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[2021実証-1] 東京海洋大学:情報化施工に向けたGNSS基準点及び精密測位に関するみちびき利用の基礎実証

2022年07月11日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、2021年度に基礎実証として東京海洋大学が実施した取り組みを紹介します。
東京海洋大学の久保信明教授(海事システム工学科)は、2021年度の実証事業において、1)情報化施工における移動体でのCLAS及びMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)の性能評価、2)MADOCA-PPP及びCLASを活用した基準点位置決めの精度検証、3)3D地図及び魚眼カメラによる衛星選択の有効性検証、の計3件の実証を行いました。

久保教授と東京海洋大の学生たち

久保教授(左)と実証事業を担当した東京海洋大の学生たち(右写真、左から尾関君、小林君、金森君、吉住君)

情報化施工における移動体での性能評価

今回の実証では、実際に清水建設株式会社が施工を行う現場で、盛り土作業の連続運用中に建設残土が廃棄された場所などを測位することで、CLAS及びMADOCA-PPPによる測位位置の安定度を把握する性能評価を実施しました。

重ダンプ(超大型ダンプカー)の運転席の天井の上にNovAtel製GNSSアンテナ「GPS-703-GGG-HV」を搭載し、位置情報を取得しました。CLASはセプテントリオのAsteRx4、MADOCA-PPPはu-bloxのF9Pを使って実施し、RTK測位(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)の結果もレファレンス位置として使用しました。
なお、MADOCA-PPPは、補強データをGPASからネットワーク経由で取得し、後処理で位置を算出しました。その結果、CLASのFIX率は100%と良好で、水平方向の誤差は約4cmに収まりました。一方、MADOCA-PPPは、安定している時間帯では10数cmの誤差に収まりました。

実験に使用した重ダンプ

実験に使用した重ダンプ

重ダンプの上部に設置したアンテナ

重ダンプの上部に設置したアンテナ

CLASについて久保教授は、「盛り土などがあり、完全にオープンスカイとは言えない環境においても、良好な測位結果が得られました。上空がある程度開けた場所で使用するのであれば、RTKの代わりとして十分に使えます」と高く評価し、最近受信機メーカー各社から低価格のCLAS対応受信機が発売されている状況と併せて、今後のCLASの普及に大きな期待を示しました。また、MADOCA-PPPも、特に海外において今回の実証で活用された基準点位置決めなどの用途に必要とされる技術として注目しているとのことです。

実証実験に参加した清水建設株式会社の鳴海智博氏(フロンティア開発室 宇宙開発部 主査)も、「土木の建設現場は通信できない環境が多く、何とかWi-Fiや5Gを構築してもなかなか安定しません。今回、CLASを使って、通信量を大幅に減らせる点などに現場に立ち会った者も大変感銘を受けていました。国内、海外を含めて現場では内容によってRTKほど性能が必要ない部分もあり、CLASをどんどん投入して、RTKが必要な場所では基準点として使うとか、いろんな使い方が想定されると思います」と話してくれました。

MADOCA-PPPとCLASの基準点位置決め

建設業界の施工では高精度基準点の設置が不可欠であり、一方、電子基準点などの整備が十分でない東南アジア諸国でこうした測量を行う場合、測量基準点の数が少なく、古い国家座標系を用いているため、測量の整合性を得るのが難しい点が課題となっています。
これを解決するには、基準点を地球固定座標系により正確に管理するのが有効であり、今回の実証において久保教授は、みちびきを使って高精度な基準点位置を得る方法を検討し、その精度を検証しました。
「きっかけは、清水建設からの相談でした。東南アジアでは測量の環境がいま一つ整っておらず、PPP(高精度単独測位)による位置決めの精度を検証したいというのです。PPPなら誰が測位しても同じ基準で位置を決められます。既に機器を設置しているフィリピンと日本の両方で実際に実験して確認してみようと考えました」(久保教授)

今回は建設現場での実証のほかに、日本及び海外にてMADOCA-PPPの基準位置決め精度の評価を行う実証も実施しました。測位方式はグローバルな基準点位置の決定という観点からMADOCA-PPPを採用し、国内の東京海洋大学と、マニラにあるフィリピン大学の2カ所で実施しました。
受信機はu-bloxの「F9P」で、両大学それぞれの研究室の屋上に受信設備を設けました。グローバル測位サービス株式会社(GPAS)の補強データをネットワーク経由で取得し、RTKLIB(測位ソフト)を用いて測定しました。基準点の位置決めの可能性を検討するという目的のため、精度は24時間の平均値で検証しました。測定は2021年9~11月の3カ月間実施し、期間中に特に大きな精度の変化は見られませんでした。

東京海洋大学では水平方向で約2cm、高度方向は約4~6cmの誤差、フィリピン大学では経度方向に約5cm、高度方向に約10cmの誤差が見られ、フィリピンでの結果は国内よりやや劣るものの、10cm程度に収まる良好な結果となりました。

MADOCA-PPPによる測位結果(東京海洋大学)

MADOCA-PPPによる測位結果(東京海洋大学)

MADOCA-PPPによる測位結果(フィリピン大学)

MADOCA-PPPによる測位結果(フィリピン大学)

実証ではマゼランシステムズジャパン株式会社の受信機「MJ-3008-GM4-5QZS」も使用しましたが、F9Pはこれと遜色のない測位結果となり、低コスト受信機のF9Pでも十分に代用可能であると分かりました。また、東京海洋大学の屋上ではセプテントリオのCLAS対応受信機「AsteRx4」の評価も行いました。3月4~10日の一週間、24時間平均値の変動を検証したところ、水平方向においてFIX解の24時間平均値が1cmを超えることはなく、FIX率もすべて98%以上という結果でした。
「海外でも非常に良好な測位結果を示し、MADOCA-PPP及びCLASが実用的に十分使えると確認できました。CLASに比べてMADOCA-PPPは収束時間の長さが課題となっていますが、建設現場での基準点位置決めの用途においてはそれを気にする必要がなく、最適な使い方だと思います」(久保教授)

3D地図と魚眼カメラの衛星選択の有効性

建設現場は常にオープンスカイの環境とは限りません。今回の実証では、マルチパス環境下においても良好な測位結果を得るために、3D地図及び魚眼カメラを利用して測位地点周辺の建物など電波を遮断する障害物の情報を取得し、直接波のある衛星を選択することで測位精度が向上するかどうかを検証しました。

魚眼カメラで撮影した画像に衛星軌道配置をトレース

魚眼カメラで撮影した画像に衛星軌道配置をトレース

検証を行ったのは2021年10月で、使用した受信機はセプテントリオのAsteRx4。u-bloxのF9Pを比較対象として使用し、RTK測位も行いました。測位は、オープンソースのソフトウェアライブラリ「RTKLIB」と「CLASLIB」を使い、それぞれ後処理で実施しました。
衛星選択について、まず魚眼カメラの場合、撮影した画像に衛星軌道配置をトレースすることで利用可能な衛星を選択しました。3D地図では、地図上で確認できる測位地点周辺の建物など、電波を遮断する障害物の情報を取得した上で、直接波を利用できる衛星を選びました。3D地図は、国土交通省が無償で公開した「PLATEAU」と、NTTインフラネット株式会社が提供する2種類の3D地図を利用しました。検証は東京海洋大学構内第二実験棟と第三実験棟の間に位置する場所で行いましたが、ここは2つの建物に挟まれたマルチパス環境となっています。

マルチパス環境下で測位

マルチパス環境下で測位

実証に使用したアンテナと受信機

実証に使用したアンテナと受信機

魚眼カメラや3D地図を利用した結果は、衛星選択をしなかった場合に比べ、CLASとRTKのいずれも大幅にFIX率が高くなりました。しかも、3D地図により衛星選択をした場合における「大きな誤差を取り除いたFIX率」を見ると、CLASの結果はRTKに匹敵する精度であることを確認できました。

3D地図や天頂カメラによる衛星選択の有効性検証

3D地図や天頂カメラによる衛星選択の有効性検証

今年2月には、東京海洋大学周辺を走るコースで、テスト車両にCLAS対応受信機とLidar(レーザースキャナー)を搭載して走行し、GNSSアンテナから周囲の建物までの距離を測定しました。これに3D地図を組み合わせることで、利用可能な衛星数を予測するシミュレーションをしたのです。

3D地図と衛星軌道情報をもとに直接波のある衛星を時系列で抜き出し、その衛星数によりCLASが有効であるかを判断するもので、実際に現地でCLASを使った場合にFIX解を出せそうな位置が事前に分かるかを検証しました。その結果、FIX解が得られる率は72.4%(高架下を除く)となり、このコースでは平均して約70~80%のFIX解が市販受信機で得られるため、シミュレーションでの結果に近いと確認できました。

車両上部にLiDARを設置

車両上部にLiDARを設置

「実証で、魚眼カメラや3D地図による衛星選択はCLAS測位に有効だと確認できました。この技術は、将来は静止状態だけでなく移動体においても使える可能性があります。たとえばMMS(モービルマッピングシステム)などで測量する際に、あらかじめ走行するルートを指定した上で、サーバー側で3D地図をもとに使用する衛星をシミュレーションし、その情報を車両へリアルタイムで送信すれば、測位精度の向上に役立てられます」(久保教授)

基準点不要で、通信量を大幅に削減

久保教授は最後に、みちびきへの期待を次のように説明しました。
「国産の衛星測位システムがこのように運用されているのは、安全保障の観点からもすばらしく、この先もずっと維持し続けてほしいと思います。CLASとMADOCA-PPPは、基準局が不要で通信量を大幅に削減できるところが大きなメリットで、携帯電話回線やWi-Fiなどを利用しにくい建設現場において、重機や作業員、構造物などの位置管理や制御に活用できる可能性がとても高い。また、通信量の削減は省電力化につながり、太陽光発電などで動作すれば低コスト化やSDGs的な貢献もできます。そのためにもみちびきのCLASとMADOCA-PPPを皆で上手く育てていきたいと思います」

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

※記事中の画像・図版提供:国立大学法人東京海洋大学、清水建設株式会社

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