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八ケ岳連峰で位置情報取得、茅野市とSSSが共同で実証実験

2017年09月19日

長野県茅野市は2017年8月30日、登山者の位置情報を把握するシステムの実証実験をソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)と共同で実施すると発表しました。

GNSSで無線通信が進化した

衛星測位により位置情報を把握するこのシステムの中心にあるのは、ソニー株式会社及びSSSが開発した新たな無線通信方式です。ジャンルとしては、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる小電力の無線方式で、無線免許不要の920MHz帯を利用するものです。

地図

登山者及び車両による予備実験の結果をプロットした地図

すでにいくつかの事業者が商用サービスを開始していますが、ソニーが独自に開発したこの方式は、GNSSによる高精度な時刻同期・周波数同期などを使うことで、コイン電池駆動による20mWの小出力ながら「100km以上の長距離通信」「時速100km超の移動体との通信」「ノイズの多い都市内での通信」などを可能にするなど高性能を誇ります。

予備実験

八ケ岳の登山ルートで行った予備実験の様子

一方、茅野市は八ケ岳連峰の入口となる都市で、新宿駅から特急列車で約2時間と交通の便がよいため、夏冬を通じ入山者が多く、必然的に初心者も多くなっています。同市地域戦略課は、「八ケ岳連峰では年間約30件の遭難が発生し、このうち約5名死者が出ている状態です。登山者の位置情報を常に把握できれば、万一の際にもいち早く救助が可能となるほか、救助隊の安全性も向上します」とシステムに期待を寄せています。

サイドポケット

受信機はサイドポケットに十分入る大きさ

周囲に高い建物のない市役所の屋上は、南北約25kmにわたる八ケ岳の縦走路を西側から、直線距離約20km前後で見渡せる好立地。同市とSSSは今年4月と6月に予備実験を行い、庁舎内に設置した1基のアンテナで、徒歩による山岳ルートや、自動車による市街地ルートのほぼすべてで位置情報のリアルタイム把握に成功しています。

受信アンテナ

市役所の庁舎屋上に受信アンテナを設置

「SSSさんの事前調査では、地形条件により通信が難しいとされた場所もあったのですが、想定以上の範囲で通信ができました。このシステムの実証実験に関わることで、当初目的の登山の安心・安全に加え、福祉・介護での利用や地元の教育機関での活用、地元の電子部品産業への波及効果など、複合的多面的なメリットが市にもたらされるのではないか期待しています」(同市地域戦略課)

今後11月をメドに受信アンテナを本格設置し、頻繁に登山道を行き来する山小屋のスタッフや、救助隊の訓練などで発信機を活用し、悪天候や降雪時などさまざまな状況下で多様なデータの収集に務めたいとしています。
(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

※記事中の画像提供:長野県茅野市

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