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[実証2021-6] Ashirase:CLAS、SLASを用いた視覚障がい者及び車いす利用者向け介助サービス事業

2022年11月28日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、株式会社Ashiraseが2021年度に行った実証事業「衛星測位補強サービスCLAS、SLASを用いた視覚障がい者及び車いす利用者向け介助サービス事業」を紹介します。
Ashiraseは、2021年4月に本田技研工業株式会社(Honda)の新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」から生まれたベンチャー企業であり、実証事業では、同社が開発を進めているシューズ装着型の歩行ナビゲーションサービス「あしらせ」にみちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)を組み合わせた実証実験を行うと共に、並行してCLAS(センチメータ級測位補強サービス)の測位精度検証も行いました。この詳細を、Ashiraseの千野歩代表に聞きました。

千野代表

千野代表

足に付けた振動デバイスで安全な歩行を支援

「あしらせ」は視覚障がい者の単独歩行を支援する独自のナビゲーションシステムで、靴の左右に取り付けるウェアラブルデバイスとスマートフォンアプリで構成されています。ウェアラブルデバイスは、足の6カ所の部位で振動を発生させる6つの振動モータを内蔵したバンドで、バンド部をシューズ内に取り付けし、靴の甲部にモーションセンサーや電子コンパス、振動制御、スマートフォンとの通信機能などを内蔵した小型デバイスを装着してバンドと接続します。

あしらせの振動デバイス

あしらせの振動デバイス

あしらせを取り付けた靴

あしらせを靴に取り付けた状態(左・右)、取り付けの様子(中央)

足に装着したデバイスと、専用アプリをインストールしたスマートフォンはBLE(Bluetooth Low Energy)で接続されます。シューズ内の振動モータがさまざまなパターンで振動することにより、前進・停止や右折・左折などの案内を指示します。たとえば前進の場合はつま先が、左折の場合は左側のつま先が、停止の場合は6つすべてが振動します。バンドは足の周囲を取り囲むように装着するため、足裏の感覚には影響を与えず、点字ブロックの認識を邪魔することもありません。

説明図

スマートフォンとBLEで接続

説明図

あしらせのシステム概要

説明図

振動パターン

実証事業では、あしらせに接続したスマートフォンと、株式会社コアのSLAS対応GNSS受信機「Cohac∞QZNEO」をWi-Fiで接続することにより、ナビゲーション時にみちびきのSLASの高精度測位を利用して現在地を把握する実験を行いました。被験者はバッグの中にCohac∞QZNEOを入れて、肩の上などにケーブル接続したアンテナを置いて測位を行いました。

受信機

Cohac∞QZNEO

取り付けた画像

アンテナをバッグやリュックサックに取り付け

「視覚障がい者を正確にナビゲーションするには、測位精度が高ければ高いほど良いので、一般的なGPSよりも測位精度の高いSLASを採用しました」(千野代表)
なお、実証実験では、あしらせを装着した被験者とは別に、CLASや、みちびきを活用した位置情報補正配信サービス「CLARCS」、VRS(ネットワーク型RTKサービス)などの高精度測位の検証も同時に行いました。

検証風景

センチメータ級測位の検証も並行して実施

SLASで被験者の位置情報を取得

実証実験は東京都と大分県の2カ所で行いました。東京の実証は、2022年2月にスマホアプリ「袖縁(そでえん)」を提供する株式会社袖縁と連携して行いました。袖縁は、ショッピングセンターや駅などを訪れた人が介助を必要な場合に依頼通知を送信し、通知を受け取った店員や駅員、商店街の協力店などがスムーズに介助できるようにサポートするアプリです。

東京実証の様子

東京実証の様子

実証は、東京都墨田区の地下鉄錦糸町駅からマルイ錦糸町店5階「ミライロハウス」にかけてのルートと、江東区の地下鉄清澄白河駅から高橋のらくろード商店街までのルートで行いました。2名の視覚障がい者が被験者となってあしらせを靴に装着して歩き、目的地近くで袖縁のアプリを使って介助をリクエストして、店員役のスタッフが迎えに来るという流れで実験しました。

介助サポートの様子

袖縁のアプリを使うことでスムーズな介助をサポート

その結果、あしらせのシステム及び袖縁のアプリが正常に動作することを確認できました。
「屋根の下などピンポイントで見ると誤差が大きくなることもありましたが、スマートフォン単独の測位結果に比べるとSLASの測位精度はかなり良かったです」(千野代表)

SLASの測位精度

SLASの測位精度は、単独測位に比べ大きな優位性があった

東京での測位結果

東京での測位結果

ただ、商店街アーケードの下など、上空が遮られるような場所では大きく誤差が発生する場合も一部で見られました。千野代表は、マルチパス(直接届く電波と、ビルや山などに反射して届く電波が混ざって受信される状態) が発生した場合や、商店街アーケードの下など上空が遮られて衛星電波が入りづらい場所でも安定した測位を行えるよう、衛星測位だけでなくPDR(Pedestrian Dead Reckoning=歩行者自律航法)などで補完する機能が受信機に搭載されることを期待している、と話しています。

CLASを利用した車椅子介助システム

大分駅近くの広場

実証実験を行った大分駅近くの広場

一方、大分県での実証では、株式会社minsoraほか数社と連携して「別府みちびきバリア・フリープロジェクト・コンソーシアム」を立ち上げ、2022年1月にあしらせの動作実験と、並行して車椅子ユーザー向け介助システム「B-SOS」の検証も行いました。

システム構成図

大分実証のシステム構成

システム構成図

大分実証のシステム構成

あしらせの動作確認

あしらせの動作確認

B-SOSは車椅子ユーザーが屋外移動中に何らかの障害に遭遇した際にSOS通知を発信し、近くにいる介助者にSOS発呼があった旨を通知することで支援可能な介助者を探すシステムです。SOS通知には車椅子の位置情報が含まれ、実証ではその測位にみちびきが活用されました。

アプリ画面

B-SOSのアプリ画面

SOS通知を受理した周辺介助者はサーバーに自分が支援可能である旨送信し、サーバーは複数の支援可能な信号を受けた場合は、車椅子利用者からもっとも近い位置にいる介助者の申し出を自動選択して、車椅子利用者に介助者が見つかったと送信します。この申し出に対して、車椅子ユーザーが支援してほしい内容を返信すると、サーバー経由で周辺介助者に届けられます。
周辺介助者は車椅子の位置情報をもとに現場へ駆けつけて、支援を行います。なお、支援依頼が発生するとサーバーから指定介助者(介護施設や病院など)にも自動転送されるため、車椅子ユーザーの支援内容が周辺介助者の手にあまる状況の場合は、指定介助者による支援も可能となります。

実証事業は、大分市内の大分駅南の広場付近にて車椅子が移動中に脱輪したという事態を想定して行い、アプリが正常に動作することを確認しました。

実証の様子

アプリを操作してSOS通知を発信(左)、介助者が現場に駆けつけて救助する(右)

センチメータ級測位の精度検証は、三菱電機株式会社の受信機「AQLOC Light」を使用したCLAS測位に加えて、単独測位やCLARCS、VRSなど、複数台の車椅子にさまざまな測位システムに対応したGNSS受信機を搭載して比較検証しました。千野代表によると、「CLASはFIX率がとても高く、測位精度もかなり良い結果となりました」とのことです。

比較実験

センチメータ級測位の比較実験

説明図

大分地区ではCLAS、CLARCS、VRS受信機を搭載して相対的に評価し、CLAS受信機は、CLARCSに比べQZSSを測位に使用している分だけFIX率が高いが、L6が受信できない屋根のある環境下では単独測位になってしまい改善が必要だと分かった

大分での測位結果

大分での測位結果

あしらせは2022年度中に発売予定

あしらせは2022年度中の発売を目指しています。千野代表は今後の課題として、駅前広場などにおける視覚障がい者向けの歩行経路を自動的に生成するアルゴリズムの構築や、振動デバイスの小型化及び取り付けの簡便化などを挙げています。連携して実験を行った袖縁やB-SOSなどの障がい者向け支援サービスも、それぞれの事業者が実用化を目指して開発を進めており、Ashiraseもこれらのサービスとの連携を継続的に模索していく方針です。

SLASは今回の実証事業において「十分な精度を確認できた」(千野代表)と好評価ですが、一方で実際にあしらせのサービスにSLASを組み込むには、チップセットやアンテナの足元デバイスへの取り込みが必要であり、足元で信号を受信した場合の測位精度の低下などが課題となっています。そのため、まずはスマートフォンの衛星測位だけで成り立つプロダクトとして発売し、受信機やアンテナの市場監視を行いながら、課題が解決できたタイミングでSLASを適用し、対象ユーザーを広げていく戦略を検討しています。

その先にはCLASの適用も視野に入れて取り組んでいます。
「現状のCLASは受信機やアンテナのサイズが課題となっており、基板やアンテナのさらなる小型化に期待します。小型化が進めば、視覚障がい者が持つ白杖に受信機とアンテナを内蔵した円筒型のアタッチメントを装着するといったやり方も考えられます。受信機メーカーとも連携しながら研究開発を進めていきます」(千野代表)

例えば「少し右に数歩移動してから曲がる」といった詳細な誘導情報を実現するにはSLASの精度では足りず、あしらせに高精度測位を適用する場合、いずれはセンチメータ級の精度にする必要があると千野代表は感じており、そのための研究開発を続けていく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:株式会社Ashirase

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