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タイでみちびきを使ったマイクロEVの自動運転実証実験

2020年06月01日

車載機器の専門商社である東海クラリオン株式会社は、みちびきを利用したマイクロEV(小型電気自動車)の自動運転実証実験をタイで実施しました。これは、2019年度みちびきを利用した実証実験公募に「MADOCA PPP高精度位置情報を使ったマイクロEV自動運転の実証実験」(東海クラリオン株式会社、株式会社アジア・テクノロジー・インダストリー、国際航業株式会社、アジア工科大学院、チュラロンコン大学)として採択されたものです。
この実証実験の概要について、実験をとりまとめた村田典義氏(elpis株式会社 東京本社 部長)と、協力して実験に当たったタイを拠点とする技術ベンチャーの株式会社アジア・テクノロジー・インダストリー(ATI)代表の長尾朗氏のお二人に話を聞きました。

安全で安価な自動走行制御システムを目指す

elpisの村田氏

elpisの村田氏

東海クラリオン株式会社は、通信機能を備えたドライブレコーダーなどを組み合わせたADAS(運転支援)システムを構築し、名古屋市交通局を始めとする運輸事業者に納入してきた実績があります。
「当社は独自ブランド(elpis)を立ち上げ、安全運転・安全運行につながるドライブレコーダー・ADAS・カメラシステムを提供しています。このビジネスを展開する上で、大手自動車メーカー・部品メーカーとは競合しない分野に乗り出す必要があると考えていました。そんな折にマイクロEVの可能性を語る長尾さんを知り、当社の技術資産を活かせる分野でもあると考え、みちびきを利用した実証事業に応募したのです」(村田氏)

TX2000

みちびきに対応した2カメラ接続対応のドライブレコーダー「TX2000」

タイを拠点に技術ベンチャー・ATI社を立ち上げた長尾氏は、本田技研で衛星測位や自動運転制御の開発に関わり、みちびきの高精度測位にも通じています。ATI社のターゲットの一つであるマイクロEVの可能性についてこう語ります。

「パワーが制限されスピードが出せないマイクロEVは、大手自動車メーカーが手がけないニッチな分野です。しかし低速ならば自動制御の難易度は下がり、走行区間を決めてしまえば障害物検知もラクになります。日本では住民の高齢化が進む新興住宅地が2,200カ所もあると言われていますが、マイクロEVの弱点とみなされる部分を逆手にとることで、そうした場所で暮らす人々の日常の足にできるような、安全で安価な自動走行制御のシステムの構築が可能となります。その実現には、高精度の衛星測位が鍵になると以前から考えており、実証の機会を探っていました」(長尾氏)

ATIの長尾氏

ATIの長尾氏

将来の高齢化に向けた移動手段と想定

実証実験をタイで行った理由はどこにあるのでしょうか。長尾氏にタイの地の利について説明してもらいました。
「タイと聞くとバンコク市内の交通渋滞を思い浮かべる方がいるかもしれませんが、われわれのマイクロEVはその渋滞に突っ込んでいくものではありません。郊外に整備されつつある公共交通機関の駅と住宅地を結ぶ移動手段であったり、近未来のスマートシティ内での移動手段としての用途が想定されており、将来的には日本と同様、高齢化などの社会課題に直面するであろうと考えているタイ政府も注目する分野です。幸いなことに、高度な技術人材が輩出するアジア工科大学院やチュラロンコン大学との密な連携、タイの政府機関である地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)の協力などを背景に、実験と改良のサイクルをスピーディーに動かせる環境が得られています」(長尾氏)

実験コース

実験コース(黄色線が走行ルート)

2月にタイで行われた実証実験では、アジア太平洋地域への展開等を想定し、みちびき2~4号機のL6Eチャンネルで送信されている、実証実験向けのセンチメータ級測位補強信号を活用した高精度単独測位(MADOCA)が使われました。仰角が一定となる、みちびき3号機(静止衛星)からの信号を主に受信する設定とし、ルートはGISTDAの敷地内で、国際航業株式会社が作成した高精度地図を使用しました。

自動運転システムの概略

自動運転システムの概略

車両の屋根に前後2台のGNSSアンテナと受信機2機(マゼランシステムズジャパン製)を搭載。この2台を電子コンパスとして利用するほか、MADOCAによる高精度測位も5Hzで行い、位置・方位・速度のデータに独自の処理を行うことで、自己位置認識を行い、正確な走行制御につなげました。
「実証実験に向け用意していた車両が洪水で流されてしまい、チュラロンコン大の協力で別の実験車を急きょ準備するなどトラブルもありましたが、実証実験そのものは上手くいき、自動走行に十分な精度が得られることを確認できました」(長尾氏)

HDマップ

実証実験のデータを基にHDマップを作成した

また、MADOCAでは一般に30分前後が必要とされる初期FIX(高精度測位が成立する)までの時間は、システム立ち上げにかかる準備の時間に埋もれてしまい、建物や樹木などで補強信号が一時的に途絶えてから再開するまでの再FIXの時間も、低速(20km/h前後)で走行するため特に問題にはならなかったといいます。東海クラリオンとATIでは、さらに実験を重ね、システムの完成度を高めていきたいとしています。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文中の画像・図版提供:東海クラリオン株式会社、株式会社アジア・テクノロジー・インダストリー(ATI)