。移動経路は年ごとに変わるため、その御利益に預かりたい見物客は、神役が今どこにいるのかをリアルタイムで知る必要があります。

スマホで鬼神の位置を調べる参加者や来場客

(画像提供:おにどこ実行委員会)

リリース当初はWebアプリとして提供された「おにどこ」は、2019年にネイティブアプリが完成し、最新の2020年版では、ネイティブアプリ上で3D表示も可能となりました。このアプリを使うことで、鬼祭の来場者は、神役が街中のどこにいるかを地図上で瞬時に把握することができます。

ネイティブアプリの画面。最新版では3D表示も可能に(右端)(画像提供:おにどこ実行委員会)

測位条件さえ整えば、以前より精度は高い

「おにどこ」の2018年版と2019年版では、赤鬼と天狗にオリジナルの位置情報発信アプリをインストールしたスマートフォンを装着していましたが、2020年版では単体のGNSSトラッカーを使用し、高精度な位置情報を取得して地図上に表示しました。

フォルテの「FB2003」

フォルテの「FB2003」

このトラッカーは、みちびきのサブメータ級測位補強サービスに対応した株式会社フォルテの「FB2003」です。衛星測位で取得した高精度な位置情報をLTE回線でクラウドへ送信できます。なお、今回のプロジェクト実施に当たっては、豊橋市を拠点にGIS(地理情報システム)を提供する株式会社マップクエストもトラッカーの位置情報を中継するIoTシステムで協力しています。

ウェブインパクトの取締役を務める同社豊橋技術開発部の木村博司部長は、高精度測位に対応したトラッカーを導入した理由を、「新規性のあるSLAS(サブメータ級測位補強サービス)でどの程度の精度が得られるかという技術的関心から採用を決めました」と説明します。豊橋鬼祭では、鬼や天狗が民家へ立ち寄り、規定ルートから外れることがあるため、道路に合わせて位置を補正するマップマッチングは行わず、衛星測位で取得した位置をそのまま地図上に表示します。

「機器を立ち上げて位置情報を取得するまでにやや時間を要しましたが、以前よりも精度は高いと思いました」(木村部長)

通りを歩く赤鬼

通りを歩く赤鬼(画像提供:おにどこ実行委員会)

豊橋鬼祭では、鬼が民家や商店に立ち寄って厄除けを行う“門寄り(かどより)”が行われます。この門寄りが行われるチェックポイントを鬼や天狗が通過する時に、ポイントへの侵入と通過の判定をジオフェンス(仮想的な境界線で囲まれたエリア)で機械判定し、アプリ利用者が確認できるようにしました。

アプリ利用者や赤鬼・天狗の行動トラッキングを可視化

アプリ利用者(青色)や赤鬼(赤色)・天狗(橙色)の行動トラッキングを可視化した

なお、今回の実証実験では、サービスの利用に関する匿名の情報を収集しました。収集したデータをもとに赤鬼や武者天狗、アプリユーザーの位置を地図上に可視化するなど、さまざまな研究を行って、豊橋鬼祭の円滑な運営に還元されるように取り組んでいく方針です。さらに、成果を研究発表やオープンデータとして公開し、これによって今後の街の活性化につながる活動を目指しています。

地域住民を巻き込んでアプリ開発のイベントを開催

「おにどこ」の開発に当たっては、地域の住民や学生などもアプリの開発に関われるように、市内を歩きながら地域の魅力を発見し、インターネット百科事典の“Wikipedia(ウィキペディア)”や、自由でオープンな地図を市民の手で作るプロジェクト“OpenStreetMap(オープンストリートマップ)”などに情報を公開する「おにどこデータソン」が2019年12月14日に行われました。

これは、市民の力でテクノロジーによる地域課題の解決を目指す“Civic Tech(シビックテック)”のコミュニティである「Code for MIKAWA」の主催によもので、こうした取り組みが評価され、オープンデータの活用コンテスト「アーバンデータチャレンジ2019」(主催:社会基盤情報流通推進協議会、公益社団法人土木学会、東京大学生産技術研究所、東京大学空間情報科学研究センター)にて銅賞を獲得しました。

社務所に設置した大型ディスプレイ

社務所に設置した大型ディスプレイ(画像提供:おにどこ実行委員会)

「おにどこ」プロジェクトにシビックテックが関わることで、行政や地元企業、学生、市民などさまざまな団体が組織を超えて協力してオープンイノベーションが生まれ、その中でみちびきのサブメータ級測位補強サービスも大きな役割を果たしました。
ウェブインパクトの木村部長はみちびきについて、「今後、7機体制に向けて衛星が追加されること、新たな対応端末が登場することで、より気軽に高精度の測位ができるようになるのではないでしょうか」と期待感を示しています。

祭りにおける位置情報の案内に、いち早くみちびきの高精度測位を導入した「おにどこ」プロジェクトは、クラウドファンディングで活動資金の支援を募りつつ、市民の力を使って来年以降も続けて取り組んでいく方針です。

おにどこ実行委員会のスタッフ

おにどこ実行委員会のスタッフ(画像提供:おにどこ実行委員会)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文画像提供:おにどこ実行委員会、株式会社フォルテ(受信機画像)

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