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イームズロボティクス、みちびきCLAS対応の農業散布ドローンを開発

2020年10月19日

農薬や肥料の散布を始め、蒔種、受粉、農産物運搬、生育状況や病害虫発生の監視、鳥獣被害対策など、ドローン技術は農業分野でのさまざまな活用が期待されています。こうした農業用のドローンに、みちびきの高精度測位を活用する取り組みが始まっています。
福島市に本社があるイームズロボティクス株式会社はこのほど、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターと株式会社日立システムズと共同で、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)に対応した農薬散布用ドローン「エアロスプレーヤーAS16」を開発しました。

一度の飛行で2ヘクタールへの農薬散布が可能

AS16

AS16の機体。右側は、アームを折り畳んだ状態

AS16は、みちびきのL6信号に対応したGNSS受信機を搭載した農薬散布用ドローンです。機体サイズはモーター軸間180cm、最大離陸重量48kgと大型ですが、6本のプロペラアームと散布ノズルアームを折り畳めるため、軽トラックなどの荷台に積載して運搬できます。
イームズロボティクスはこれまで、一般的なL1対応GNSS受信機を搭載した農薬散布ドローン「エアロスプレーヤーAS5 II」を提供してきました。AS5 IIのペイロードは5kgで、最大5リットルのタンクを備えていますが、今回発売したAS16のペイロードはその4倍となる約20kgで、16リットルもの農薬を搭載できます。農薬散布用ドローンとしては最大級の大きさで、散布飛行時間は最大20分となり、一度の飛行で2ヘクタールの面積に農薬を散布できます。

風間氏

イームズロボティクスの風間氏

AS16の測位方式にみちびきのCLASを採用した理由を、イームズロボティクスの風間有氏(東京支社・農業機担当)に聞きました。
「ドローンによる農薬散布でもっとも懸念されるのは、自動飛行中に衛星測位の誤差によって隣りの圃場に薬剤を散布してしまうことです。また、測位精度が高い方が、大型の機体でもより安全に着陸できます。実際に行った着陸時の精度検証では、風の影響などで数cmとまではいかないものの、約10~20cmという精度の高さを確認できました。この精度であれば農薬散布で十分利用できるので、CLASを採用しました」(風間氏)

高精度測位を採用するに当たってRTK方式(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)ではなく、みちびきのCLASを採用したのは、基準局を設置する必要がなく、山間部の圃場では携帯電話の電波が届かない可能性があり、ランニングコストが不要であることなどが理由です。

範囲指定だけで自動的にフライトコースを生成

AS16は、みちびきのL6信号に対応したCLAS用アンテナと、L1信号対応アンテナの2つを搭載しており、マゼランシステムズ製のCLAS対応マルチGNSS受信機に接続しています。
「社内で既存の農機に後付するCLAS対応の自律走行ユニットを開発しており、AS16にもその技術を転用したため、開発はそれほど難しくはありませんでした。ただ、地上走行車両と違いドローンは空中を飛行するので、圃場の環境や時間帯によってL6の受信が不安定になるとL1の位置情報へ急に引っ張られる場合があり、そうした際に機体の制御が不安定にならないよう調整しました」(風間氏)

2アンテナを搭載

CLAS対応(左)とL1対応(右)の2アンテナを搭載

フライトコントローラーはHEX社製の「Pixhawk2.0」を使用しており、飛行ルートの設定にはオープンソースソフトウェアの「Mission Planner」を元に独自開発した専用ソフトを使用しています。タブレットに表示された地図上で圃場の範囲を指定するだけで自動的にフライトコースが生成されるので、ドローンの離陸から飛行中の農薬散布、着陸に至るまで自動で制御できます。
また、機体には高度測定用の気圧計に加えてレーザーレンジファインダーを搭載しており、地面との距離を測定することで、高精度な対地高度維持が可能です。この点を風間氏は、「農薬散布を行う場合は、農水省の指針で飛行高度が決められており、高さ方向の精度を向上させるために追加のセンサーを設けました」と説明します。

圃場の上空を飛行するAS16

圃場の上空を飛行するAS16

将来は5G対応により遠隔地での制御も可能に

データ通信機能は4G LTEにも対応しており、モバイル回線経由で機体パラメーターなどの情報を遠隔地から確認できるほか、将来的には遠隔地からドローンを飛行させることも検討しています。
「現在は4G LTE対応ですが、将来は5G対応も視野に入れています。AS16にはカメラを搭載していませんが、今後、航空法などの改正が進めば、遠隔地からカメラで監視しながらスイッチ一つで農薬散布を行えるようにすることも検討しています。遠隔地からドローンを制御するには測位精度が高いほうが信頼性が増すので、CLASの重要性は一層高まると思います」(風間氏)

AS16

AS16

同社は、農薬散布以外にも、物資運搬や施設・設備点検、災害対応などの分野でCLAS対応のドローン開発を検討しています。今年度は、みちびきを利用した実証事業公募にも「みちびき+LTEのダブル高精度測位によるドローン物流システム」のテーマで採択され、実証実験の準備を進めています。
「今後、CLAS対応のアンテナや受信機の小型軽量化が進めば、AS5 IIのような小さい機体にも取り付けられるようになります。CLAS対応農薬散布用ドローンはまだそれほど普及していないので、低価格化による市場の拡大を期待しています」(風間氏)

AS16の発表後、同社には農薬散布事業者や農協などから問い合わせが寄せられているそうです。AS16は受注生産で、今年(2020年)中の発売を予定しています。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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※ヘッダ及び本文中の製品画像提供:イームズロボティクス株式会社

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