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福岡のキャニコムがCLASを活用した自動運転草刈り機を開発中

2020年07月20日

農林業用運搬車などを手がけるキャニコム(本社・福岡県うきは市)は、国立大学法人電気通信大学の田中一男研究室(情報理工学研究科 知能機械工学専攻)の協力を得て、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用した自動運転草刈機の開発に取り組んでいます。そして今年5月、福岡空港敷地内で行った自動運転草刈機の実証実験の概要を発表しました。今回は、この自動運転草刈機の開発の背景や福岡空港での実証実験について、キャニコム営業推進部の高倉知温部長、先端技術開発室の酒井志有斗氏、山下達也氏の三氏に話を聞きました。

顔写真

左から高倉氏、酒井氏、山下氏

効率アップとコストダウンを常に求められる

草刈機には、エンジン式で操縦席が付いた本格的なものから、自走歩行式や、本体を肩ひもで吊るなど保持した状態でシャフト先端の刈刃を左右に振りながら草を刈る刈払(かりはらい)式、さらに簡易なバリカン式など、用途や目的に応じさまざまな種類が存在します。そんな中、高い草刈り能力を求められる現場で活躍するのが、乗用タイプの草刈機です。乗用式の草刈機は、1台で刈払機の7~10台分、つまり7~10人分の仕事をこなす能力があり、果樹園の下草刈りや、河川敷の除草、グラウンドやゴルフ場の整備など多くの現場で使われています。

草刈機まさお

草刈機まさお

高倉氏は、ヒット商品となった乗用四輪駆動雑草刈機「まさお」について、こう説明します。

「そもそも草刈りはそれ自体が利益を生む仕事ではなく、常に効率アップとコストダウンが求められる作業です。この“草刈機まさお”も運転する方の視点で動作や作業性を根本から研究し、最適なデザイン・機能を取り入れました。その結果、草刈りの時間短縮はもちろん、これまで対応が難しかった傾斜に対しても四輪駆動の採用で登坂能力25度を実現、、ドライブシャフト採用による高い刈高さによる障害物回避など、独自のメリットが生まれました」(高倉氏)

“草刈機まさお”は発売当初、数々のデザイン賞を受賞したほか、その後、歳月を経て、利用者から乗用式草刈機の代名詞と受け止めてもらえるようになったといいます。

「最近、別デザインの新型まさおシリーズを発表したら、お客様に『コラ、まさおのマネしやがって!』と叱られたこともあるぐらいです(笑)」(高倉氏)

みちびきを使うことで自律走行の精度を向上

乗用式で大幅な効率アップを実現したとはいえ、炎天下での運転は依然として過酷な作業であり、自動運転による負担軽減は当然の開発テーマでした。

「みちびきの高精度測位を知る以前から、GNSSを草刈機の自動運転に使用して開発していましたが、GNSSの誤差が常に出てしまうので制御精度向上については試行してもなかなか開発効率を上げることができませんでした」(酒井氏)

草刈機のルート設定では、刈残しが出ないよう往路と復路の刈幅を部分的に重ね合わせる「オーバーラップ」処理が必要で、当初はその量を20%程度にする必要がありました。

1000mm(1m)の刈幅で20%をオーバーラップして一往復すると、刈り取れる幅は2000mm(2m)ではなく(往復なので)40%減の1600mm(1.6m)となります。取得できる位置情報の精度が上がれば、オーバーラップ量を小さく出来、同じ時間で刈り取る面積を大きく向上できます。

刈幅1000mmで1往復した刈り取りイメージ

刈幅1000mmで1往復した刈り取りイメージ

オーバーラップを加えた実際の刈り取り面積

オーバーラップを加えた実際の刈り取り面積

キャニコムでは、電気通信大学・田中研究室の協力を得て無人航空機(UAV)の飛行制御ソフトウェアをアレンジした、草刈機の自律走行制御ソフトウェアの開発を行っています。山下氏は、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を使用することで位置精度が明らかに向上し、自律走行の精度も向上したと話します。

「刈幅のラップ量を小さくしても刈残しをなくすことができ、効率が大幅にアップしました。開発に携わる私たちも、CLASを使うことで測位が安定し、位置情報は正確で信頼できるという前提で改善に取り組むことができるようになりました」(山下氏)

以前ならテストでふらつきなどの不具合が生じても、測位か、制御か、あるいはハードに原因があるのか、問題箇所を見つけるまでに手間と時間がかかっていましたが、CLAS使用後は、問題箇所の切り分けが容易で、すぐ改善に着手できて助かっているとのことです。

開発した自動運転草刈機(斜め前方から)

開発した自動運転草刈機

開発した自動運転草刈機(斜め後方から)

福岡空港で自動運転草刈機の実証実験

福岡空港内での実証実験の様子

福岡空港内での実証実験の様子

福岡空港敷地内で行った自律走行草刈機を用いた実証実験では、これまでの共同研究の成果を活かして、“草刈機まさお”に、電気通信大学の田中研究室が開発した自律ロボットのモデル構築技術、センサ統合技術、モデルベースド制御技術を搭載し、みちびきの高精度測位を活用して、福岡空港敷地内の指定した範囲を自律走行しました。
走行の安定性、実走時間、そして刈草の飛散状態等を確認した実験結果は良好で、今後も継続して実証実験を重ねる予定といいます。

「自動運転の機械を市場に出す場合、まずは他の人が入り込まない限られたエリア、次に安全管理ができる人の監視の下で、と段階を踏んで市場投入を進めていくべきであると考えています」(高倉氏)
そういう意味でも、空港敷地のような限定された広大なエリアでの実証実験は、実用化に向けた最初の大きな一歩になったといえます。

「芝耕作」(芝刈機)や「山もっとジョージ」(林業用)などユニークなネーミングで知られる同社ですが、みちびき活用の自動運転草刈機がいつ市場投入されるかだけでなく、どう命名されるのかも、とても楽しみです。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文画像提供:キャニコム、国立大学法人電気通信大学

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