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NECが消防指令システムに災危通報を表示する小型車載器をリリース

2020年02月10日

火災が発生した際、消防車や救急車に対して迅速に目的地へのルートを案内する「消防指令システム」。一刻も早く現場へたどり着き、消火活動を行うために不可欠なシステムであり、全国の消防本部に導入されています。消防・救助活動の現場では、大規模災害が起きるとモバイルインターネット回線や防災行政無線システムなどを通じてさまざまな情報を収集しますが、これらの地上通信システムはいつ何時、途絶しないとも限りません。そうした場合に備えて日本電気株式会社(NEC)はこのほど、同社が提供する消防指令システムとして、みちびきの災害・危機管理通報サービス「災危通報」に対応した小型車載器を開発しました。

L1S対応の小型車載器を消防用車載端末に接続

システム図版

消防車載システム図

NECはAVM(Automatic Vehicle Monitoring:車両運用端末装置)と呼ばれる専用車載端末やタブレット端末を使った消防指令システムを全国各地の消防署に提供しています。その採用数は全国に約700ある消防本部のうち約300件と、4割以上の高いシェアを誇ります。専用車載端末はGNSS受信機を内蔵したディスプレイ一体型で、出動時に地図上で目的地への最適ルートを案内すると共に、車両の位置情報を指令センターへ送信できます。また、指令内容確認や道路障害・水利障害の案内、病院検索などの機能を備え、現地において消火栓の位置や危険物の位置を知らせることも可能です。

AVM

AVM(車両運用端末装置)

小型車載器

L1S対応の小型車載器

今回、同社が追加提供する小型車載器は、AVMやタブレット端末にケーブルで接続し、みちびきのL1S信号に対応したGNSS受信機を搭載しています。これにより、災危通報で配信された災害情報をいち早く表示することができます。同社は2018年夏頃からこの車載器の開発を始めましたが、その辺りの事情をNECの福川政利氏(スマートインフラ事業部 第二システム部 部長)に伺いました。

福川氏

NECの福川氏

「携帯電話やスマートフォンでも緊急地震速報や津波警報などを受信できますが、災害や救急のプロフェッショナルである消防隊員は、さらに幅広く情報収集できたほうがよいと考えています。地震などで携帯電話の基地局が倒壊し、通信網が途絶する事例も実際に起きており、最終的に情報を入手する手段としてみちびきの災危通報は有効です。地上インフラは必ずしも想定通りに動く訳ではなく、多様なパターンを想定して的確に情報を入手する態勢を整えておくべきです。また、災危通報サービスをお客様にご紹介した際に、緊急走行中、消防隊員が災害発生に気がつかない場合もあり、災危通報の利活用によって消防隊員の安心、安全を守るシステムにもなるとのご意見をいただいております」(福川氏)

ナビゲーションを邪魔しない場所に表示

この小型車載器をケーブルでつなぎ、GNSSアンテナを接続した上で、AVMやタブレットのソフトウェアをアップデートすれば災危通報を使用できます。ジャイロセンサーが内蔵され、どんな角度に設置しても正しく測位できるので、設置の自由度は極めて高く、また他社が提供する消防指令システムへも組み込み可能です。

画面例

災危通報の画面例

画面例

井林氏

NECの井林氏

NECの井林悠太氏(スマートインフラ事業部 第二システム部)は、開発に当たって災危通報を表示する画面の位置や大きさを決めるのに苦労しました。
「消防士や救急救命士が業務で利用するので、ナビゲーションの邪魔にならない位置に表示する必要があります。そこで地図の上部にウインドウを表示し、その中の矢印ボタンで詳細を見られるようにしました。地図と自車位置はできるだけ隠さず、あくまでも見たい時に開いてもらいます。これまでは災危通報のような情報の表示を想定してなかったので、画面の上下左右いずれも隠すことができない情報が詰め込まれています。そこを隠さずに災危通報の情報を出すにはどうしたらいいか、検討を重ねてウインドウのサイズを決めました」(井林氏)

「消防士は災害点に行って消火や人命救助の活動を行うことが何より重要です。その業務を邪魔しないことを最優先に考え、社内のデザインチームにも入ってもらい、どんな色合いでどう見せれば現場ですんなり受け入れてもらえるかを検討し、最終的なデザインを決定しました。また今回の小型車載器の開発では、従来製品比でCO2排出量50%削減を達成したことで、環境配慮を求めた社内エコシンボル基準に適合した製品となっております」(福川氏)

災害種別

災害種別の設定

災危通報の受信エリアも、現在地周辺の情報を受け取る設定と全国各地から任意のエリアを指定できる設定を選択できるようにしました。これにより、大きな災害で遠方へ救援に出る場合も、現在地とは異なる都道府県を指定して遠隔地の情報を得ることができます。

さらなる高精度な位置情報にも期待

小型車載器にL1S対応のGNSS受信機を搭載したことでSLAS(サブメータ級測位補強サービス)も利用可能となりました。
「何の補正もしない“生”の位置情報を使って小型車載器の有無による違いを比較すると、山道などでは大きな差が出ます。ただ実際のナビゲーションでは、衛星測位以外にジャイロセンサーや車速パルスなどを組み合わせてマップマッチング(地図上の道路の位置に合わせて位置を補正する処理)を行うため、実際に使って『良くなった』と感じることはほとんどありません。とはいえ、道路形状が複雑な都市部ではマップマッチングが間違って補正されることもあります。将来的にSLASを利用すればマップマッチングを使わずに済み、結果としてマップマッチングのエラーによる道間違いを防げる可能性はあると思います」(井林氏)

同社は現在、次世代のAVM開発にも取り組んでおり、そこでもみちびきの高精度測位の活用を検討しています。
「次のモデルチェンジではAVMに災危通報の機能を標準搭載するだけでなく、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)/MADOCAへの対応も検討しています。実は今回発売するSLAS対応の小型車載器も、消防指令システム以外に、バスやタクシー、スマート街路灯や自動販売機などへの搭載も想定して設計しました。次世代端末も車載だけでなく、山林火災でドローンを自動飛行させて消火するとか、いろいろな場面でCLAS/MADOCAの技術を使ってソリューションを展開できます。災危通報も、たとえば津波や河川氾濫などの警報が出た時にどのエリアがどれくらいの水位か、津波がどこから来るのかといったGIS(地理情報システム)情報と組み合わせて隊員の方に提供することも検討しています」(福川氏)

最後に、福川氏にみちびきへの期待を語っていただきました。
「災危通報は、今は自然災害の情報だけですが、できればテロやミサイルなどの国防関連の情報を加えてほしいと思います。さらに英文の併記も実現してほしいですね。みちびきは日本だけでなくアジアやオセアニアでも受信できるので、そうした国々に端末を設置できれば、モバイルインターネット回線が未整備のエリアでも無料で受信でき、津波などが起きた場合に英語で災害情報を送り、いち早く注意喚起できます。私たちにとってもグローバルにビジネスを展開できますので、そうした機能強化にも期待したいと思います」(福川氏)

井林氏と福川氏

井林氏(左)と福川氏(右)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

※記事中の図版提供:日本電気株式会社

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