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四門、みちびきのCLASを活用した深浅測量の実証実験を実施

2020年07月06日

河川、湖沼の整備や環境調査、防災などさまざまな目的で河川・湖沼や海の深さを測量することを、“深浅(しんせん)測量”といいます。今年(2020年)1~2月、株式会社四門と国立大学法人名古屋工業大学は、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用した深浅測量ボートの実証実験を実施しました。深浅測量の省力化・効率化を図る取り組みの一つで、2019年度 みちびきを利用した実証実験公募の1テーマ「みちびきを活用した深浅測量・堆積ヘドロ測定の実証実験」として行われました。この実証実験を行った四門の田上敏也・取締役副社長、大野浩示・営業部長、営業部の齊藤晃紀氏、そして名古屋工業大学 高度防災工学センターの野口好夫・客員教授に話を聞きました。

関係者写真

左から四門の田上副社長、大野営業部長、齊藤氏、名工大の野口教授

CLAS対応受信機を搭載した無人ボートを自動航行

従来の無人の深浅測量ボートは、一般的なGNSS受信機では測位精度が足りず、RTK(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)に対応した高価な受信機が必要でした。今回の実証実験では、CLAS対応の受信機を使用して位置精度を高めることで、深浅測量業務を効率化し、作業人員の削減など低コスト化を実現できるかを検証しました。

従来の深浅測量

従来の深浅測量

深浅測量のイメージ

深浅測量のイメージ

「当社は補償コンサルタント、土地開発や建物に関する事業のほか、ドローンを使った事業も行っています。その技術を空撮や測量などに活用する取り組みとして、今回、名古屋工業大学の野口先生からソナー(超音波センサー)の使用をご提案いただき、深浅測量用の自動航行ボートを思いつきました。無人ボートによる深浅測量の自動航行を実現すれば、海岸線の海底地形を3Dデータなどで作成でき、防災にも役立つと考えたのです」(田上氏)

CLASを活用して水深測定箇所の位置精度を向上

CLASを活用して水深測定箇所の位置精度を向上(左:従来の深浅測量、右:CLASを活用した測量)

まずCLASを活用した無人ボートの航行精度を、埼玉県の寄居町で確認しました。全長約68cm、幅約50cmの赤色の無人ボートに、マゼランシステムズジャパン株式会社製のCLAS対応GNSS受信機とアンテナを搭載すると共に、コントローラー(センサー情報をもとにボートの姿勢制御などを行う基盤)やIMU(慣性計測装置)を搭載しました。また、制御ソフトにはオープンソースのドローン用オートパイロットソフトウェア「ArduPilot」を使用しました。

無人ボートにCLAS対応受信機を搭載

無人ボートにCLAS対応受信機を搭載

次にArduPilotに緯度・経度を入力したウェイポイント(航行ルート上の地点情報)を設定しておき、名古屋市内を流れる堀川で、四角い箱の形を描くように無人ボートを何回も航行させました。1周当たりの航行距離は約60~80mです。実験ではCLASの受信システム検証に加え、株式会社トプコン製のRTK対応受信機を使った測位も実施し、両システムで精度を比較しました。

4つのウェイポイントを指定して自動航行

4つのウェイポイントを指定して自動航行

実験の結果、CLASで取得した緯度・経度の差は、両システムの平均値から水平で約0.006mとなり、CLASの高精度な位置情報を認識して、ボートが指示した緯度・経度へほぼ正確に到達できると確認できました。なお、ウェイポイント間の航行は、川の上部から下部へと流れに沿って航行している時は設定ルートにほぼ沿った形でしたが、川の流れを横切る形で航行する場合は、流れの影響を受けてやや蛇行する傾向が見られました。

続いて水深を測る超音波センサーを使って、堀川、及び浜名湖において、川底の水深計測に適した音波帯域を確認しました。本多電子株式会社製の超音波センサー「HONDEX」を有人ボートの舷側に固定し、周波数を28kHz、50kHz、100kHz、200kHz、500kHz、1MHzに変えながら、それぞれの周波数で水深を計測しました。さらに船から標尺(地面に垂直に立てて高低差などを測る物差し)を川底のヘドロ上面と河床に立てて水深を読み取りました。

有人ボートで川底の水深計測に適した音波帯域を確認

有人ボートで川底の水深計測に適した音波帯域を確認

有人ボートで川底の水深計測に適した音波帯域を確認

超音波センサーで取得した数値と標尺の読み取り値を整合させ、ヘドロ上端から反射したと思われる周波数域と、河床(ヘドロ下端)から反射したと思われる周波数域を確認したところ、200kHzの周波数であればヘドロ上端の調査を行えると分かりました。また、低周波数(28kHz)の超音波センサーで河床(ヘドロ下端)の計測が可能で、ヘドロの層厚も測定できることも分かりました。

毎秒約2mで航行し、0.1秒ごとに水深を計測

実験の仕上げでは、CLAS対応受信機と超音波センサーを搭載した深浅測量ボートを自動航行させ、名古屋市の堀川にかかる中土戸橋と納屋橋付近において実際に水深を計測し、位置情報を収集しました。航行速度は毎秒約2mで、0.1秒に1回の間隔で水深を計測します。

CLAS対応受信機と超音波センサーを載せた無人ボート

CLAS対応受信機と超音波センサーを載せた無人ボート

CLAS対応受信機と超音波センサーを載せた無人ボート

こうして得られた膨大な数の水深データの中から、前段階で音波帯域を確認する際に手動で計測した6地点の水深データと比較したところ、差異はほとんど出ませんでした。この結果により、CLAS対応受信機に超音波センサーを組み合わせれば、センチメータ級の高精度な位置情報にひも付いた水深データを正確に測定できることが確認できました。

無人ボートの水深データと手動計測した6地点のデータを比較

無人ボートの水深データと手動計測した6地点のデータを比較

「みちびきの測位がFIXする場合はXYの座標がほぼ正確に出て、超音波センサーにより水深方向も高い精度で計測できたため、ヘドロ上端の凹凸をかなりの高精度で捉えられました。高精度測位でボートの自動航行も可能になり、無人ボートに計測を任せてしまえば、あとは人がやることはなく、測量コストを低減できることが分かりました」(野口教授)

なお、比較した6カ所のうち1カ所だけ、近くに高い建物があって衛星電波の受信環境が悪く、前段階で計測した水深データと比べて差異が大きくなりました。
「実は実験前、納屋橋付近は高い建物が多く、ほとんど計測できないと予想していました。でも実際の計測では、河川のセンター付近では十分にFIXし、CLASの測位が可能でした。センターの水深が取れれば、それをもとに他の場所の水深もボートの軌跡をデジタル化すれば推測できます」(野口教授)

無人ボートを導入して測量業務を省力化

有人ボートによる調査では、航行前の準備や船に乗った後の作業に時間がかかりますが、無人ボートではそれらが不要となることが確認できました。
「歩掛を試算したところ、作業に必要な延べ人数が有人ボートの13.5人に対し、無人ボートは、河川の潮位計測などに必要な人員だけ残し、不要となる船員や作業員を約4.1人削減でき、9.4人になりました。これにより転倒などの安全性も向上でき、測量にかかる時間も大幅な短縮を期待できます」(齊藤氏)

無人ボートの導入メリットとして、多数の箇所で測定でき、有人ボートを使った測定よりはるかに密な点群データを取得できます。これにより河床や湖底の形状を3D化することも可能です。
また、GNSSの位置情報を取得しながらボートを自動航行させ、観測するシステムは現状でも存在しますが、大きな河川の河床の測量や港湾施設の改修などにおいて、国交省の公共測量作業規定に沿って高精度にデータを取得するレベルには至っていません。
「みちびきのCLASを使えば、そうした高精度測量が期待できるほか、準天頂付近に衛星がある利点を活かし、たとえば山奥のダム湖で周囲が木に覆われたような場所でも安定した測位が可能となります」(田上氏)

みちびきによる観測の解説図

みちびきにより山奥のダム湖でも安定した観測が可能

CLAS対応無人ボートの実用1号機を制作予定

最後に、将来への期待について話してもらいました。
「CLASの受信機やアンテナは、今後もっと小さく安価になると思われます。それらを使って深浅測量用ボートの自動航行を実現したいと思います」(齊藤氏)

「当社が手掛けるカイトプレーン(固定翼無人飛行機)による測量では、部品やソフトウェアなどすべて国産技術の使用を目指しています。みちびきを使うことで、制御面でも国産化できると期待しています。今後は深浅測量ボートでも同様に、国産でのモノづくりにこだわっていきたいと考えています」(田上氏)

「みちびきを活用した技術と地上のセンサーを組み合わせて、河床や海底の点群データなど、これまで見られなかったものを可視化できます。その結果として、津波シミュレーションなど防災の精度向上にも期待しています」(野口教授)

今後は、ボートの適正な大きさや搭載物の内容を決定すると共に、超音波センサー関連機器の小型化に取り組み、無人によるCLAS対応の深浅測量ボートの実用1号機を制作する方針です。さらに、超音波センサーの自動データ取得機能や位置情報とのデータ同期ソフトの開発、ヘドロと河床を判断するAIプログラムの開発なども目指しています。

サイズを大型化した無人ボートの試作機

サイズを大型化した無人ボートの試作機

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文中の画像・図版提供:株式会社四門

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