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[実証2022-2] 広島商船高専:みちびきを活用した自律航行船・ドローン間協調制御の物流網への適用

2023年07月26日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、独立行政法人国立高等専門学校機構 広島商船高等専門学校(広島商船高専)が2022年度に高専・大学枠の実証事業として実施した「みちびきを活用した自律航行船・ドローン間協調制御の物流網への適用」を紹介します。同校の岸拓真准教授に実証事業の詳細を聞きました。

岸准教授

広島商船高専の岸准教授

自律航行船とドローンをCLASにより連携

広島商船高専は、水上モビリティの自律航行システムの開発を手がける株式会社エイトノットと共同で自律的に航行可能なロボティクスボート「自律航行船」の開発を進めており、2022年に瀬戸内海の広島県大崎上島沖において往復5km間の離着桟も含めた自律航行を実現しました。この自律航行船は、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)による高精度測位システムを採用しています。
自律航行船による物流の実証実験を実施する中で課題となったのが、ドローンなどによるラストワンマイル輸送とのスムーズな接続です。ラストワンマイルとは、一般的に配送物が到達するまでの最後の区間を意味し、たとえばドローンを使って空から住宅へ輸送すれば省力化・効率化を図ることができます。自律航行船で運んだ配送物をドローンへ確実に受け渡せるシステムを構築することで、陸上交通の混雑解消や経路短縮化によるコスト削減及びCO2排出量の削減、過疎地域における配送担い手不足の解消といったさまざまな課題を解決できます。

そこで広島商船高専とエイトノット、そして産業用ドローンの研究開発ベンチャーである株式会社エアロネクストは、自律航行船とドローンの協調制御システムを実現するため、みちびきのCLASを活用して自律航行船とドローンの荷物の受け渡しを洋上にてスムーズに行うための技術を開発しました。

協調制御の図解

自律航行船とドローンを協調制御

測位方式にCLASを採用した理由について、岸准教授は、「ネットワーク型RTK(リアルタイムキネマティック)測位の場合、洋上では島陰などモバイル回線の電波が受信しづらい状況が多々あります。CLASであれば衛星から直接補正情報を取得できるので、そのような心配をする必要は一切ありません」と説明します。

自律航行船に1m四方のドローンポートを設置

エイトノット・ワン

CLASを活用した自律航行船「エイトノット・ワン」

今回の実験では、自律航行船としてエイトノットの小型EV船「エイトノット・ワン」を使用しました。この船は全長7.47m、全幅2.79mで、u-bloxのCLAS対応モジュール「NEO-D9C」を1つと、RTK対応の受信機「ZED-F9P」を2つ搭載しています。片方のZED-F9PはNEO-D9Cと組み合わせることでCLAS対応受信機として使用し、これを“移動基準局”として、もう片方のZED-F9Pを“移動局”として補正信号を送ることにより、それぞれに接続されたアンテナの高精度位置情報をもとに高度な姿勢角制御を実現します。

測位システム図解

「エイトノット・ワン」の測位システム

エイトノット・ワンはタブレットを使って目的地までのルートを自動的に設定し、CLASの高精度測位により自動離着桟及び航行が可能です。衛星測位に加えてLiDAR(レーザースキャナー)や光学カメラ、IMU(慣性計測ユニット)なども搭載し、航行中は障害物や他の船舶を自動的に回避できます。

システム図解

CLAS関連のシステム図

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ドローンはエアロネクストの「エアロネクストドローン」を使用しました。エイトノット・ワンの船上に設置された約1m四方のドローンポート上にセプテントリオのCLAS対応受信機「Mosaic CLAS」を設置し、その位置情報をドローンに送信することで、ドローンは船との合流地点や着陸地点の高精度な位置情報を正確に把握できます。

ドローンポート

ドローンポートに設置した受信機から補正情報を送信

岸准教授によると、ドローンにCLAS対応受信機を搭載しなかった理由は受信機のコストと重量の問題だそうです。
「今回のシステムでは補正情報の送信過程でタイムラグが出ることがあり、受信機の低価格化と軽量化が進めば、CLAS対応受信機をドローンに搭載するほうがいいと思います」(岸准教授)

ドローンポート

ドローンポート

CLASの高精度測位により航行中の船に追従飛行

実施場所の地図

瀬戸内海の大崎上島周辺で実施(地図出典:地理院地図)

実験は、まず自律航行船が4kt(秒速約2m)の速度で航走中にWaypoint2の地点でドローンが離陸し、船は速度を保ったままドローンとの合流地点であるWaypoint1に向けて自律航行を続ける一方で、ドローンは設定されたルートを高度25m、速度は秒速4.5mで飛行し、海上に設定されたWaypoint3へ移動しました。
ドローンはWaypoint3に到着後、船との合流地点であるWaypoint1に向けて飛行しました。Waypoint1に到着後は船が同じ地点に来るまでホバリングで待機し、ドローンと船が合流しました。合流後はCLASの位置情報及び赤外線による精密誘導を併用することでドローンを自律航行船に追従させ、Waypoint2の地点で着陸させました。

移動経路図

自律航行船とドローンの移動経路

自律航行船の離岸からドローンの離陸、自律航行船とドローンとの合流、追従飛行、ドローンの着陸、自律航行船の着岸に至るまで、すべての過程は人の手を介さずに自動で行いました。実験を行った当日は潮流が最大で時速6kmと速く、厳しい条件となりましたが、追従飛行や離着陸などすべて問題なく行うことができました。

離陸するドローン

ドローンポートから離陸

岸准教授によると、船の場合は陸地と違って揺れるため、追従飛行や着陸の際に衛星測位だけに頼るのは位置がズレてドローンが落下するなどの不安があり、赤外線による精密誘導を併用する必要があります。なお、精密誘導の方式として赤外線を採用した理由は、低コストで悪天候にも強く、他の方式に比べて信頼性が高いからだそうです。ただ、赤外線誘導を開始するにはドローンを誘導装置上空の半径約10mの範囲内まで近づける必要があり、それにはCLASによる高精度測位が不可欠となります。
「CLASの測位精度には十分満足しており、これを使わないとドローンをまともに船に追従させられません。今回の実験ではかなりCLASに助けられました」(岸准教授)

離陸(1)

ドローン離陸時の様子

離陸(2)

着陸時

ドローンの着陸時

離島間の新たな配送手段として期待

飛行するドローン

飛行中の様子

今回の実験では、当初は船の動力を止めて漂流している状態で離発着を行う予定でしたが、その場合は海上交通安全法により届け出を海上保安庁に提出しなければならず、実運用を考えると現実的ではないので、航行中に離発着を行いました。実際に実験してみたところ、漂流時に比べ航行中のほうが揺れが少なくなり、ドローンの離発着に適しているという知見も得られました。

パートナーであるエイトノットとエアロネクストの技術開発スタッフも、協調制御システムへのCLASの組み込みをスムーズに行うことができ、既存技術を組み合わせることで新しい試みに挑戦できたことに楽しさを感じたといいます。
「両社にはいろいろと知恵を出していただき、そのおかげで技術的なところはクリアできました。また、今回は開発の過程で学生にも協力してもらいました。こうした実験をきっかけに、学生に自律航行船やドローン物流などへ興味を持ってもらうことも重要と考えています」(岸准教授)

岸准教授は今後も自動航行船とドローンの協調制御システムの技術開発を続けていく方針で、2027年を目標に実用化を目指しています。

ドローンと船の合流

ドローンと自律航行船が合流

広島商船高専のある瀬戸内海の大崎上島の周辺には大小さまざまな離島があり、郵便や宅配便の配送はかならずしも本土から直接船がやってくるわけではなく、他の離島を経由する場合も少なくありません。少子高齢化により配達の担い手が不足する可能性もあるため、岸准教授は自律航行船とドローンの組み合わせによる新しい物流に期待しています。また、災害時に緊急離発着できる洋上ドローンポートとして利用するなど、配送以外の活用方法も模索しています。
「みちびきは日本発の重要な測位システムであり、アジアでも利用可能ということで海外にも展開できる可能性があります。今後も技術の進化を止めないでいただきたいし、対応受信機の低価格化にも期待しています」(岸准教授)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※記事中の画像提供:独立行政法人国立高等専門学校機構 広島商船高等専門学校、株式会社エイトノット、株式会社エアロネクスト

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

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