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エアモビリティ、ナビシステム搭載のCLAS対応ドローンで実証実験

2022年02月21日

目的地を指定するだけで、最適な経路を見つけて案内してくれる「カーナビ」。自動車では今や当たり前のものとなったこのシステムを空でも実現しようと取り組んでいるのが、エアモビリティ株式会社です。空飛ぶクルマと呼ばれる電動の垂直離着陸機(eVTOL)向けサービスプラットフォームの開発に取り組んでおり、開発中のナビゲーションシステム「AirNavi」は、利用者が目的地を入力すれば、気象データや離着陸場の情報などの諸条件に応じた最適な飛行ルートを算出してくれます。
同社は2021年12月14日、AirNaviのプロトタイプを搭載したドローンの実証実験を三重県鳥羽市で行いました。この実験には、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応受信機を搭載したドローンが使われました。エアモビリティの浅井尚・代表取締役社長CEOと都築博和部長(技術本部)に実験の詳細を聞きました。

浅井社長

エアモビリティの浅井社長

都築部長

都築部長

空飛ぶクルマに先駆け、ドローンで実証実験

エアモビリティと東京海上日動火災保険株式会社、そして三重県の三者は2020年、「三重県内における『空飛ぶクルマ』の実証実験、実用化に向けて連携する包括協定」を締結しました。2022年以降に三重県で空飛ぶクルマの有人飛行を実現させ、空飛ぶクルマの社会実装にいち早くつなげることを目的とした協定です。今回の実証実験はその一環として、開発中の空飛ぶクルマ向けサービスプラットフォーム「ASCP(AirMobility Service Collaboration Platform)」の一機能である、空のナビシステムAirNaviを、eVTOLの代わりにドローンを使用して実施されました。

UAV-E6106MP

UAV-E6106MP

システム構成は、イームズロボティクス株式会社のドローン「UAV-E6106MP」に物資輸送BOXを連結し、AirNavi搭載タブレットやCLAS対応受信機、位置情報を送信する通信端末などを載せました。
受信機は、三菱電機株式会社やマゼランシステムズジャパン株式会社が提供するCLAS対応のマルチGNSS受信機を採用しました。CLASで測位した高精度位置情報は、KDDI株式会社のLTE対応通信端末を使って送信し、並行して衛星通信サービス「イリジウム GO!」の検討も行いました。「イリジウム GO!」は専用Wi-Fiルーターを接続してイリジウム衛星通信を利用できるサービスで、LTE通信のカバーエリア以外でも通信でき、ドローンより高い高度を飛行する空飛ぶクルマでの利用を見据えています。
また、ドローン運行管理者がクラウド環境を経由して地上のタブレット上にAirNaviの飛行状況を表示し、観察する際の背景地図には、株式会社ゼンリンの3Dマップを使用しました。

システム構成図

エアモビリティ株式会社が作成したシステム構成図

CLASの情報をドローンとAirNaviの双方で利用

飛行経路の算出に使用する3D航行マップには、ダイナミックマップ基盤株式会社が提供するXYZ座標データ(点群データ)を使用し、時間帯によって異なる飛行可能な空域の規制状況や、株式会社ウェザーニューズが提供する気象情報も組み合わせてルートを算出しました。ドローンにCLAS対応受信機を搭載したのは、着陸時の位置精度を向上させることに加え、点群データから算出した高精度な飛行ルートからできるだけ外れないように飛行するためでした。

「もともとは離着陸時だけCLASを使い、飛行中は通常のGPSを使う予定でした。ただ、実際に飛行してみると、予定ルートの赤い線と実際のルートがどうしても誤差でずれてしまったのです。それで、ドローンでも常時CLASで測位することにしました」(浅井社長)
「技術的には、CLAS対応受信機で測位した高精度位置情報を、ドローン制御部とBOXに載せたAirNavi搭載タブレットの双方に送信する仕組みにして、両方で使えるようにしました」(都築部長)

地上で運行を管理するスタッフにとって、ドローンが飛行ルートから外れた際、それが衛星測位の誤差によるのか、それとも本当にルートから外れたのか分からないと不便であり、飛行中の位置情報も可能な限り高精度であることが求められます。今回は無人航空機で実験しましたが、実際の空飛ぶクルマには人が乗ります。その時、飛行中にルートから外れたように見えては、搭乗者が不安を感じるため、やはり高精度測位が必要となるのです。

実証実験の説明会

実証実験の説明会

BOXにタブレットやGNSS受信機を搭載

BOXにタブレットやGNSS受信機を搭載

伊勢湾の海上をAirNaviのルートに沿って飛行

飛行ルート

飛行ルート(地理院地図上に記載)

三重県鳥羽市で行われた実験では、伊勢湾に面する鳥羽マリンターミナルのカモメ広場をスタート地点として、約2.7km離れた鳥羽市保健福祉センターひだまりの臨時駐車場への空の経路を専用のASCPアプリ「AirNavi」を使って算出し、ルートを設定しました。マリンターミナルとひだまり駐車場の2点間を直線で飛行する「最短ルート」と、鳥羽港沖に浮かぶ坂手島を周遊する「遊覧飛行ルート」の2つが提案され、実験は、そのうち「最短ルート」で行われました。
AirNaviから飛行ルートを選択すると、損害保険を選ぶメニューが表示され、保険料の決済が行われます。保険料の額は、飛行経路や気象状況などの諸条件により変更され、その手続き後にデータがアップロードされ、飛行が開始されます。

飛行ルートの選択画面

飛行ルートの選択画面

保険の選択画面

保険の選択画面

ドローンは今回、海上上空60mを飛行しました。飛行中はドローンの搭載タブレットに3Dマップを使ったナビゲーション画面が表示されます。一方、地上にいる運行管理者も3Dと2Dの画面を切り替えられ、気象状況もリアルタイムに確認できます。

3Dマップを使ったナビ画面

3Dマップを使ったナビ画面

CLASによる位置情報の取得は、ノイズなどの影響で測位精度が多少下がる場面があったものの、全体的にはルートから大きく外れることなく飛行できました。一方で取得した位置情報を送信する上空LTE通信サービスは、電波が途切れる箇所があり通信の品質に課題が残りました。

画面展開

AirNavi起動後の画面展開

同社は今後もASCP及びAirNaviの開発を継続しますが、eVTOLだけでなくドローン物流への転用も検討しています。今回は単純な2点間飛行でしたが、今後はアクシデントを想定した緊急着陸の実証実験なども行う予定です。
「トラブル発生時に機体の位置情報がずれていたり、通信が途絶えたりするのは大きな問題で、衛星測位の精度と通信の安定性には非常に高い品質が求められます。AirNaviの開発と並行して、GNSS受信機や通信デバイスも引き続き検証してまいります」(浅井社長)

今後行うeVTOLを使用した実証実験でも、同社はCLAS対応受信機を使用する予定といいます。
「eVTOLはドローンとの干渉を避けるため飛行高度が500m程度と高く、LTE通信では不安があり、携帯電話会社が提供する高精度測位サービスを使う選択肢は最初からありません。将来、私どものAirNaviを搭載する機体には、CLAS対応受信機をセットで導入する形にしたいと考えています。今はまだCLAS対応受信機は高価ですが、今後さまざまな製品に広くCLASが普及することで価格が下がると期待しています」(浅井社長)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:エアモビリティ株式会社

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