コンテンツです

ニュージャパンマリン九州、小型ボートの自動着岸をみちびきのCLASで実現

2020年05月18日

小型プレジャーボートの設計開発・製造を手がけるニュージャパンマリン九州株式会社(本社・大分県国東市)は昨年秋、2019年度みちびきを利用した実証実験公募において「プレジャーボートの『ピタット自動着岸』、『入れ食い自動操舵』実証実験」のテーマで採択され、今年春にかけてマリンサービス児嶋株式会社、一般財団法人衛星測位利用推進センター(SPAC)、公益財団法人大分県産業創造機構、株式会社minsora(みんソラ)と共同で、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)による小型ボートの自動接岸の実証実験を行いました。この実証実験の中心となったニュージャパンマリン九州の山本茂・取締役社長に話を聞きました。

ニュージャパンマリン九州の山本社長

ニュージャパンマリン九州の山本社長

一筋縄ではいかないプレジャーボートの操縦

フィッシングやクルージングなどに使われる小型船舶「プレジャーボート」の操縦には、一筋縄ではいかない難しさがあります。

「洋上での簡単さとは裏腹に、着岸が非常に難しい。場合によっては飛行機の着陸を上回るかもしれないほどの難しさです。飛行機は着陸途中でもやり直すことができますが、岸に向かう風に流されながらのボートの着岸は、やり直すことができない。一発で決めなければなりません。失敗して船体を損傷すれば修理費がかかり、前後に係留されている他船を傷つけてしまえばその修理費用もかかる。大変な緊張を強いられる操船となり、普及のハードルの一つになっています」(山本氏)

こうした事情から、自動着岸に対する強いニーズは以前から存在していました。しかしその実現には、LiDARやカメラなどで岸壁までの間の距離や船の姿勢を計測しつつ、バウスラスター(横方向の推進力を発生する装置)などを制御するような、とても大がかりなシステムが必要となってしまい、小型のプレジャーボートに見合うものではありませんでした。

プレジャーボートの着岸

プレジャーボートの着岸

衛星の利活用セミナーでCLASの存在を知る

山本氏は、日産自動車の船舶部門で小型ボートの設計や製造に長年関わってきた経験豊富なエンジニアです。定年退職後、製造拠点のあった大分県に居を構え、温泉三昧の生活を送ろうと考えていました。
しかし、日産自動車の撤退に伴い、大分の製造拠点はニュージャパンマリン九州株式会社として2015年4月に再出発。山本氏が社長に就任し、従来から強みとしてきたカタマラン(双胴船)と呼ばれる特色ある船型の小型船などの開発製造に関わり続けることになりました。
開発した製品は個人向けのプレジャーボートのほか、防衛省の護衛艦に搭載される作業艇や都内を走る水上タクシー、あるいは外国政府のコースト・ガードや海上警察向けの警備艇など多岐にわたるといいます。
そんな折、たまたま地元で開催された「衛星情報利活用セミナー・個別相談会」(主催・公益財団法人大分県産業創造機構、2018年11月開催)でCLASの存在を知った山本氏は、「センチメーターの精度が出せるなら、自動着岸の制御も可能になるのではないか」と着眼しました。その背景にあったのは、かつて山本氏が手がけたボートの自動定点保持(自動船位保持)システムでした。

「魚群探知機で群れを見つけても、一人でボートを操船していると、竿を下ろすまでの間に風や潮流に流されて魚影を見失ってしまいます。遊漁船では船頭さんがやってくれる定点保持を、一人操船のプレジャーボートでもできるようにするためのオプション装備のシステムです。仕組みとしては、自動車用バッテリーで動く小型の水中モーターを舳先から下ろし、モーターの向きと出力を制御し、船首を風上に向け位置を維持するものです。制御入力はブリッジで計測する風向と風速のみ。GPSも試みましたが、数メートルの誤差では、その誤差を半径とする円内をたえず動き回ってしまい、定点保持にはなりませんでした」(山本氏)

3基の衛星測位アンテナで高精度位置情報を受信

3基の衛星測位アンテナ(赤矢印の丸囲み部分)で高精度位置情報を受信

しかし、みちびきのCLASで高い精度が得られるなら、これまで不可能だったことが可能になります。山本氏は衛星測位利用推進センター(SPAC)の協力を得ながら、「3基のアンテナで取得したCLASの高精度位置情報から、ボートの位置・向き・姿勢を検知し、自動的に着岸させるシステム(ピタット自動着岸)」の構築に向けた実証実験を続けてきました。

「難しいことを、難しそうにみせずにやりたい」

自動着岸時の3つのアンテナ位置の軌跡

自動着岸時の3つのアンテナ位置の軌跡

実証実験で行った自動制御の手順は、次のようになります。
1)ボート前方と両舷後方に、合計3基のアンテナを設置し、みちびきから送信されるセンチメータ級測位補強情報を利用して高精度測位を行う
2)ボートの動きの中心となる「回頭中心」の位置と、ボートの方位・姿勢を演算により取得
3)ウェイポイント(目標到達のための通過点)を経て、離岸前に座標値を取得した所定の位置に停止できるよう、ボートのスラスタ(両舷前方、ハの字に2基)を制御する

船位保持、移動のシステム

船位保持、移動のシステム

山本氏は今回の実証実験について、「いったん目標位置を通り過ぎてから、バックして目標点に到達しました。実験をご覧になった方には、自動制御していることがはっきり分かり、デモンストレーションとして説得力があった、との評価もいただきましたが、個人的には前後の動きが定まらず少し悔いが残ります。やはり野球の名手のファインプレーのように、難しいことをそうとは見せずにさりげなくやらねばと思います」と振り返ります。

自動操船・着岸実験の様子

さらに山本氏は実証実験を通じ、高精度の衛星測位を使ったボートの自動接岸で特許も取得しました。
「実はこれまでもボートの制御に関しいろいろな特許出願を行ってきましたが、似たような先例の存在で認められないことがしばしばあり、それが自分の出願したものだったりすることもありました。しかし今回は、無事特許が登録された。衛星測位という新しいツールを得て、若い頃の自分を上回ることができたわけです。これからのビジネスに大きな広がりが期待できそうだと、古希が見えてきた歳ながら、わくわくしています」(山本氏)

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文画像提供:ニュージャパンマリン九州株式会社