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バイオスシステムが開発した「CLAS車間距離計」

2021年01月18日

GNSSを利用した車両計測・評価システムを国内自動車メーカーなどに提供する株式会社バイオスシステムは昨年、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)に対応した「CLAS車間距離計」を開発し、販売を開始しています。走行する複数車両の位置情報の差分から車間距離などを高精度に求め、リアルタイムで確認できる装置です。静岡県湖西市にある同社を訪ねて、代表取締役・社長の山口哲功氏に話を聞きました。

RTK方式をCLAS対応に改良し、基地局なしで計測可能に

距離測定の概要図

距離測定の概要図(提供:株式会社バイオスシステム)

同社のビジネスの中核にあるのは、GNSSを応用して移動体の速度や相対位置を正確に計測記録する技術です。自社で開発した「GNSSを利用した速度計」を、GVS(Global Velocity System)と名付けて知財化しており、自動車や関連機器の開発現場で必要とされる計測システムを国内自動車メーカーのほぼすべてに供給しています。
また、ADAS機器や自動運転支援システムの開発・評価には車間距離の計測が不可欠ですが、従来のカメラやレーダーによる計測では必要な正確さが得られず、基準となる正確な距離の計測方法が求められていました。そこに着目した同社は、GNSSを用いて車間距離を測る方法を開発し、「RTK車間距離計」として製品化したのです。

これまで販売してきた「GVS速度・距離計」などの計測評価システムは、自動車メーカーや自動車部品メーカー、研究機関等のADAS(Advanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)・自動運転システムの開発・評価の場面で、カメラやレーダーなどを使った車載機器の精度を評価する「モノサシ」として広く活用されています。

CLAS車間距離計の仕組み

CLAS車間距離計の仕組み(図版提供:株式会社バイオスシステム)

今回同社のラインナップに加わった「CLAS車間距離計」は、次のような仕組みです。
1)ターゲット車両と計測車両に多周波対応(L1・L2・L5・L6)のGNSSアンテナを装着
2)みちびきCLASに対応したGNSS受信機を使い、それぞれの車両で高精度測位を行う
3)Wi-Fi通信を使って車両間で測位結果を伝送する
4)各アンテナ間の直線距離を、車間距離(進行方向)と横距離に読み替え(直行する2成分のベクトルに分解して)表示する

システム機器は、アンテナ、GNSS受信機とWi-Fi通信アダプタが一体化されたユニットに、制御・表示用のパソコンと有線リモコンが加わる形で、計測車両1台に対し最大4台の車両との車間距離を計測できるものです。

CLAS車間距離計測のシステム構成

CLAS車間距離計測のシステム構成(図版提供:株式会社バイオスシステム)

同社が従来から販売している「RTK車間距離計」は、その名のとおりRTK方式(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)を使っており、近隣に基地局の設置が必要でした。今回発表したCLAS対応の車間距離計は、従来のRTKと実用上変わらない精度を実現しながら基地局を必要としない点で、上位互換のシステムとなります。

同社の山口社長に、開発の経緯を聞きました。
「みちびきの高精度測位には、本格サービスが始まる前から期待していました。走行テストを実施する際の準備作業を大幅に軽減でき、ADAS機器や自動運転システムの開発効率のアップが期待できます。また、基地局からの距離という制約がなくなり、一般道での評価試験も可能となります」(山口氏)

これまでのRTKタイプでは、車両間の相対的な位置関係だけが必要で、その絶対座標はあまり重視されませんでしたが、CLASを使うことで高精度の位置情報、たとえば道路のどのレーンのどちら側を走っていたかまでが記録されるため、活用範囲の拡大も期待できます。

受信状態が変わる中、固定されたアンテナ間距離の変化を評価

同社周辺の山間部から田園地帯にかけての一般道で行った、性能確認のためのデモンストレーション走行に同行しました。

多周波対応のアンテナ2基を車両の天井に装着

まず走行の前に、多周波対応のアンテナ2基を車両の天井に装着し、その位置関係を正確に計測します。これにより、「走行中に受信状態が変わる中で、位置が固定されたアンテナ間距離がどう表示されるか」を評価します。

このような方法をとるには理由があります。そもそも車間距離の“真値”を知るのは容易ではありません。衛星測位を上回る精度でそれを実現するには広大なテストコースや優れたテストドライバーに加え、大がかりな計測システムが必要となります。
このデモ走行ではその替わりに「2つのアンテナの相対的な位置関係を固定し、絶対位置を動かす」という方法で評価を行いました。

ユニット2機を助手席と後部席に積み込む

GNSS受信モジュールとWi-Fi通信用無線アダプタを一体化したユニット2機が、助手席と後部席の間で通信を行います。

持ち込んだノートパソコンで測位状況を確認

車内には操作・表示用のノートパソコンを持ち込みます。基本的な操作(記録開始・停止等)はUSB接続のリモコンで行います。木々に囲まれた場所では捕捉衛星数も少なく、測位もまだ安定しません。

ノートパソコンに2アンテナの位置関係を表示

空が開けた場所では9~10機の衛星を捕捉し、2アンテナの位置関係の表示も安定しています。一方、2アンテナの移動方向が独立に変わる蛇行走行をした場合も、「車間距離」として表示されるアンテナの相対位置のX成分、Y成分とも、小数2位(センチメートルの桁)がわずかに動く程度です。この製品が、車間距離を継続的にセンチ単位の精度で計測できることを示していました。

安田氏と山口社長

開発部の安田勲氏(左)と山口社長(右)

車両が走行すればGNSS信号の受信状態も変化しますが、互いに独立して測位演算を行う2つの受信機間で、アンテナ間の相対位置の表示値が変わらなければ、「両受信機共に絶対位置の取得が継続して正常に行われている」ことになります。上述のデモ走行のようにこのテストをクリアしていれば、異なる車両に設置し2アンテナの絶対位置と相対位置が共に変化するケース(=実際の車間距離計測)でも正しく動作する、と言える訳です。

同社はこの技術を使って、GNSSの時刻信号で同期させた複数カメラからの画像を使い、車両周囲の地物や白線を解析し、センサの評価などを行うGPSカメラシステムも完成させました。

今後、幅広い分野での活用へ

一方で、「車間距離」が社会的にクローズアップされる出来事もありました。昨年6月、道路交通法の一部改正により、「高速道路などで走行中の車両前方に停止したり、著しく接近して他の車の通行を妨害する行為」、いわゆる「あおり運転」に対する罰則が追加されています。
昨年夏に発表されたこの「CLAS車間距離計」の最初のカスタマーは、警察庁科学警察研究所でしたが、その背景には「あおり運転」などの危険行為を、「車間距離の刻々の変化」として数値化する必要性も生じてきたからです。
CLASを活用することで、テストコースなどに限られていた車間距離という物理量の計測を、一般道でも容易に行えるようにしたこのシステムは、ADAS機器や自動運転支援システムの開発・評価に加え、幅広い分野で活用されようとしています。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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