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佐賀で産官学が連携し、ドローン空撮で無農薬・減農薬栽培の害虫探し

2016年02月18日

野菜の栽培時に農薬は必要だけど、健康や環境のため、できるだけ使用量を減らしたい。そんな無農薬・減農薬栽培をドローンやウェアラブル機器を使って実現する取り組みが、九州の佐賀県で行われています。今回は、その実証実験の様子を紹介します。

ドローン空撮で、害虫位置を正確に発見

2015年8月、佐賀県 生産振興部、佐賀大学 農学部、株式会社オプティムの三者が、ドローンやウェアラブル機器を利用した農業IT分野で連携するという協定を発表しました。

そして最初に取り組んだ実証実験が、ドローンの空撮写真を使って大豆の葉に付く害虫「ハスモンヨトウ」を探すというもの。上空のドローンが、佐賀県が管理する10カ所の農業試験場を4K映像で撮影し、それを解析して虫食いにより変色している場所を探します。

人工衛星の画像で作物の生育状況を分析するシステムはすでにありますが、衛星の軌道に左右されて任意のタイミングで撮影できず、軌道上からの撮影では分解能に限界があって、必要な情報をピンポイントで得るのが難しいという課題がありました。ドローンを使えば、任意のタイミングで近い位置から撮影でき、その課題が解決します。

「SkySight」の画面例。RGB値が算出され、異常がある部分は赤い四角で囲まれる。

また、人が撮影映像を目視して変色位置を確認する方法では、時間がかかり、見落としなどの可能性が出てしまいます。そのため、ドローンに対応したビッグデータ解析プラットフォーム「SkySight」(=上の画面例)を開発しました。これは、ドローンの撮影画像から作物の葉の色をRGB解析して、枯れている作物や害虫が発生している箇所などの異常を検知する機能を搭載しています。

さらに、ドローンの撮影時に近赤外線カメラを使用することで、画像から害虫のタンパク質の反射信号を積算できるようになりました。反射信号を強調すれば、可視光では見えづらい害虫を検知できるという訳です。この技術は佐賀大学とオプティムで開発し、特許を出願しています(=上図)。

虫食いの位置は、スマートグラスがナビゲーション

撮影画像で葉の変色状況を解析し、害虫のいる位置を特定したら、次は作業員が現地に行き、虫を駆除します。「葉が変色している場所」への誘導は、作業員が着用したスマートグラス(メガネ型端末)上のナビゲーションで行います。スマートグラスのカメラに映る視界の映像がオペレーターに自動送信されるので、仮に作業員が不慣れでも、オペレーターが支援して駆除作業を確実に行えます。

実証実験では、ハスモンヨトウによる葉の変色はおおよそ1反(約992平方m)の畑で、平均して1日当たり2カ所程度でした。ハスモンヨトウに限らずほとんどの害虫は、発生箇所を早期に発見して虫を手で取り除くか、部分的に農薬を散布すれば、それ以上は広がりません。

しかし、これまでは被害が大きくなるまで害虫を発見できずに、畑の全面に農薬を散布するか、膨大な時間と手間をかけて畑を毎日見回るしかありませんでした。そのため無農薬・減農薬栽培は大規模に展開することが難しく、価格がどうしても高くなってしまっていたのです。この実証実験は、場所さえ簡単に正確に特定できれば、無農薬・減農薬栽培のコストは大きく下がるという考え方で進められています。

大豆を対象にした実証実験で良好な結果が得られたため、現在は、白菜、小松菜、たまねぎ、いちごなどを対象に、可視光画像や近赤外画像などをどのように解析すれば(害虫位置の)特定率が上がるかを検証しています。

「楽しく、かっこよく、稼げる農業」をめざす

2015年5月、オプティムの菅谷俊二 社長が出身校である佐賀大学で講演したことが、この連携協定の直接のきっかけとなりました。ドローンによる空撮やIoT、ウェアラブル機器への取り組みを菅谷氏から聞いた同大 農学部の渡邉啓一 学部長が佐賀県 生産振興部に声をかけ、産官学の連携が実現しました。

佐賀県は、農業県であるにもかかわらず就農人口が急速に減っています。農業の競争力をつける新規就農者の拡大が課題であり、農業のノウハウを新しい農家に伝えるためにドローンやウェアラブル機器の活用を検討していました。佐賀大学 農学部は「農業ITで世界一の農学部になる」というビジョンのもと、教育・研究活動を進めてきました。

農家の技術支援のイメージ図

ビッグデータとウェアラブル機器を使った農家の技術支援。将来は情報発信プラットフォームを目指す

この連携では「佐賀が世界No.1農業ビッグデータ地域を目指す」ことを目標に、ドローンによる空撮データ活用だけでなく、各種センサーデータや作業記録もビッグデータとして蓄積し、分析することで、情報による農作業の効率化や技術支援を行います。今後は、センサーを活用した家畜の状態管理や、ウェアラブル機器を使った技術伝承などに取り組んでいきます。

参照サイト

関連情報

※ヘッダ・本文画像提供:株式会社オプティム

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