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CLASとMADOCAの活用で海底地形図を自動作成するDeSETプロジェクト

2021年03月29日

地球上の表面積に占める海の割合はおよそ7割もあるのに、100m程度の分解能で計測済みの面積は、わずか19%以下にとどまっています。こうした未知の領域が広がる現状を、詳細な海底地形図を作ることで変えていこうというのが、2017年に始まった海底探査技術開発プロジェクト「DeSET(=Deep Sea Exploring Technology)」です。
具体的には、全地球を網羅する詳細な海底地形図を低コストで迅速に作成する新技術の開発を支援するもので、公益財団法人日本財団、一般社団法人日本先端科学技術教育人材研究開発機構(JASTO)、及び株式会社リバネスの共同事業として、2017・18年に開発希望者を公募した上で複数のチームを編成し、プロジェクトを開始しました。
その中に、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)とMADOCA(高精度測位補正技術)を活用した「詳細海底地形図自動作成システム」の開発に取り組んでいるチームがあります。チームの代表を務める株式会社AquaFusion(アクアフュージョン)の笹倉豊喜氏(代表取締役)と、みちびき関連の技術を担当する株式会社ブルーオーシャン研究所の伊藤喜代志氏(代表)に話を聞きました。

笹倉氏と伊藤氏

AquaFusionの笹倉氏(左)とブルーオーシャン研究所の伊藤氏(右)

シングルビームで、マルチビーム的な広範囲の測深を実現

笹倉氏らのチームが取り組んでいるのは、衛星測位とシングルビーム測深機、そして人工知能を活用した、詳細海底地形図自動作成システムの構築です。世界初の高速超音波発信機能を備えたビーム測深機「AquaMagic」と、みちびきのCLASに対応したマルチGNSS受信機を組み合わせて、1台当たり2~3億円かかるマルチビーム測深機と同等の機能を、その約100分の1のコストで実現します。

AquaMagic

世界初の高速超音波発信機能を備えたビーム測深機「AquaMagic」

従来のビーム測深機は、超音波を一度送信したら、その反射波が戻ってくるまで次の超音波を送信できませんでした。水中では音速が毎秒約1500mとなるため、例えば海底深度が750mならば1秒間に1回しか測深できません。ところがAquaMagicは、送信する超音波をコード化して一つ一つを識別可能にすることで、深度に関係なく、1秒間に40回以上の超音波を送信して個別に受信できるようになりました。

従来の音響測深機とAquaMagicの違い

従来の音響測深機とAquaMagicの違い

このAquaMagicの特性を活かして、前後左右に揺れながら進む船から海底に向け、連続してさまざまな角度から超音波を送信すれば、測深点が大幅に増えて、シングルビーム測深器を使いながら、マルチビームのように広範囲の測深を行うことができます。笹倉氏らのチームは、この“疑似マルチビーム”ともいえるユニークな計測方法を、酒に酔った人が左右によろめきながら歩く様子に例えて“ちどり足海底計測手法”と名付けました。

アンテナ2台の位置情報から傾き角度を算出

“ちどり足海底計測”において、さまざまな角度から放たれた超音波を使って船から海底への距離を測るには、AquaMagicが超音波を送信する際に、どれくらい傾いた状態なのかを正確に把握する必要があります。その傾きの角度を計測するのに「みちびきの高精度測位を活用する」アイディアを思いついたのが、ブルーオーシャン研究所の伊藤喜代志氏です。

ポールに2台のGNSSアンテナを搭載

ポールに2台のGNSSアンテナを搭載

伊藤氏のアイディアは、船にポールを立てて、最上部とその1m下に1つずつ、CLAS/MADOCA対応のGNSSアンテナを取り付けて、それぞれ別のGNSS受信機で測位し、2つのアンテナの位置情報をもとにポールの傾き角度を算出するというものです。ポールの下部にAquaMagicを取り付けることで、超音波を発信する際の角度を随時把握できます(このシステムは現在、特許申請中です)。
「今までシングルビーム測深機では真下しか測れませんでしたが、みちびきの高精度測位を使うことで正確に動揺する角度が分かれば、測定できる範囲が広がり、測深点が増えて詳細な海底地形図を作れます。昨年9月に宮古島でこのシステムを検証したところ、最大8度くらい傾いたという記録がきれいに取得できました」(伊藤氏)

ちどり足海底計測手法

ちどり足海底計測手法

マルチビーム測深とちどり足海底計測手法との違い

マルチビーム測深とちどり足海底計測手法との違い

2台のアンテナと受信機から船の動揺角度を計測

2台のアンテナと受信機から船の動揺角度を計測

海象ブイの実証実験から生まれたユニークなアイディア

伊藤氏は、みちびきの高精度測位に対応した海象ブイの開発にも取り組んでいます。“ちどり足海底計測手法”のアイディアは昨年2月、海象ブイの実証実験を行っている最中に思いついたといいます。
「船の上でみちびきの海象ブイを眺めていて、ひょっとしたらこれは測深に使えるかも? と思って笹倉さんに相談したら、一緒にやりましょうという話になりました。海象ブイの実証実験をやってなかったら、このアイディアは生まれなかったと思います」(伊藤氏)

みちびき海象ブイ

みちびき海象ブイ(SATEX展示会にて)

今後は今年10月頃、駿河湾沖でこのシステムの本格的な実証実験を行う予定です。伊藤氏は課題として、沿岸部から遠く離れた沖合でCLASによる高精度測位が可能かどうかを挙げています。
「使っているのはマゼランシステムズジャパン製の受信機で、CLASで測位できない場合は自動的にMADOCAに切り替える機能が付いています。駿河湾の最深部は、沿岸部から数10km離れたエリアなのでCLASが使えない可能性もあります。この点も検証したいと思います」(伊藤氏)

笹倉氏、伊藤氏らのチームでは、この手法で計測した測深データをもとに、機械学習を使って超解像技術(デジタル的に解像度を上げる画像処理技術)によるデータ処理を行い、すべての海域をくまなく計測することなく、効率的に100mメッシュの詳細な海底地形図を作成する予定です。
詳細な海底地形図が完成すれば、水産資源や気候変動、海底地震、海底資源などさまざまな分野の調査・研究に役立ちます。海底探査技術開発プロジェクト「DeSET」の取り組みにより、みちびきの高精度測位が海底地形図作成に大きなイノベーションをもたらそうとしています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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