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[実証2023-6] ファンリード:MADOCA搭載ドローンのインフラ点検への活用に向けた性能評価実証

2024年10月07日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、2023年度に株式会社ファンリードが実施した「MADOCA搭載ドローンのインフラ点検への活用に向けた性能評価実証」の取り組みを紹介します。
同社は、ベトナムにおけるドローンを使った送電線の点検で、みちびきのMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)の活用を検討し、その性能評価を行いました。同プロジェクトについて、同社DXパイオニア事業部の岸耕一氏と宮西弘己氏、経営企画部 広報チームの督永千晶氏に話を聞きました。

取材写真

左から岸氏、宮西氏、督永氏

ファンリードは以前からみちびきのMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)に注目しており、2019年度にもみちびきを利用した実証実験に参加して、マレーシアにおいてMADOCA-PPP対応受信機を搭載したドローンを使った植物観測システムの実験を行いました。

今回、送電網の点検に取り組んだ理由を、岸氏は次のように説明します。
「インフラ点検の分野は、ドローンを使ったビジネスとしてマーケットが大きく、ベトナムで課題となっている送電網の点検に測位インフラ未整備地域でも高精度測位が可能なMADOCA-PPPを活用できるかを試したいと思いました。農業分野の場合、観測する農地は概ね2次元的であり対象作物の位置推定は比較的単純ですが、送電網のようなインフラ構造物は3次元的な広がりを持っており対象部位の正確な位置推定は複雑になります。また、送電線の観測にあたってはドローンの接近可能な距離に制約があり、MADOCA-PPPのドローンによる送電網点検への有効性を検証しました」(岸氏)

ベトナムでは近年、経済成長によって電力需要が増えてきました。しかし一方で、電源や送電網の開発が進まないことや、既存の送電網の老朽化や不備によって送電の電力損失率が改善されないことなどが要因となって、電力不足が大きな課題となっています。そのため国営企業として電力事業を担うベトナム電力総公社(EVN)は、送電網の点検を効率化させるためにドローンの活用を開始しています。

図版-1

ドローン点検における課題

ドローンによる送電線の点検では、まず搭載カメラで送電線を撮像し、得られた画像から送電線の損傷や溶損、断線、キンク(よじれ)、撚り戻りなどの異常を検出し、異常のある送電線を識別して位置を記録します。鉄塔間には一般的に十数本の送電線が張られており、ドローンから送電線を撮像した場合、多くの送電線の一部しか視野に捉えられず、画像だけを見て異常が検出された送電線を特定するのは困難です。また、ドローンからでは、異常箇所の大まかな位置を推定することしかできません。
そこで今回は、MADOCA-PPPによってドローンの位置を高精度に把握することで、並行する複数の送電線から異常が発生した送電線を的確に識別し、さらに異常箇所を1m強の精度で推定できるかどうかを検証しました。

図版-2

提案するソリューション

送電線モックアップ

ハノイ市内に送電線モックアップを設置

ファンリードは、自社の業務パートナーであるジオインサイト合同会社と、ベトナムのスタートアップ企業であるMAJとの三者の共同により今回の実証事業を行いました。
MADOCA-PPPに対応した受信機は、コアのCohac∞ Ten+をメインとして使用し、三菱電機が提供する低価格型受信機のプロトタイプ(MAD-Win)もオプションとしてデータ取得を実施しました。
また、MADOCA-PPPとの比較のためにMAJのドローン搭載受信機(u-blox (MAX-M10S)を使用)を一般的なGNSS受信機としてデータ取得・分析を行いました。
現地パートナーであるMAJは、ベトナム・ハノイ市内での送電線簡易モデル(モックアップ)設置、同社のドローン:CG-10へのMADOCA-PPP関連機材の搭載や送電線簡易モデル(モックアップ)の作成、観測実験などを行いました。実際の送電線ではなくモックアップを使ったのは、ドローン飛行中の接触リスク等の安全面、また模擬異常箇所の設置容易性を考慮した結果です。

受信機を搭載したドローン

ドローンにMADOCA-PPP対応受信機と高分解能RGBカメラを搭載

MAJのドローンには、MADOCA対応受信機に加え、送電線を撮像するための高分解能RGBカメラ(GDUのPDL-300)、さらにVisual SLAM(V-SLAM)用にドローン直下の映像を記録するカメラ(GoPro HERO9)も搭載しました。
V-SLAMは、撮像した地面の動きからドローン搭載カメラの視線方向を補正するために活用され、実運用時にドローンが風の影響で揺れた場合等の補正を行うものです。

V-SLAM用カメラ、Cohac∞ Ten+、MAD-Win

ドローンに搭載したV-SLAM用カメラ(左)、コアの受信機Cohac∞ Ten+(中央、画像提供:株式会社コア)、三菱電機の受信機MAD-Win(右、画像提供:三菱電機株式会社)

図版-3

今回の実証事業におけるドローン観測システム

送電線のモックアップは、ベトナムのハノイ市街地の空地に設置しました。高さ3m程度の4本のポールに、約10mの長さの送電線を模擬したロープを3本渡したもので、実際の送電線と同じように、ある程度のたるみを持たせた状態で線を張りました。ロープ間の距離は水平方向が約3m、垂直方向が約2mです。3本のうち中央のロープには異常個所を模擬したマーカーを3mおきに3カ所取り付けました。
実験は、2023年10月と2024年1月の2回にわたり実施しました。

モックアップの上空を飛行するドローン

実験実施状況

実験前の準備として、事前にMADOCA対応受信機によりモックアップ各部の測位を行い、モックアップの3Dモデルを作成しました。実験では、ドローンをモックアップのロープに沿った方向に飛行速度、及びカメラからロープまでの距離を変化させながら飛行させ、動画を撮影しました。

図版-4

モックアップのロープに沿ってドローンを飛行

実験によって得られた動画からマーカー(送電線の異常箇所)を発見した場合、マーカーが撮像された時刻のドローンの位置情報と、V-SLAMによって得られたドローンの方向をもとに、ドローンのカメラを起点としたマーカーの向き(視線ベクトル)と、カメラ・マーカー間の距離を算出します。この算出結果に距離がもっとも近いロープにマーカーがあると推定することで、異常箇所(マーカー)のある送電線(ロープ)が3本の内のどれなのかを識別すると共に、異常箇所の詳細な位置を検出できる仕組みです。
実験の結果、MADOCA-PPPとV-SLAMを活用することによりドローンによる送電網点検において安全を確保できる約30mの距離からの観測で、
1)水平方向に3m、垂直方向に2m離れた複数の送電線を的確に識別可能
2)異常箇所の位置を1m強程度の精度で推定可能
であることが実証できました。
また、通常のGNSS受信機の測位結果を用いた場合、送電線識別精度は10%未満であり、実用上不可能であることが確認されました。

ファンリードは、今後もMADOCA-PPP対応ドローンによる送電網点検ソリューションの実用化に取り組んでいく方針です。今年度は、同社のベトナムにおけるみちびきを利用したドローン送電網点検ソリューション調査が、経済産業省の「令和5年度補正グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(我が国企業によるインフラ海外展開促進調査)」事業に採択され、「ベトナム国/“みちびき”を利用したドローン送電網点検ソリューション調査事業」を実施することになりました。
2025年度にはドローン撮像画像からAIを活用した異常箇所を自動検出サービスと組み合わせたソリューションの部分的な市場投入を目指しています。

同社はMADOCA-PPP対応ドローンを適用できる分野として、送電網以外に橋梁や風力発電所などの点検に注目しており、マングローブの保全・植林などにも活用できると考えています。
「ベトナムは都市部以外では通信網が整備されていないエリアが多く、RTK(リアルタイムキネマティック)測位が使えないので、EVN(ベトナム電力総公社)もMADOCA-PPPに期待を寄せています。日本が提供するユニークなサービスであり、ポテンシャルもあります。今後のビジネス化に向け、対応受信機やアンテナの小型化と低価格化が進んでほしいと期待しています」(岸氏)

取材に対応する岸氏

岸氏

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※記事中の画像・図版提供:株式会社ファンリード(個別に出典を記載した画像を除く)

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

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