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通信途絶下でもメッセージを伝達する「スマホdeリレー」

2019年11月05日

準天頂衛星システムサービス株式会社は防災・減災を対象とした研究機関等に対してQ-ANPI(衛星安否確認サービス)に対応した衛星通信端末(Q-ANPI端末)の貸し出しを行っており、現在も複数の機関でQ-ANPIの利用方法の検証や研究が進められています。株式会社構造計画研究所では、モバイル通信の圏外でもスマホ同士が情報をリレーすることでメッセージを届けようとする「スマホdeリレー」とQ-ANPIの連携について研究を行っています。
この「スマホdeリレー」について、構造計画研究所の佐藤壮氏(執行役、公共企画マーケティング部 部長)、濱田高志氏(通信システム部 部長)、大内夏子氏(通信システム部 通信工学室)の三氏に話を聞きました。

取材時の写真

写真左から佐藤氏、濱田氏、大内氏

グループからグループへ情報をリレー

スマホdeリレーは、スマートフォンがもともと備えているWi-FiやBluetoothの通信手段を使ってスマホ自身が接続相手を見つけ、情報を伝達するものです。動的に構築されるローカルなネットワークが情報の担い手となることで、モバイルネットワークの通信圏外でもメッセージの伝送を可能にしたいと、東北大学大学院工学研究科の加藤寧教授、西山大樹教授と株式会社構造計画研究所が共同研究を行い、開発しています。開発のモチベーションとなったのは東日本大震災の被災経験であり、その後、仙台市内での大規模実証やドローンや車両など移動体を使った実験、さらにはフィリピンでの実証実験で実績を上げています。

佐藤氏は、このネットワークの原理を次のように説明します。
「ある大きさのグループを動的に設定し、グループ内で情報共有と隣接するグループへの伝達を継続することで、メッセージを遠くに伝えていく仕組みです。例えてみれば伝染病です。お兄ちゃんの小学校のクラスで流行したインフルエンザが、妹の通う保育園に、あるいはお母さんの会社に広がっていくようにメッセージをグループ内で共有し、グループ間でリレーしながら広めていくイメージです。もちろん時間はかかりますし、確実でもありませんが、通信インフラが途絶した状況下では頼れる通信手段になります」

高知市では津波防災アプリで運用を開始

情報集約のイメージ

高知市津波SOSアプリによる情報集約のイメージ。トップ画面にはモチーフの伝書鳩が描かれており、市内約300カ所の避難所情報を参照できる(提供:株式会社構造計画研究所)

この仕組みを組み込んだ防災アプリとして、2019年4月から高知市津波SOSアプリの運用が開始されています。高知市では南海トラフ地震による津波防災を大きなテーマとしており、「津波による浸水が長期化し、避難タワーやビルに逃げ込んだ避難者の情報を、通信途絶下でも把握できる仕組み」として、スマホdeリレーの機能を備えた高知市津波SOSアプリを制作しました。避難完了後はボートで周辺を巡回したり、近くのビル間で情報をリレーすることで、点在する避難ビルや避難タワーから避難者情報を収集・集約するという利用シーンが想定されています。

「在宅避難者」の情報を避難所に集約する

さらに2019年6月には高知県総合防災訓練の中で、このスマホdeリレーにみちびきのQ-ANPIを連携させた試作アプリを利用しての実証実験が行われました。
この実験は、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)第2期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」で、国立研究開発法人防災科学技術研究所の臼田裕一郎氏が研究責任者を務めたテーマI「避難・緊急活動支援統合システムの研究開発」のサブテーマ2-1「準天頂衛星とスマートフォンによる情報集約と配信技術の研究開発」として実施されたものです。スマホdeリレーの通信機能にQ-ANPIの情報集約機能を組み合わせた試作アプリを使うことで、避難所における情報収集だけでなく、実際の災害時にも多く存在する「在宅避難者」の情報をスマホを持った係員が巡回収集して集約し、Q-ANPIを使って災害対策本部に伝送するという内容でした。

機内モードに加え「災害モード」を

みちびきの通信回線とスマホdeリレーの相互補完関係(提供:株式会社構造計画研究所)

みちびきの通信回線とスマホdeリレーの相互補完関係(提供:株式会社構造計画研究所)

今後の展開として佐藤氏は、「みちびきのQ-ANPIと相互補完的な役割を果たせます。さらに、インフラに近い部分の仕組みですので、さまざまな通信ネットワークと結びつきながら、頼みの綱として利用していただけるよう機能を充実させていきたい」としています。
みちびきのメッセージ通信サービスであるQ-ANPIは、人工衛星を経由する通信回線であるという特徴を生かし、地上の通信ネットワークが途絶した状況下でも、避難所の位置や開設の情報、避難者数や避難所の状況を通知することで、被災状況や孤立した状況の把握など、救難活動に不可欠な情報を伝えるものです。Q-ANPIは、さまざまなネットワークと結びつくことでさらにその強みを発揮しますが、この「スマホdeリレー」もその一つと言えます。

「どんなに準備をしても通信は途絶します。すべてのスマホが持っている“機内モード”にプラスして“災害モード”という備えがあってもいいのでは...」(濱田氏)
「節電しつつ効率よく通信を行うため、自律的に通信の頻度や出力を調整するようなしくみも備えて行きたいと思います」(大内氏)

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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