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みちびきの高精度測位に対応したブイで海洋モニタリングを実現

2020年02月17日
伊藤氏

環境シミュレーション研究所の伊藤氏

漁業や海運、マリンレジャー、環境問題への対策など、海における人間のさまざまな活動を支えているのが、海洋の状況を測定するモニタリングシステムです。株式会社環境シミュレーション研究所と、同社の取締役会長を務める伊藤喜代志氏が次世代製品の研究開発を行うために立ち上げた株式会社ブルーオーシャン研究所は、この海洋モニタリングを従来より安価に、かつリアルタイムで行える環境を目指して、みちびきの高精度測位を活用したシステムの開発に取り組んでいます。今回は伊藤氏がどのような開発や実験を行っているのか、話を伺ってきました。

海上に浮かせたブイで、海の荒れ具合をピンポイント観測

伊藤氏によると、海洋モニタリングにみちびきの技術を導入するきっかけとなったのは、多くの漁業関係者から寄せられた要望でした。たとえば、資源を絶やさないための制限があり年に数日しか出漁できないアワビのような水産物では、船を出しても海が荒れて漁ができなければ大きな損失になります。定置網も、せっかく海に出ても波が高いと網が引き上げられず無駄足になってしまいます。こうしたことから海の状況を安価でリアルタイムに把握できるシステムの実用化は、多くの漁業関係者にとって念願でした。

「気象庁の波高データは5kmメッシュで範囲が広すぎます。海岸線が複雑だと半島の左と右で海の荒れ具合が全然違うので、ピンポイントで状況を把握するには海上に浮かせたブイで直に測定する必要があります。従来のGPSでは誤差が数mあり、もっと良いものはないかと考えて、みちびきの高精度測位にたどり着きました」(伊藤氏)

調査船や大型のブイを使用する従来方式の海洋モニタリングは、設置費や建造費に年間数億円を超える莫大なコストがかかり、かつ高波によって機器が故障して使われていないというシステムも少なくありません。こうした課題を解決するため、伊藤氏は本体部分の直径が40cmの小型ブイにみちびきの高精度測位に対応した受信機を搭載し、測位データをモバイル通信で送ることを考えたのです。

「特に標高データは、複雑な運動でも数値がダイレクトに出るので、波浪の状態を推定するのに有効です。みちびきを使ったシステムなら安価で小型に受信機を作れて、全国に数万個存在する小型ブイや、数万隻存在する漁船に搭載すれば、リアルタイムに広範囲の海域の波高データを収集できます。漁業関係者のほか、ダイビングや海水浴などのマリンレジャーを楽しむ人、そして海運などさまざまな分野に対して、広範囲の海洋情報を配信することが可能となります」(伊藤氏)

ロボットの自動化や海底地形図の作成を目指す

実証実験で使用した海洋ブイ

実証実験で使用した海洋ブイ(提供:株式会社環境シミュレーション研究所)

環境シミュレーション研究所とブルーオーシャン研究所は昨年(2019年)夏、みちびき対応受信機を搭載した海洋ブイを使って実証実験を行いました。

センチメータ級測位補強サービスに対応したAQLOC(三菱電機製)と、サブメータ級測位補強サービスに対応したQZ1(NEC製)の2つの受信機を直径40cmの小型ブイに搭載し、さらに船の上にもみちびき対応のGNSS受信機を搭載して、ブイや船舶から波高を正しく測定できるかを実験したのです。

その結果、いずれの受信機でも測定結果と目視での波高が一致し、同様の傾向で波の様子を捉えることができました。実証実験は今も継続中で、現在はセンチメータ級測位補強サービスはマゼランシステムズジャパン製、サブメータ級測位補強サービスはu-blox社製の受信機を使っています。収集したデータは、ニューラルネットワークやディープラーニング(深層学習)などのAI技術を使って解析しており、昨年夏の実証実験で使った漂流型のブイに加えて、海底にアンカー留めするタイプのブイでも正しく波高や流速を推定できるかを検証しています。

実証実験のしくみ

実証実験のしくみ(提供:株式会社環境シミュレーション研究所)

また、両社は、この海洋モニタリングシステムを用いてロボットによる自動化を行うことも検討しています。養殖場の水質や魚の成長度をモニタリングする養殖ロボット、そして日本近海に多く存在する“渦”にロボットを滞留させ、近海で何が起こっているかをモニタリングする海洋観測ロボット「eddy Glider」の2つのプロジェクトに取り組んでいます。

いずれのプロジェクトにも共通しますが、機器の故障やトラブルを防ぐもっとも効果的な予防策は、「海が荒れている時は観測を行わない」ことです。みちびきによるモニタリングシステムを導入すれば、波高や流速をリアルタイムに把握できるようになり、観測に適さない場合は自動的に観測を中止させることができます。

環境シミュレーション研究所は、全世界の詳細な海底地形図を2030年までに作る「seabed2030プロジェクト」にも参加しており、その一環として、沿岸部の水深を高精度な魚群探知機で測定する際に、みちびきの高精度測位で得られた標高データを絶対値として、それをもとに超音波で測定した測深データを補正する取り組みも行っています。

「魚群探知機による超音波の水深測定では、波高や潮汐が変動するため、超音波を発する高さの基準値を決めるのが非常に困難でした。みちびきの高精度測位に対応した受信機を使えば、海面の高さを絶対値として得られるので、測深データの補正が非常に簡単になります。これにより日本沿岸の詳細な海底地形図を低コストかつ効率よく作製できるようになります」(伊藤氏)

2020年度中にみちびき対応のブイを発売へ

みちびきを活用した海洋モニタリングは大きな可能性を秘めています。環境シミュレーション研究所は、それを使った第一歩となる製品として、2020年度中にみちびきの高精度測位に対応した海洋ブイを発売する予定です。価格は、サブメータ級測位補強サービス対応モデルが約35万円、センチメータ級測位補強サービス対応モデルでも100万円以下で提供したいとのこと。

センチメータ級とサブメータ級測位補強サービスの対応受信機を搭載した海洋ブイ

センチメータ級とサブメータ級測位補強サービスの対応受信機を搭載した海洋ブイ

「実証実験を行って、波高や流速を計測する用途であればサブメータ級測位補強サービスで十分対応できると分かりましたので、漁業関係者向けには安価なサブメータ級測位補強サービスに対応した海洋ブイを提供します。センチメータ級測位補強サービスに対応したモデルは、精度の高い緯度・経度・標高の絶対値が必要となる測量用途への提供となります」(伊藤氏)

伊藤氏は、みちびき対応のブイによって収集したデータをビジネス化するため、マリーンネットワークス株式会社が運営する釣り人向けのウェブ配信サービス「釣りナビくん」において、漁業者や一般の釣り人に、スマートフォンで見られる海洋情報を30分ごとに提供することも検討しています。

「電子基準点の補正が効く沿岸付近において、みちびきによる海洋モニタリングシステムは高精度かつリアルタイムに波高と流れ情報を収集可能であり、このシステムを使えばすべてのブイや漁船を“海洋観測IoT(Internet of Things)”として利用できます。今後はみちびきの高精度測位に対応した受信機がより安価で省電力になることを期待しています」(伊藤氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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